第102話 加わる者達
「落ち着いてくださいレイラさん、私達はもう貴族ではないので臣下になられても困りますよ」
興奮して臣下になるというレイラさんを落ち着かせるためにもう貴族ではないので臣下になられても困ると伝えます。
「えっ、そうか、そうよね。だけど村に住んでいるってことは……エルドラン王国内ではないだろうし、商王国内でもそんな話は聞いたことがないから、どこの国の領土でもない場所に作ったってこと?」
「ええ、そんな感じです」
「よし、臣下にはなれなくてもそこに行くわ。皆んなも伝説の夫婦に会いたいでしょう?」
「それは……まあのう」
「私もミレイが言っていた弓の達人に会いたいし」
「俺は別に「よし決まりね。で、さっき言っていた仕事っていうのはいつ終わる予定なの?」
レイラさんが他の皆さんもお父様とお母様に会いたいだろうと問うとルネインさんやフールさん、それにグラストさんは頷きました。そしてマグナスさんが何かを言おうとしたところでレイラさんが決定と言うとマグナスさんは大きくため息をつきました。
「多分あと二ヶ月と少しぐらいだな」
「ふーん、この面子でそれだけ掛かるってことは討伐系の仕事じゃないみたいだけど、私達も協力出来ることがあったらするわよ」
「……」
レイラさんが兄様たちが行なっている仕事の手伝いを申し出ると兄様やマクスウェルさんは互いに見合いました。この街のことをよく知るレイラさんたちに手伝ってもらえれば商人探しが捗るのは間違いないと思うのですが、そう考えて兄様の答えを待ちます。
「確かにここで活動しているAランク冒険者に手伝ってもらうことが出来れば早く仕事を終えることが出来そうだが……」
「曲がりなりにもレイラはエルザ様の弟子だ。信用は出来るぞ……これでちょっと仕事が楽になるかも」
「聞こえたぞマク兄……まあ確かにミレイの命の恩人で母上の弟子、それに実力ある冒険者だ。手伝って頂こうか」
兄様がレイラさん達にも手伝ってもらおうと言うとレイラさんは喜んでいました。そんなレイラさんを見てマグナスさんは再びため息をつきました。なるほど、こういった感じに振り回されているのですね。マグナスさん達は苦労しているようです。
「よし決まりね。何の仕事をしているの?」
「俺たちは今信用出来る商人を探しているんだ」
レイラさんが仕事を内容を聞くとマクスウェルさんが信用出来る商人を探しているのだと説明を始めました。
「商人?」
「ああ、村の発展には欠かせないからな。村は魔の森近くにあるから商人に売れる物も沢山ある。商人にとってもかなりの利益をもたらすことが出来るはず、だが国に知られるのはもう少し村の体制を整えてからにしたい。だから信用出来る商人を探している」
「なるほど、どんな商人がいいの?」
「出来るだけ貴族と繋がっていない者がいいな」
「ああ、商王国と喧嘩したエルザ様にエルドラン王国から離反したフリーデン家が関わっていたら良からぬことを考える貴族がいそうだものね」
「ああ、まだ出来たての村だ。争いを持ち込みたくはない」
「分かったわ。この国に詳しい私達が手伝えば二ヶ月も掛からないでしょう。そうすれば早くにエルザ様に会えるし」
どのような商人を探すのが良いのか詳しく聞き始めたレイラさん、彼女の言う通りロンドールに詳しいレイラさん達が手伝ってくれれば二ヶ月掛からずに信頼出来る商人が見つかるかもしれません。
私もその前にCランク冒険者になれるように頑張らないと。
「ミレイとメアはまだ傷も癒えていないんだ。もう寝なさい」
皆さんの話を聞いていると兄様にあまり遅くまで起きていると傷に障るから寝なさいと言われました。もう少し話を聞きたかったのですがこれで傷の治りが遅くなったら依頼が受けれない期間が延びてしまうので仕方がありませんね。
「しかし片付けが」
「それくらい私達がやる」
メアは食器の片付けが気になったようですがそれも兄様達がやるので寝ろと言ってくれました。
「えっ、俺も?」
「ああ、もちろんマク兄にも手伝ってもらう。だからお前達は休んで傷を癒すんだ」
マクスウェルさんはやりたくないようですが兄様はやらせるみたいですね。マクスウェルさんが黙っていればおそらく兄様やネイナさんがやったでしょうけど。
「……マジかよ」
「マク兄、昔よりも面倒くさがりになったのね」
「……」
レイラさんが面倒くさそうな顔をしたマクスウェルさんに声を掛けると渋い顔をして黙りました。昔の自分を知っている人からそう言われると思うところもあるのでしょうか?
◇
翌日、下に降りるとレイラさん達が当たり前のように朝食を食べていました。私が最後のようでマクスウェルさんも既に朝食を食べています。
「あっ、ミレイ。私達もここで厄介になることになったから宜しく」
どうやらレイラさん達もこの宿で暮らすことになったそうです。一緒に住んでいた方が情報収集も捗るからでしょうね。
「宜しくお願いします」
「すまんなミレイ、逃げられたら困るとリーダーが言い出してな」
頭を下げるとマグナスさんが申し訳なさそうな顔をしながら謝って来ました。どうやらレイラさんの提案らしいです。
「今のマク兄ならやりそうだから、それにこの方が情報の伝達も早いだろうしね」
「儂等は大歓迎じゃぞ、人が沢山いた方が賑やかで楽しいからな」
どうやらマクスウェルさんが自分たちを置いて逃げ出すのではないかと考えたようです。マクスウェルさんら「信用がねえな」と言って渋い顔をしました。ヨハンさんとロナさんは人が増えて嬉しいようです。宿屋をやっていた当時はもっと沢山の人がいたでしょうからね。
「ミレイ達は数日は依頼を受けなくていい。身体を癒すことに集中するんだ。街を歩くぐらいなら構わないが危ないことはしないように」
私とメアは依頼をするのを禁止されてしまいました。討伐依頼はもちろんするつもりはありませんでしたが何か出来そうな依頼があるかもしれないと思っていたので残念です。
「……はい」
部屋に戻りメアに傷の確認をしてもらうとやはりゼルウルフから受けた背中の傷にメアが塗り薬を塗ってくれました。
「ふう、このままではミレイの傷は残ってしまいそうです。何とか元の状態は戻したいのですが……」
「仕方ないわ。私達はもう冒険者、傷とは一生付き合わなければならないし」
「ですが……」
冒険者なのだから多少の傷が残るのは仕方がないと思うのですがメアは綺麗に直して欲しいようです。
そうだ、良いことを思い付きました。
「だったらパラケルさんの所に相談しに行きましょうか、お医者さんだし何か良い方法を知っているかも」
「パラケルさんですか……あの男は少し変わっているので心配ですが……そうしましょうか」
パラケルさんに相談しようと言うとメアは少し渋い顔をしましたが一緒に行く事になりました。ルルは自分の家でのんびりとしていたいそうなので今回はお留守番です。
「すいませーん、パラケルさーん」
パラケルさんの家に向かいドアを叩くと壊れてしまいそうなので大きな声で呼びます。すると暫くしてパラケルさんが現れました。
「おや、これはミレイさん。何やら危ない事に巻き込まれたそうで、無事で何よりです」
どうやら私達が囮にされた事をパラケルさんも知っているようです。
「よくご存知ですね?」
「昨日街はその噂でもちきりでしたからね。シーナとジャンが心配していましたよ」
「お二人が……後で会いに行かないと」
どうやらシーナさんがパラケルさんに教えたようです。前も噂についてシーナさんが言っていましたが噂が流れるのは早いですね。
「ところでお二人は何をしにここへ?」
「えっと、背中に傷を負ってしまったのですが良い薬は無いかと思いまして」
「なるほど、包帯を巻いて痛々しい姿をしておいでですしね。分かりました。傷跡を残さない、よく効く塗り薬をお渡ししましょう」
背中に傷を負ってしまったと言うとパラケルさんは家の中に戻り暫くすると塗り薬の入ったビンを渡してくれました。
「ありがとうございます」
「お代の方はどれ位になりますか?」
「貴重な薬を配合した物になるので銀貨一枚になりますが大丈夫ですか?」
「はい、もちろんです」
これだけの量ならこれからも使えますし、この傷跡が消えるようなら安いものです。
「また何かありましたらご相談を、医師として私に出来ることなら手を尽くしますので」
「ありがとうございます。では失礼します」
パラケルさんの家を後にしてから心配していたらしいのでシーナさんとジャンさんの屋台に向かいます。
「ミレイちゃん! 噂になってとは言ったけどこんなに早くに心臓に悪い噂にならないでよ! そんなに傷だらけになっちゃって!」
シーナさんは私達の姿を見ると慌てた様子で屋台から出て来てそう言いました。
「ごめんなさい、まさかこんなに直ぐに噂になるような事が起こるとは思っていなくて」
「もう、心配したんだから」
「すいません、でもパラケルさんに傷薬をもらったのでもしかしたら傷跡も残らないかも」
「そう、もしも傷跡が残ったらパラケルを締めても良いからね」
医者だと名乗っているんだから女の子の傷も治せないようならボコボコよと話すシーナさん。目が本気なので冗談で言っている訳ではないようです。
「いやいやそんな」
「メアちゃんも傷だらけだし、そういえば今日はルルがいないわね?」
ふと何かに気付いた様子のシーナさん。
いつも私の肩に乗っているルルがいない事に気付いたようで聞いてきました。
「その、ルルもまだ体力が戻っていないので宿で休んでいるんです」
「ルルまで!? そういえばルルも戦うって言ってたわね……ジャン、ルルが早く治るように唐揚げを作ってあげて」
「おうよ」
ルルも戦うことは以前も言ったのですがあまり信じてはいなかったようです。見た目が可愛らしいので仕方がありませんね。
「正義の薔薇はもう終わりだよ。なんて奴らなんだい女の子を囮にするなんて、あいつらのファンだった人達も愛想が尽きたみたいさ」
「そうなんですか」
「冒険者ってのはこの国で重要だからね。国も今回の件に興味があるって噂もあるよ」
国に興味を持たれるのは困ります。私達が商人を探しているのを知られては困りますし、二十年以上前の事とは言えお母様の件もありますから。
「あまり国とは関わりたくないです」
「まあそうだろうね。でも興味があるのは被害者ではなくて加害者みたいだから大丈夫だと思うけどね。ほら、揚がったみたいだ。持って行きな、今日はお見舞いだからお金は要らないよ。いつも買ってもらっているからね」
「ありがとうございます」
ルルの為に唐揚げをもらった私達は市場で食料を見てから宿に戻ることにしました。すると宿の前にはマントを着た男性と思わしき方がいました。
「あれ、もしかして……シスイさん?」
更新遅くなり申し訳ありません。年末はやはり忙しくこれからもこんなペースになるかもしれませんが投稿していきますm(_ _)m




