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第101話 母の昔話

「これこれ、積もる話もあるみたいじゃが、せっかくの食事が冷めてしまう。食べながら話すとええ」


 レイラさんがお母様とマクスウェルさんの知り合いだと知って話が盛り上がっているとヨハンさんが苦笑しながら料理を勧めました。


 そうでした。今日は紅蓮の華の皆さんと食事をするためにお呼びしたんでした。


「そうですね。ヨハンさんとメアは料理が凄く上手なんです。召し上がってください」


「では、ご馳走になります」


 皆さんは一旦話をやめて料理を食べ始めました。すると声を揃えて美味しいと言って次々に用意されている料理を食べていきます。


 いつも二人の作ってくれる料理は美味しいですが確かに今日の料理は別格ですね。ずっと横になっていたルルも食事をし始めると起きて美味しそうに食べています。


 美味しい料理の話で盛り上がり、食事を終えたころにに気になっていたことを聞いてみることにしました。


「お聞きしたいことがあるんですが」


「ん、何?」


「お母様はこの国で何をしたんですか?」


「それは——」


 お母様がこの国で何をして死んだことになったのかがどうしても気になったの質問してみました。


 するとレイラさんは話そうか悩んでいる様子でマクスウェルさんの方を見ました。

 それにつられてマクスウェルさんの方を見ると面倒くさそうな表情をしてから大きくため息をつきました。



「ああ、仕方がない。俺から話そう。別にエルザ様から絶対に話すなと言われている訳ではないしな、あれは二十年以上前——」


 当時、エルザは商王国トルネイでAランク冒険者として活動しており、様々な依頼を楽々とこなしていずれはSランク冒険者になるだろうと言われていた。


 その美しい容姿と敵には容赦しないことから【殲滅姫】と呼ばれ、男達からは高嶺の花、女達からは尊敬され憧れられた。妬まれることも多々あったが本人は気にしていなかった。


 Aランク冒険者として忙しく依頼をこなしていたエルザはある時、商王国の大貴族からの依頼を受けた。その依頼は難なく成功してエルザが報告に戻るとその場には大貴族の後継が同席していた。


 後継は美しいエルザに一目惚れをして自分の物にしたいと考える。既に結婚して子供もいた後継だがエルザに自分の妾にならないかと誘った。


 相手が大貴族の後継ということで言葉を慎重に選びながらエルザはそれを丁寧に拒否し、何事もなく済んだに思えた。しかし大貴族の後継はエルザを諦めることはなく何度も何度もしつこくエルザを誘った。


 そしてある時、大貴族の後継は人を雇い無理やりエルザを連れ去ろうとした。だがAランク冒険者であり次期Sランク冒険者と目されるエルザに勝てる筈もなく撃退される。


 無理やり自分を連れ去ろうとしたことは気にもしなかったエルザだが襲撃者が逃げる際に小さな女の子に怪我を負わせたことに激怒。


 逃げる襲撃者の一人を捕まえて指示を出した者を特定しそのまま大貴族の家を襲撃、そこに仕え、雇われていた百を超える騎士や冒険者全員を薙ぎ倒し、何故このような事態になっているのか分からないまま襲撃して来たエルザを罵る大貴族がうるさかったようで首元を掴んで投げ捨て、権力があれば何をしても良いと勘違いしていた後継を誰かも分からないほどボコボコにしてから周りに被害が出ないようにして大貴族の屋敷を完全に破壊した。


 エルザがやり過ぎなのは間違いなかったが原因が貴族側なのもまた間違いなかった。しかし相手は商王国トルネイの大貴族家、怒りが収まらない大貴族は国王にエルザの討伐を依頼、それを聞いたギルドマスターはSランク候補を失うのは国の損失であり大貴族の後継が事の原因だと訴えたが国王でも大貴族の怒りを抑えることが出来ずに秘密裏にエルザを討伐する事を承認、まさに一国と喧嘩をすることになったエルザだが本人はやる気満々だった。


 しかし弟子だったマクスウェルがエルザを説得して何とか全面戦争になることなく商王国トルネイを去ることになった。


 追っ手が何度もやって来て、エルザが危機を迎えることもあったが何とかそれを撃退しながら旅を続けていた。


 そんなある日、商王国で親しくしていた冒険者がエルザの様子を見に来たらしくその冒険者に自分の髪を切ってこれを国王と大貴族に見せて死んだことにしてくれと頼んで今に至る。


 ちなみにマクスウェルはエルザがやり過ぎないようについて行き全てを見ていたのだが怖くて止めれなかったそうな、当時の彼はまだ純粋で若かったのだ。仕方がない。



「「「……」」」


 あまりの話に一人を除いて私達は声を失いました。レイラさんは目をキラキラさせながらマクスウェルさんの話を聞いては歓声を上げて喜んでいます。


 そして自分の知らなかったことを話し始めると納得したように頷きました。


「国から出る理由までは察しがついていたけど、死んだっていう話が出た経緯はそういうことだったのね」


「……大貴族ってもしかしてバスディ家のことですか?」


「ああ」


 マグナスさんやこの国で暮らしている方々は大貴族とは誰のことを言っているのか察しがついているようで恐る恐るマクスウェルさんに確認をとりました。


 その質問にマクスウェルさんが短く肯定すると皆さんは黙りました。


「……ミレイの母上は凄いな、国と喧嘩しようとしていたのか。そういえばバスディ家の屋敷が一夜で崩れ去ったという話を聞いたことがある。理由は謎だって聞いていたがまさかそんなことがあったなんて」


「……確か現在のバルディ家の当主は二十年前に病気になった兄に変わって弟が務めていると聞いているわ」


 知りたくない真実だったのかマグナスさんとルネインさんは遠い目をしてどこかを見ています。


「……母上、そんなことをしていたのか、バスディ家と言えば隣国までその名が届く名家中の名家、商王国の宰相や大臣を何人も輩出した家柄だ」


「……お母様」


 バスディ家とはこの国にそこまで詳しくない私でも聞いたことのある大貴族です。そんな大貴族の後継をボコボコにして国と喧嘩しようとしていたなんて……それは隠しますね。というよりよくぞお母様を説得してくれましたマクスウェルさん。


 そんなことばかりあったからマクスウェルさんは面倒くさがりになってしまったのかもしれません。


 本当に御免なさい。


 そしてありがとうございます。



「凄い話じゃな、そう言えばそんなこともあったが国の転覆を企む輩の仕業だという話になっておったわ。まさにこの国の歴史上の出来事の中心人物がミレイちゃんの母上ということか」


 ヨハンさんもその出来事は知っていたようで驚いて顎が外れそうになっていました。お母様はこの国の歴史上の出来事を起こしていたんですね。ヨハンさん達やこの国の方がお母様のことをあまり覚えていないのは事の原因となったバルディ家が後継がお母様を手に入れるために襲ったという醜聞を広めないようにしたからでしょうか?


 ……あれ、そういえば私を含めたフリーデン家も似たようなことをしていたような気がします。伯爵家一家揃って国を出るというおそらく世界中でも初めての出来事を。


 チラッと兄様を見ると同じことを考えていたのか兄様と目が合いました。


 私達はしっかりとお母様の血を受け継いでいたようです。



「そういえば、エルザ様はこの二十年間どこに居たの? エルザ様ほどの冒険者だったらどこに居ても噂が流れてきそうなのに何の噂も聞こえてこなかったから本当に死んでしまったと思っていたんだけど、ミレイたちが住んでいるっていう村にずっといたの?」


「「「……」」」


 今度は私達が無言になる番です。


「どうしたの? 言えない話しなら無理にとは言わないけど」


 命の恩人でありお母様の弟子でもあるレイラさんに隠し事はしたくないのですがあまり多くの人に聞かせられる話ではありません。特に自分の身を自分で守れないと思われるヨハンさんとロナさんには……


「……儂らにはちと荷が重い話しのようじゃ、そろそろ寝ることにしよう。メアちゃん悪いが片付けは任せても良いかな?」


「任せて下さい」


「行こうかロナ」


「はいはい、ではお休みなさい。凄い話を聞けてワクワクしましたよ」


 お二人は気を遣ってくれたようで先に部屋に戻って行きました。申し訳ない気持ちになりますが二人のためには聞かない方が良いのは間違いありません。料理がとても美味しかったと皆んなで言うととても嬉しそうに喜んでくれました。



「これからする話は他言無用でお願いします。大丈夫だとは思いますがもしかしたら命に関わるかもしれないので、ネイナさん、家の外に誰かの気配はありませんか?」


「大丈夫にゃ」


 お二人が部屋に入ったのを確認してからネイナさんにこの家の周囲に誰か人がいないかを確認してもらいます。そして確認が取れたから紅蓮の華の皆さんにお母様の、そして私達の話を始めます。


「……お母様はこの二十年間、エルドラン王国で生活していました」


「エルドラン王国? 隣国じゃない、私達も何度も依頼で行ったことがあるけど、エルザ様の話なんて聞いたことないわよ」


「お母様は貴族の家に嫁いだんです」


「貴族の家?」


「はい、エルドラン王国の伯爵位を持っていたフリーデン家に」


「「「……」」」


 貴族の家に嫁いだと言うと皆さんは冒険者が貴族の家に嫁ぐなんて凄いなという反応をしましたがフリーデン家と言った途端、レイラさんを含めた全員が目を見開いて固まりました。


 そして一番最初に元に戻ったレイラさんが口を開きました。


「……フリーデン家ってあの?」


「エルドラン王国の貴族でフリーデン家は一つしかないのでそのフリーデン家だと思います」


「おいおい、フリーデン家と言えばエルドラン王国最強の貴族だろ。あの帝国相手に一歩も引かずにエルドラン王国を守ってきた盾であり矛、しかも最近一族でエルドラン王国を出奔したとか」


「儂は謁見の間でフリーデン家の当主レオン殿が暴れて国王に剣を向けたと聞いたぞ」


「私は双子のようによく似た二人の青年が兵士たちをボコボコにしたって聞いたわよ」


「物凄く強い執事がいたと聞いた」


 皆さん、フリーデン家についてはよく知っているようです。というか私も知らないような事を言っています。お父様と双子のような青年に物凄く強い執事という登場人物はまさにあの時王都に向かったメンバーです。


 謁見の間で国王陛下に剣を向けた?

 何ですかそれは?


 ……いや、とりあえずそこは置いておきましょう。



「……商王国トルネイに喧嘩を売ったそのエルザ様とエルドラン王国最強の一族でそのエルドラン王国に喧嘩を売った当主レオン殿が結婚していて目の前にその息子と娘がいるとか何だそれ」


「……それは軽々と言えないな」


 私達がフリーデン家の者だと知った紅蓮の華の皆さんは驚きすぎたのか悟ったような顔をしています。その中で一人下を向いてプルプルと震えている人がいました。



「凄い! 流石はエルザ様! 貴族嫌いの平民や冒険者でも憧れるあの有名なレオン・フリーデン殿と結婚していたなんて! 」


 それはレイラさんです。

 お母様が生きていただけでなく、フリーデン家の当主であるお父様と結婚していたことにまたまた興奮している様子です。


「しかも商王国トルネイだけでなくエルドラン王国に喧嘩を売るなんてやる事が凄すぎる! 皆んな、私は絶対にエルザ様に会いに行くわ! そして臣下にしてもらうんだから!」


「……言うと思った」


 臣下にしてもらうと言い切ったレイラさんは興奮冷めやらぬ様子、それを見た紅蓮の華の皆さんは諦めたような顔をしてため息を漏らしました。



お読みいただきありがとうございます。次あたりから更新がまたゆっくりになるかもしれませんがお許しをm(_ _)m

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