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第117話 不機嫌と歓喜

「——機嫌が悪そうだな」


 商人についての詳しい話は宿に戻ってからということなので今回の依頼についてマクスウェルさんに話していると、マクスウェルさんは後ろを振り返った。そこには不機嫌そうな表情を浮かべたメアの姿があった。


「あの男は始末しておいた方が世のためではないかと」

 

 物騒なことを言うメア。

 前にも同じようなことを言っていた気がする。

 マクスウェルさんはそれが面白かったようで楽しそうに笑った。


「ハッハッハ、違いない。お嬢至上主義のお前がよく我慢したじゃないか」

「ミレイが事を収めようとしているのに私がそれを台無しにするわけにはいきませんから」

「そうか、それにしては殺気を抑えられていなかったけどな」

「それにすら気付かない愚鈍な男だったので」


 どうにも怒りが収まらないようでメアは先程の男を罵倒し続ける。貴族に連なる者はああいった者が多いため、私としてはあまり気にしていないのだが、フリーデン家に仕えてきたメアからすればやはり許せないのだろう。


「そこの白いのを見習えよ。ユキの背中で居眠りしてやがったぞ」

「キュイ」


 急に話題に上がったルルは顔を上げた。

 そういえばやたらと静かだった。


「多分あんな小物にお嬢を害することは出来ないと認識してたんだろ。よく出来たおチビだ」

「キュウ!」

「おっと、悪い悪い。お前の名前はルルだったな。馬鹿にしたわけじゃないから許してくれ」


 マクスウェルさんがそう言うとルルは『ったく、仕方ねぇな』とでも言うような態度でまたユキの背中で横になった。


「ところでネイナも一緒だったんじゃないのか?」

「ネイナさんはお祭りを楽しみにしていたようで、先に行ってしまいました」

「そうか、まあ猫人族は祭りが好きだからな」


 呆れたようにマクスウェルさんは言った。

 彼女の目的はあくまでも魚ですけどね。

 あれだけの活躍をしてくれたのでこの街でどのような行動をとろうが文句はない。言う立場にもないですが。


「よく帰ってきたな」


 宿に戻るとアレク兄様たちが笑顔で私達を迎え入れてくれた。心なしか普段よりも笑みが深い気がする。きっと目的の商人を見つけることが出来たからだと思う。


「ただいま戻りました。依頼は無事に成功しました」

「そうか、よくやったな」

「今回はほぼネイナさん一人で達成したようなものです。それよりも進展があったそうで」

「ああ、マク兄が良い商人を見つけてきたんだ。私もまだ会ってはいないがマク兄が良い商人と言うなら間違いないと思っている。あれでも人を見る目はあるからな」

「あれでもとはどういう意味だ?」


 アレク兄様の言葉に納得がいかないようでマクスウェルさんは眉をひそめる。しかしマクスウェルさんを庇う言葉は聞こえて来ることはなくクスクスと笑い声が聞こえてきた。


「そのままの意味だよマク兄。まあ、こちらの希望通りに事が進むとは限らないが、商人なら金になる話を逃すような真似はしないだろう。間違いなく向こうにも利益があるだろうからな」

「この国の商人なら間違いないな」


 この国の商人が儲け話を蹴るはずがない。私もそう思う。懸念すべきは他の商人から妬まれること。利に目ざとい貴族が手を出してくる可能性があること。後者についてはこちらで何とかするはずだ。前者については武力的な援助は出来るが交渉ごとなどについてはマクスウェルさんが選んだ商人の力量が試されることになるだろう。何でもかんでも私たちが手伝うことはあってはならない。あくまでも対等でなければ関係はあっという間に崩れてしまうだろうから。互いに利益があるということが商人と付き合う上で最も重要だ。


「そう願おう。それで、そっちはCランクになれそうか?」

「どうでしょうか? 冒険者になってそれほど経っていないのでなんとも。依頼の達成数と難度はそれなりだとは思うのですが」


 Cランクともなれば冒険者では頼りにされる存在だ。それなりに難度の高い依頼はこなしてきたがそう簡単になれるとは思えない。依頼数だけでなくギルド員たいの心象も大事になってくるはず。横柄な態度はとっていないため心象はそれほど悪くないと思うが、人の心は読めない。


「それなら私からギルドに推薦しておいたから大丈夫だと思うわよ」

「推薦、ですか?」


 難しいかもしれないと考えているとレイラさんが思い出したように声を上げた。推薦とはどういう意味だろうか。


「ええ、ランクアップする方法はいくつかあるんだけど、高ランク冒険者からの推薦という方法もあるの。もちろん、実力のない冒険者をランクアップさせるのは無理だし、推薦した冒険者が何かやらかしたら推薦者の責任が問われるけどね」

「それは、良いんでしょうか?」


 良い話だとは思う。

 そうすればこの国ですべきことはほぼ完了となる。

 だけどレイラさんたちに迷惑をかけたくはない。あまり認めたくはなあけど私は自分がトラブルメーカーという自覚があるから。迷惑をかけないと自信を持って言うことなんて出来ない。ついこの前もこの国の貴族と問題を起こしそうになったばかりだから。


「貴方たちなら問題ないわよ。アレクなんてエルザ様の息子だけあって私よりも強そうだし、そのネイナって子もマグナスより実力がありそうだしね」

「おい」

「事実でしょう?」

「まあ、な。はあ、ここは化け物ばかりで自信がなくなるな」

「村に行ったらもっと凄い人達がいますよ」

「はぁ」


 マグナスさんは深いため息をついた。

 村に行けば確かにもっと強い人達がいる。

 お父様、お母様、セバス、それに兄様たちもいる。他の兵士、いや村人の皆さんも普通とは言いがたい人たちばかりだ。本来であればBランクの冒険者なんてそうそう会える存在じゃない。一般人なら一生会う機会もないかもしれない。そんな存在があちこちにいる私たちの村は異常かもしれない。


「商人が見つかったってことはエルザ様に会えるってことよね。エルザ様を射止めたレオン様にも会ってみたいしね。強いんでしょうレオン様って?」

「ああ、化け物だよ」


 アレク兄様が笑みを浮かべて返事をする。

 父親を化け物と表現するのはどうかとは思うけど、いち武人として答えるならやはり化け物と表現してしまうかもしれない。まあ、いずれそこに届くであろうアレク兄様も十分に化け物なのですが。


「ああ、待ち遠しいわ。闘ってくれるかしら?」


 それを聞いてマグナスさんたちはため息をついた。気苦労が絶えないことを窺い知ることが出来る。お父様だったらきっと相手をしてくれると言うと、まるで誕生日を迎えた少女のように嬉しそうに笑った。


「ああ、そうそう。お嬢がまたちょっかい出されてたぞ」

「ちょっかい?」


 その言葉に兄様が眉をひそめる。


「あれは貴族の部下だろうな」

「……ミレイ、何があったか説明しなさい」

「ユキを買いたいと言われて、それで断ったら権力をチラつかせてきたんです」

「ほう、我々に権力をチラつかせてくるとは良い度胸だな」

「ふふふ、あんた達に喧嘩を売るなんて間抜けな貴族もいたもんだね」

「本当だな。俺だったら尻尾巻いて逃げるな。変なプライドより命の方が大事だ」

「そうだね」


 アレク兄様は目が笑っていないけど他の人たちは楽しそうに笑っている。貴族と敵対するなんて何があっても避けたいと思うのが普通だが、皆さんは全く怖くないようだ。それどころか楽しんでいるようにも見える。自分たちが負けるはずがないと確信しているのだろう。私にはまだその自信はない。


「ただいま戻りましたにゃ!」


 爪楊枝を加えたネイナさんが満足げな表情をしながら帰ってきた。どうやら目的のものを満足いくまで食べることが出来たらしい。心なしかお腹が膨らんでいるように見える。


「おいネイナ、お前がいない間にお嬢がまた変なのに絡まれてたぞ」

「にゃんと!!」


 驚いたネイナさんは口に咥えていた爪楊枝をポロリと落とした。


お読みいただきありがとうございます。

間が空いてしまったので主要な登場人物以外を思い出せません。困った。

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