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第11話 斥候の担い手

 フリーデン領の北東にある森に入ってから何度か魔物と戦うことになったが危機的な状況に陥ることはなく順調に進んでいる。


 この辺りはもうエルドラン王国領内ではないはず、ついに私達は祖国を離れたということだ。やはり寂しさは感じるがこれから向かう先は私のルーツというべき場所、楽しみでもある。


「——レオン様、この先は沼地……道を誤れば死に至ります。偵察に行ってもよろしいでしょうか?」


 馬車が進める道を探しながら進んでいると斥候兵だったシスイさんがお父様の元に馬を走らせて偵察の必要があると進言した。


「そうだな……今は昔よりも沼地が範囲が狭まったというが足を取られた場所で魔物にでも襲われたら危険だ。それに今からでは沼地を越えるまでに日が暮れてしまうだろうしな、休めそうな場所を見つけたらそこで一時待機して慎重に道を探そう」


 どうやら偵察を行ってから沼地に入る事にするようだ。確かこの辺りの沼は底なし沼として有名だったはず。帝国の兵士達がここを抜けようとしてその多くが亡くなったとか。自然の罠が張り巡らせられた地ということだ。


「——ではレオン様、行ってまいります」


「待てシスイ、一人で大丈夫か? 他の誰かと一緒の方が良いのではないか?」


「……いえレオン様、私の能力はご存知のはずです。偵察には一人の方が安全です」


「……そうだな。頼むぞ、無理だけはするな」


「はい、お任せを……」


 やはりシスイさんが一人でこの先の沼地を探索しに行くようだ。ここから先はより危険な場所のようなので心配になる。


「お父様、シスイさんだけで大丈夫でしょうか?」


「ああ、奴は斥候兵の中でも突出した能力の持ち主だ。狼人族としての能力も斥候に向いている。そしてその動きの速さで敵に存在を気付かせずに戦う。偵察では単独で動くのが得意なのだ」


 獣人の方がそれぞれ種族ごとに優れた能力を持っていることは広く知られている。

 力が強い者、耳が良い者、嗅覚が鋭い者など様々、学園にも犬人族の友人がいた。生まれつきの運動能力や体格は人族は敵わない。シスイさんはその中でも特に優秀ということなのだろう。お父様が信頼を置くほどなのだから。



「……お待たせしましたレオン様」


 シスイさんは日が落ちる前に帰ってきた。姿を見る限り怪我をした様子はない。安心して胸をなでおろす。


「ご苦労だった。どうだ、進めそうな道はあったか?」


「……はい、少し遠回りになりますが馬車も通れそうな道を発見しました。魔物の気配もなく安全だと思われます」


「よくやってくれたシスイ、よく休んでくれ」



 ◇



「では行こうか、シスイ先導を頼む」


 偵察に行ってくれたシスイさんの後に続いて沼地を進んで行く。お父様達は馬から降りて興奮する馬達を落ち着かせながら慎重に歩いている。


 私も馬車から降りようとしたがセバスにそのまま乗っていて下さいと言われてしまった。


 どうやら私が降りて歩くのは危険があるようだ。


 シスイさんが先頭に立ち私達を誘導してくれている。辺りはぬかるんでいて不用意に私がここに立ち入ってたら足を取られて動けなくなっていたかもしれない。セバスの言う通りに大人しく馬車に乗っていて正解だった。



「……ここからはより慎重にお願いします」


 土魔法を使い足場を固めながら進んで行く。何やら目印になるような物を同時に作っているようだが次に此処を通る方たちの為だろうか。


 先程の場所と変わらないように見えるが何故シスイさんはここからは慎重に進むと言ったのでしょう?


 そう考えて馬車から身を乗り出し沼地を見てみる。


 すると……



「——こっ、これは」


 シスイさんが進む道から外れた場所に真新しい魔物や動物の死体が沈んでいた。しかし何かに襲われた様子はない。どうやら沼に脚を取られてしまったようだ。


 水も濁っている訳ではなく、むしろ澄んでいるようにも見えるのに。近付いて見るまでこの亡骸には全く気付かなかった。馬達に落ち着きがなかったのはこのためだろう。もしかしたら通常の沼地とは違う何かがあるのかもしれない。


 この魔物達も私と同じようにないでもない場所だと思って油断したために沼に嵌って動けなくなりそのまま死んでしまったのでしょうか……。



「よそ、全員無事に沼地を越えたな」


 慎重に進んだため時間は掛かりましたが何事もなく沼地を抜ける事が出来た。この場所で魔物でも現れたら大変だった。


「シスイ、御苦労だった。全員無事に沼地を越える事が出来たな。この先は緩やかな山道になっているしっかりと身体を休めるように」


 旅の道中で危険なのは魔物だけではないということが分かった。

 セバスが馬車に乗っていて下さいと言った理由はそういうことなのでしょう。

 自然の恐ろしさをまだ知らない私はおそらく理由を聞いていても油断してしまっていたと思う。



 ◇



 夜になり焚き火を囲んで食事を始める。

 お父様たちと話をしながら食事をしていると少し離れた場所で食事をするシスイさんを見つけた。迷惑かとは思ったが昼間気になった事を聞いてみる事にした。


「お疲れ様ですシスイさん」


「……お嬢様」


「あの、質問があるのですがよろしいですか?」

「……私で答えられることなら」


「では、どうしたら上手く気配を消す事が出来るんでしょうか?お父様がシスイさんの気配は自分でも中々気付けないと言っていました」


「……氣をコントロールしています」


「やっぱりそうですか」


 私はまだ氣を上手く使う事が出来ない。やはり地道に訓練を積むしかないようだ。


「……ですが、それだけではありません」


「本当ですか! どうすればいいんでしょうか?」


「……心に波をたてない事です」


「心に波をたてない?」


「……はい、緊張や力みは伝わるものです。気配を消す時には何事にも動じてはなりません、何事も受け入れる事が大事です」


「なるほど」


 確かに緊張している人を見ると何となく分かる。

 それは魔物も同じということか。だが何事にも動じないというのは難しそうだ。私は自分の感情のコントロールするのがあまり上手くはないから。今回このようになったのだってそれが原因であるともいえる。



「……自分の出来ることをしっかりと把握する事も必要です。自分が出来る事と出来ない事を把握する事で無駄な動きを減らせます。無駄な動きは違和感を感じさせますから、だから訓練はとても重要です」


「無駄な動きを減らす」


「……お嬢様は魔物との戦闘を見る限り、鍛錬はよく積んでいるようなので、今は多くの実戦を経験すれば様々な成長が望めるかと」


「そうでしょうか?」


「……自分を知ることです。それが氣をコントロールする事にも繋がります」


「色々な事を教えていただいてありがとうございます。もし良かったらこれからも質問してもいいですか?」


「……構いません。お好きな時に何でも聞いて下さい」


 色々と教えてくれたシスイさんにお礼を言ってお父様たちの元に戻る。そして食事を続けながら先ほどの教わった事を思い返す。


 今はシスイさんの言っていた通り実戦をこなして成長していこうと思います。急に強くなることなどありませんから。



 ◇



「シスイがあんなに長々と話すのを見たのは初めて見たな」


 シスイはまだ二十二歳という若さだが、落ち着きがあり口数も少ない。

 偵察兵だった時は一人でいる事も多く、必要以上に人と接するタイプではなかった。

 しかしその能力は確か、旅路においてレオンたちの役に立つのは間違いないと判断され選ばれていた。


「父上……まさかとは思いますが、シスイは……ミレイを狙っているんじゃ……」


「……何?まさかそんな事は……ちょっと言っておいた方がいいと思うか?」


「ちょっと貴方達、あんまり余計な事するとミレイに嫌われるわよ」


「……そうか…今…は様子見しておこう」



「全く、今までミレイは貴族として振舞おうとしてたからなかったけどね、もう貴族じゃないんだから……そのうち反抗期が来るかもよ」


「馬鹿な……ミレイに限ってそんな事はないだろう、なっお前達!?」


「「「あり得ませんよ」」」


「そのうちお父様もお兄様も嫌い、近づかないで、とかキモいとか臭いとか「……それ以上は止めてくれエルザ」


 エルザが言葉を重ねていくごとにレオンやアレクたちの顔色が悪くなっていく。ミレイからそう言われた際のことを想像したらしい。そして我慢出来なかったレオンはエルザを止める。


「ふふ、冗談よ。大丈夫、良い子に育ってくれているわ」



  ◇



「シスイがあんなに話すの見たの初めて見たわ、ティナ、貴女彼の幼馴染なんでしょう?昔からあの様な感じだったのですか?」


「無口だからね、私とも最近はあんなに話さないよ。小さい頃は明るかったけど…十二年前に流行病で家族を亡くしてから一人でいる事が多くなったの」


「……レオン様のお母様が亡くなられた時の……申し訳ありません聞いては悪かったですね」


 十二年前、エルドラン王国内で病が流行し大勢の人々が亡くなった。フリーデン領にも流行病は広がりを見せ、その際にはミレイの祖母も病に倒れ、帰らぬ人となってしまった。


「いいの、彼誤解されやすいから、この旅の仲間なんだし知っておいた方がいいと思う。フリーデン家って孤児院の支援に熱心でしょう? レオン様ご自分も大変なのにその時流行病で孤児になった子供達を励ましに来られたらしいの、だからフリーデン家の役に立ちたいって小さい時から頑張ってたわ」


「そうなのですか……」


 一見すると何を考えているのか分からないシスイだがそのような熱い想いがあってフリーデン家に仕えているのだと知り言葉を詰まらせる。


「亡くなった家族に年の離れた妹さんがいたからミレイ様を妹さんと重ねているのかもしれないね」


「では良い方なのですね、わたくしからも話してみようかしら旅の仲間ですし」


「お願いね、話しかけたら応えてくれるから」


「フリーデン家の為に努力して今そのお役に立てているなんて彼は今とても幸せなのかもしれませんね」


「そうね、この旅を機に彼が変わっていってくれたら嬉しい」


 ティナは優しげな視線を一人離れて周囲を警戒するシスイに向け夜空を見上げた。この旅が彼に良い影響を与えてくれることを願いながら。


シスイの種族設定を狼人族に変更しました。性格などは変わっていないので、耳と尻尾がついたと思って下さいm(_ _)m

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