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第12話 閑話 領主の選定

「——国王陛下、ルドルフ・フォン・スレイドお呼びにより只今参上いたしました」


 東の国境付近を治めているスレイド伯爵は国王よりの至急の呼び出しに応えて王城までやって来ていた。国王と関わることが少ない自分が突然呼じ出された理由は何だろうかと悩みながら城内に入ると、謁見の間ではなく国王と宰相しかいない会議室に案内された。


「ご苦労であった。急な呼び出しすまぬな」


「勿体無いお言葉でございます」


「……フリーデン伯爵家の事は既に聞いておるか?」


「……はい、本人から報せがありました。王国を出ることになった。もし領民に害が及ぶ場合があれば頼むと」


 国王からフリーデン伯爵家の事を聞かれて悔しそうな、申し訳なさそうな、何とも言えない表情をしたスレイド伯爵、その姿を見た国王はもしやと考えて問う。


「そうか……そなたレオン・フリーデンと親しい間柄なのか?」


「現……いえ、元伯爵家当主のレオン・フリーデンとは学園時代の友人でした。卒業してからは領地が離れているため直接会って話す機会はありませんでしたが……」


 レオンとルドルフは共に学園で切磋琢磨したライバルのような関係だった。

 ルドルフは学園入学当初、フリーデン伯爵家の者との接触は出来るだけ控えようと考えていたが、レオンの勤勉さ、誠実さに心をうたれ友となった。共に王国のため民のために働こうと誓い合った仲である。


「そうであったか…」


 やはりこの者に任せるのがいいかもしれないと国王は思った。あのレオン・フリーデンが友人と認めていたのだ。信用出来るだろうと。

 国王の中でレオンへの信頼は大きくなっていた。剣を突き付けられ、王国を出て行ってから信頼するとはおかしな話ではあるが、建国当初のフリーデン家についても国王は自ら調べた。そして自分がどれだけ愚かであったのかと思い知ることになった。



「実はそなたの一族の者にフリーデンが治めていた領地を任せたいと考えている」


「……あの土地をですか?」


「ああ、勿論何の支援もなしに領主をしろとは言わん。フリーデン領はさやにその領地を広める。そして王国軍の中から常駐する兵士も送ろう、他にも必要な支援は行う」


「……少し考える時間を頂いてもよろしいでしょうか?」


 フリーデン領は帝国との国境沿いにある。そして北方には魔の森があり、強大な魔物が度々現れるためあの土地はフリーデン家だからこそ治めることが出来ていたといっても過言ではない。

 いくら国王の言葉といえど、おいそれと返事をする訳にはいかない。そう考えたスライド伯爵は一度退室して一人で考えさせて欲しいと願い出た。



「よかろう……だが出来るだけ早く頼む。あまり時間をかけられないのでな」


 国王に許可をもらったスレイド伯爵は一旦会議室から退室して別室に案内された。そして国王から提案されたことについて考え始めた。

 自分が知る中でフリーデン領を治めることの出来そうな者は直ぐに思い付いた。

 だがあのような危険な土地にその者を送りたくはないという思いがあった。しかしフリーデン領はエルドラン王国にとって極めて重要な土地であり、生半可な者に任せられる場所ではない。特に選民意識の強い権力に取り憑かれた貴族たちには——



「彼は良き者を推薦してくれるだろうか?」


 スレイド伯爵が会議室を出て行ったあと、国王は立ち上がり窓の外に広がる王都の街並みに視線を向けながら宰相に尋ねた。


「恐らくは……あの土地がこの国にとってどれだけ重要なのか彼なら分かっているはずです。おかしな貴族に任せるのなら自分が知っている有能な者をと考えるでしょう」


「そうか……あの者、次代を担う者は育っているのか?」


 それを聞いた国王は続けてスレイド伯爵には後継者はいるのかと尋ねた。宰相はその質問の意図が分からなかったがスレイド伯爵についてはあらかた調べがついていたので答える。


「はい……確か二十七歳になる息子がいるはずです、王国軍で鍛えた後、領地に戻ったとか。中々の切れ者だという評判です」


 それを聞いた国王はテーブルに座ると目を瞑り何かを考え始めた。そして何かを決断したように短く息を吐いた。


「よし、例の件、彼に任せるのはどうだろうか?」


「……スレイド伯爵を、ですか? ……確かに彼ならば信用できます。良い考えかもしれません」



 ◇



「陛下、私には優秀な弟がおります。私の右腕として今まで尽くして貰いましたが、弟ならばその役目に適任ではないかと」


 国王たちが待つ会議室に戻ったスレイド伯爵は自分が最も信頼を置いている者を領主に推薦した。それは自身の右腕として働いている弟エストであった。本当ならば自領に留まって欲しかったが、フリーデン領を治めるに相応しい者が他に思い浮かばなかったのだ。


「そうか……ではそのように頼む。それと……そなたには軍務大臣の地位に就いて貰いたい」


 自分を軍務大臣にと言う国王の言葉を聞いたスレイド伯爵は目を見開いて驚く、しかし軍務大臣には自分が最も嫌う貴族の一員である侯爵がその地位にいるはずだと疑問に思う。


「軍務大臣……ですか、それはコリンズ侯爵が務めていたのでは?」


「ああ……奴は解任した。……我は気付いたのだ奴等に踊らされていたのを、そなたなら私が言いたいことが分かるであろう」


 踊らされていたという言葉を聞いたスレイド伯爵は目を見開いた。そして俯いて僅かに肩を震わせた。


「……それではこれからこの国は」


「そうだ、在るべき姿に戻す。協力してくれるか?」


「……お任せください陛下」


 目を瞑り返事をするルドルフ。

 万感の思いがこみ上げていた。


(遂にこの日が来た)


 長年、国王からその言葉が出るのを待っていたのだ。彼の父も祖父もその前からずっと、王国が歪み始めてからも仕えた善良な貴族達も、そしてすでに王国を後にしてしまったフリーデン家の者達も。


 国王と宰相に協力することを決めたスレイド伯爵はより詳しい話をしていく。


 そしてスレイド伯爵はエルドラン国王の意思を重臣である弟、そして後継である息子に伝えこれからの事を話し合う為に急ぎ自らの領地に戻ることになった。



 ◇



「陛下、バレイル様についてなのですが」


「どうした? バレイルは現在謹慎中の筈だが」


 第三王子バレイルは学園に突然やって来たレオン・フリーデン達に捕まり、脅され気絶した所を広場に吊るされている所を市民から通報を受けた兵士により保護された。


 目が覚めた後、彼は自分を辱めたフリーデン家への怒りですぐ父である国王の元へ行き、彼等を逆賊として討伐して欲しいと願い出た。


 しかし、国王の答えは……自分の望んでいたものではなかった。


 それは自室での謹慎、学園に行く事も許されず、「なぜこうなったのか考えろ」と言われ罰を受ける事になった。


 そして部屋で謹慎している間に父が自分を侮辱したレオン・フリーデンを捕まえようとし、そして謁見の間で暴れて父である国王に剣を向けたという話を聞いてさらに戸惑った。


 どこに自分が罰を受ける必要があるというのか?


 それどころか逆賊であるフリーデンの血を王家に入れるのを未然に防いだことを褒められるべきではないのか、そう考えていた。



「はい、殿下は現在も謹慎中です。気になったので調べたのですが、バレイル様にフリーデン家令嬢の悪い噂を吹き込んだのは、奴等の一族の者であると分かりました」


「何? 今回の原因になったフリーデン家令嬢との婚姻の破棄、学園からの追放はバレイルの暴走だと考えていたが、ここでも関わっていたのか!!」


「暴走には違いないと思いますが、恐らく彼等は陛下にそれを進言してもらい婚約をなかったことにしたかったのでしょう」


「……そうだな」


「ですが陛下、王子という立場にいる者が確たる証拠もなく周囲の者の話や噂を鵜呑みにするような軽はずみな行動をするでしょうか?そのような教育は受けないはずです。バレイル様の教育を任されていたのはどなたなのですか?」


「……バレイルの教育をしていたのは奴等の推薦した者だ」


「……まさか、いや……そこまでは……第一王子エインス様と第二王子サイルス様は確か現在、隣国へ勉学に行っているとか」


「ああ……奴等からの勧めでな…そういえばエインスとサイルスも彼等が教育係りを務めていた。だが息子達が色々なことに口を出し始めてな……それで……」


 そこまで言い考え込み黙る国王。



「陛下、失礼を承知で言わせていただいてよろしいでしょうか?」


「……よい、言え」


「彼等は自分達が操りやすい王を作りたかったのではないでしょうか?」


「……ああ、そうかもしれん。今思えば奴等はエインスとサイルスを隣国へ行かせてから妙にバレイルを次期国王に押すようになった」


「今回、王家と伯爵家の間で正式に成された婚約を勝手に破棄したバレイルには疑問を持っていたが……そういう事か……まさか、そこまでしていたとは……」


「陛下、私もここまでの者達だったとは思いませんでした……」



「——私もだ」


 国王が呟く。


「……」


 その言葉に何が言いたいのかを理解し宰相は何も言う事が出来ず黙り俯いた。国王の表情を見ていられなかったのだ。悔しいような、悲しいような、怒っているようなその表情を。



「私も、幼い頃、奴等の父等から教育を受けていた……やはり私も奴等の操り人形だった訳か……」


 自分が側近の貴族にとって只の操り人形であった事をハッキリと確信して頭を抱える。まだ何処かで彼等も目を覚ませば良い貴族になれるのではないかと考えていたのだ。



「陛下……ここから、ここからは変える事が出来ます! フリーデン家の者達から最後の機会を貰ったではありませんか?」


 両手で顔を覆い悲嘆にくれる国王にまだ間に合う、これから変えていけば良いと伝える。


「……そうだ……そうだな、初代国王陛下よりの忠臣から貰った最後の機会……無駄には出来ぬ。宰相……私はあらゆる点で未熟だが……支えてくれるか?」


 自分自身に訴えるように呟いた国王は自分の目を覚まさせてくれた宰相に尋ねる。すると宰相はこれまでにないほど真剣な表情で答えた。


「勿論でございます」


「頼むぞ……私が今までにこの国に出来たことはそなたを宰相に任命したことだけだな……」


お読みいただきありがとうございますm(_ _)m

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