第100話 再会
「大樹の槍の面々、今回は申し訳なかった」
何やらギルド員さんに指示を出していたヨン爺さんは私達に気が付いてこちらにやって来ると頭を下げて謝ってきました。
「ヨン爺さん……いえ、ギルドマスターさんの所為ではありませんから」
「ヨン爺で構わんぞ。……今回の件は儂らの管理不足じゃ、奴等は他にも何かしているかもしれん」
「それは……」
確かに彼等は躊躇なく私達を見捨てて逃げて行きました。冒険者として普段命のやり取りをしている私達ですが、同じ人を見捨てるにはそれなりの罪悪感があるはず、それなのに彼等には罪悪感を感じた様子がないどころか笑っていました。
もしかしたら彼等は以前に同じようなことをしたのかもしれません。
「ギルドマスター」
「ああ、分かっておる。さて、奴等の所為で仕事が増えてしもうた。この辺で失礼するぞ」
ヨン爺さんはギルドマスターとして彼等の処遇を決めなければならないのでしょう。地位が高そうなギルド員の男性がヨン爺さんに呼び掛けると私達に声を掛けてからギルドの奥へ去って行きました。
「皆さん、今回はお騒がせしました」
それを見送ってからまだ騒ついている冒険者の皆さんにお詫びを言いました。
「お前らもついてないな」
「生きていて良かった」
「くっ、この俺があの時倒していれば」
「いや、お前まだEランクだから無理だろ」
などと皆さん暖かい声をかけてくれました。そしてまた賑やかな雰囲気に戻っていきます。
「レイラさん、皆さん、助けていただいたお礼に今日の夕食をご馳走したいのですが、お時間いただけますか?」
「ん? 依頼をする予定もないし私はいいよ」
レイラさんを始めとした紅蓮の華の皆さんは暫くは依頼を受けるつもりはないそうで食事に来てくれることになりました。
よし、これから食材の調達にいかないと。
「ほら、兄さんは早く仕事に戻って下さい。メアは私と夕食に使う食材を買いに行きましょう」
「え、ああ、分かった」
「そうですね。美味しいものを作らないと」
早く仕事に行かないとダメですよと急かすと兄様はどこか寂しそうに肩を落として信頼出来る商人を探しに行きました。
本当に助かりました。
ありがとう兄様。
「では皆さん、また後でお会いしましょう」
「ええ、後でね。夕食を楽しみにしているわ」
紅蓮の華の皆さんと別れ、冒険者ギルドを後にした私はメアと共に市場に向かうことにしました。メアと話し合いながら紅蓮の華の皆さんが喜んでくれそうな料理は何だろうと考えながら新鮮な食材を探して歩きます。
「ど、どうなったんじゃ?」
「彼等は冒険者ギルドで拘束されました」
食材を買って宿に戻ると事情を知っているヨハンさんとロナさんがどうなったのかを聞いて来たので説明しました。二人は安心したようで大きなため息をつくと「良かった良かった」と言って椅子に腰掛けました。
そして食材を沢山買ってきましたと言うとヨハンさんは腕がなると言って直ぐに調理場に行き、メアもその手伝いに行きました。
そして美味しそうな料理がテーブルに並んで来ると兄様たちが帰って来ました。そしてさっきと同じようにどうなったのかを説明するとマクスウェルさんは「間抜けな奴等だ」と言って笑い、ネイナさんは不満そうな顔をして「逃げたらやれたにゃ」と不穏なことを呟きました。
そんなネイナさんを落ち着かせるために「今日は美味しい魚を買ってきました」と言うと直ぐに機嫌が直ったようでフォークを持って料理の並ぶテーブルの前に座りました。
「これから紅蓮の華の皆さんが来てくれるので失礼のないようにして下さいよ……分かりましたかマクスウェルさん」
料理の準備も終わり紅蓮の華の皆さんを待っている間に失礼のないように注意しておきました。特にマクスウェルさんに。
「何で俺だけに言うんだよ全く……しかしお嬢を助けてくれた命の恩人か、一体どんな奴なんだろうな」
「綺麗な人ですよ。金髪で綺麗な赤い目をしているんです。武器は二本の太刀を使うんですよ」
「ほお、太刀使いか。エルドラン王国ではあまり見かけなかったが、やはり様々な物が集まるこの国にはあまり見かけない武器使いも多いようだな」
紅蓮の華の皆さんの話をしているとドアをノックする音とマグナスさんの声が聞こえました。テーブルの方を見るとメアが準備完了の合図をくれたので後はテーブルに運ぶだけのようです。タイミング良く夕食も作り終えたようなので玄関に行きます。
「ようこそおいで下さいました」
「ああ、皆さん今日はご馳走になります」
玄関を開けると紅蓮の華の皆さんがおり、マグナスさんが最初に挨拶をしてくれました。そして皆さんが中に入ってくるとレイラさんが料理の匂いを嗅いで美味しそうな匂いだと言ってくれました。
私が作ったわけではありませんがヨハンさんとメアの腕は確かですから。皆さんをテーブルに案内するとレイラさんが驚愕の表情をして固まりました。
何だろうと思いレイラさんの視線の先に目をやるとマクスウェルさんも同じように驚いた表情をしていました。あれ、二人は知り合いなのでしょうか?
「そ、その顔、もしかしてマク兄じゃないの!?」
「その呼び方、まさかお前、レイラか!?」
互いの名を呼び合いました。やはり二人は知り合いだったようです。私を含めた他の皆さんは事情が分からないので立ったまま二人の会話を聞いています。
「やっぱりマク兄だ! 連絡もくれないでどこに行ってたのよ! 死んだかと思っていたじゃない! というかマク兄が生きていたということはエルザ様も生きているんじゃないの!? どこよ! どこにいるの!?」
知り合いらしき二人の会話が始まるとすぐにお母様の名前が出て来ました。興奮した様子のレイラさんはマクスウェルさんの胸元を掴むとぶんぶんと前後に揺さぶりました。それをマグナスさんたちが慌てて止めに入りました。以前私と似ている人を知っているようなことを言っていましたがやはりそれはお母様だったようです。
ですがレイラさんはその方は死んだと言っていたはずですが一体どういうことなのでしょうか?
「……お前の性格は変わらないな。めんどくさいから会いたくなかったのに……まさかお嬢を助けたのがお前だったとは」
服を整えたマクスウェルさんはいつも失礼なことを言いました。レイラさんは特に気にした様子もなくパッと私の方を見ました。
「そういえばミレイとの関係って……その顔、もしかしてミレイってエルザ様の娘!?」
「はい、そうです」
「凄い! 似ているとは思ったけど、というか瓜二つだったけど死んだと思っていたエルザ様の娘さんと偶然出会って私が助けることが出来るなんて! これぞ運命、天の采配!」
私がお母様の娘だと言うとレイラさんは先ほどよりさらに興奮した様子で私に近付いてくると嬉しそうに私の顔をじっと見つめると抱き締めてきました。何が何だか分からずになすがままにされています。
「おい、リーダー落ち着け。皆さんが驚いているぞ。俺たちにも分かるように説明してくれ」
「だってこんなことって! ……いや、そうね。突然の出来事で興奮してしまったわ」
マグナスさんのおかげでレイラさんは落ち着きを取り戻しました。やっと椅子に腰を据えてお母様とマクスウェルさんとの関係を話してくれました。
お母様がこの国で冒険者をやっていた当時、レイラさんは父親がロンドールで働くことになったので家族でロンドールに来ることにやったそうです。その移動中に森の中で魔物に襲われ、あと少しで死んでしまう所をお母様に救われたそうです。魔物を瞬く間に倒したお母様に憧れて冒険者を志したそうで少しの間ですがお母様に戦い方を教えてもらったこともあるそうです。
その時既にお母様の弟子だったマクスウェルさんもレイラさんの面倒を見ていたとか、だけど突然この国からお母様いなくなり死んだという噂が流れたそうです。
短い間だったものの弟子としてお母様のチカラを知っていたレイラさんはお母様が死んだなんて信じなかったそうですが、それから二十年以上が経ち流石にもう諦めていたそうです。
「ああ……リーダーがよく話しているあの憧れの冒険者の娘さんがミレイだったのか、まさかそんなことがあるなんてな」
お母様たちとの関係をレイラさんが説明するとマグナスさんたちは納得した様子。どうやらお母様の話を聞かされていたようです。
「ええ、まさか本当に生きていてくれるなんて……というか生きているのよね?」
「ええ、元気一杯です」
レイラさんはお母様が生きているのかと少し不安げに質問してきましたが元気にしていることを伝えると安堵した様子で息を吐き、本当に嬉しそうに微笑みました。
「ああ、良かった。で、どこにいるの? すぐにでも会いたいんだけど!」
「落ち着け、エルザ様はこの国から少し離れた村で暮らしている。それと俺たちは仕事を任されているからまだ案内は出来ないぞ」
「そんな〜、だけど生きていることを知れただけでもいいか。それにしてもまさかエルザ様の子供に会えるなんて、ミレイのお兄さんはアレクさんって言ったっけ、通りで強い訳だわ」
マクスウェルさんがお母様には直ぐに会えないと言うとレイラさんは凄く残念そうな顔をしました。しかし意地悪でも何でもなくこの仕事は私達の村にとって重要な仕事、少なくともこの仕事が終わるまではレイラさんを村に案内することは出来ません。
「いえ、まさか母上のお知り合いだとは。この度は妹を助けていただいて本当にありがとうございます」
兄様はレイラさんに頭を下げるとレイラさんは気にしないでと言いました。顔を上げた兄様の顔をマジマジと見だしたレイラさんは「エルザ様と目がそっくり」と言いました。兄様はお父様似なのですが目がお母様によく似ているそうです。そう言われた兄様は嬉しそうに微笑みました。
「——というかマク兄、冷たいんじゃないの? 生きているなら教えてくれても良いのに」
「お前がまだこの街にいるなんて知らなかったし、それにお前だって知っているだろう、エルザ様が色々とやらかしたのを、あんまり目立ちたくなかったんだ」
お母様が生きていることを早く知らせてくれても良かったのにと憤った様子のレイラさん、本気で怒ってはいないようですが少し寂しそう。
そんか表情を見てマクスウェルさんは面倒くさそうな表情をすると頭を掻きながら理由を説明しました。それを聞いたレイラさんは納得した様子です。冒険者ギルドにもあまり顔を出していませんでしたし何より普段は気配を消してフードを深く被って行動していましたからね。
それにしてもお母様はこの国で一体何をしたんでしょうか?
「まあ、知ってるけど……でもギルドマスターぐらいには話を通しておけばいいのに、そしたら私にも伝わったのに」
「互いに上手くやっているんだからわざわざ知らせなくても良いと思ったんだよ」
そういえばお母様からも何か問題があったらロンドールのギルドマスターを頼れと言われていました。お母様もお世話になっていたということですか。
「全く、薄情者なんだから」
「……お前の性格はどこかエルザ様にいるから黙っていたかったという理由もあるがな」
「ん? なんか言った?」
「……いや別に」
お読みいただきありがとうございます。
やっと100話までたどり着けました。
読んでくださった皆さんのおかげです。
最終話まで書けるよう頑張るのでこれからもよろしくお願いしますm(_ _)m