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第10話 初めての旅

 故郷であるアルドヴァルを旅立って二日、エルドラン王国に仕える以前にご先祖様が住んでいたという土地を目指して今日も馬車に揺れている。


 移動に使っているのは馬と旅の荷を積んだ馬車を二台。今のところ私達の行く手を阻もうとする存在とは出くわしていない。敵対する貴族からの追っ手がやってこないとも言えないため油断することは出来ない。


 それにしても……


「お母様、お尻が痛いです」


「綺麗な街道じゃないからね。慣れるしかないわ」


 目的地への道は綺麗に整えられた街道ではないのでよく揺れる。街道を使えば他の貴族に見つかり無駄な戦闘を行わなければいけない可能性があるため、どうしてもこういった道を進まねばならない。


「申し訳ありませんミレイ様、もう少し揺れないようにしたいのですが」


「いいのよセバス、ミレイはまだ慣れていないだけだから貴方が御者じゃなかったらもっと揺れているわ」


 どうやらセバスが馬を操作して大きく揺れないようにしてくれているらしい。

 馬車に乗るよりも馬に乗る方が慣れているのでそちらの方が良いのだが旅はまだまだ続くため早く慣れなければ。


「お父様、ご先祖様が住んでいた土地は遠いんですか?」


 周囲と景色を眺めているとお父様が馬車の隣に来た。目的地までどれぐらい時間が掛かるのか気になった私は質問してみる。


「そうだな……この先の沼地を越えた先、魔の森の手前辺りが目的地だから数日というわけにはいかないな」


 どうやらこの旅は数ヶ月続くようだ。街道を行くわけではないため自分たちで道を探さねばならないからだ。


 魔の森といえば強大な魔物が多く生息する地域だ。奥深くに立ち入った者で生きて帰ってきた者はいないと言われている。

 何故かは判明していないそうですが奥に行けば行くほど魔素が濃くなっていき、その奥には強大な魔物が住み着いているそうだ。


 魔素が濃い場所は魔物にとって住みやすい環境らしく、人が住んでいる領域にいる魔物の多くはその生存競争に負けた個体やその子孫なのではないかという話もある。多少なりとも棲み分けが出来ていて良かったかもしれない。国を滅ぼすような魔物がいつでも現れるようなら人はこの世に存在していなかっただろうから。


「それにもし国を出なければならない状況になったら行けと伝えられている場所があるのだ」


「そんな所が? 知りませんでした」


「もしもの時の備えだったのだろうな、代々当主を含めた数人ほどにしか伝えないようになっていた。我々はそこを目指している」


 敵対する者に知られないようにするための措置だったようだ。もう随分と年月が経っていますから今はどうなっているのか分からないが今でも安全な土地だと良いのだが。



「父上、日が暮れて来ましたね」


「ああ、今日はこの辺で野営をしよう」


 日が落ちて辺りが暗闇に包まれる前に野営の準備に入る。テントを張り、薪になりそうな枝を集める。食料はかなりの量を持ってきているので問題はない。足りなくなったら後は現地調達することになった。


 兵士だった方がここまで頑張ってくれた馬たちから鞍や馬車を外して餌を与えていたので私もそれを手伝い餌を与える。私の愛馬も今回連れて来ることが出来た。学園に入ってからは中々乗ることが出来なかったので昔のようには懐いてくれないかと不安に思ったがそんなことはなかった。


「疲れ様です、しっかり食べて休んで下さいね」


「バルルゥ」


 私は食事の時に改めて今回私達についてきてくれた方達に改めて挨拶をして簡単に自己紹介をした。

 これから旅をする仲間だ。少しでも知りたいし、仲良くなりたいですから。



「レオン様、我々が交代で見張りをします」


「……いや我らも交代で見張りをしよう、これからは皆んなで協力しなければならない。それにもう貴族ではないのだから様付けで呼ばなくてもいいんだぞ?」


「——そ、そんな事は出来ません! 我々はレオン様を尊敬しています! だからこそ同行させていただいているのです! 貴族だから尊敬していた訳ではありません」


 お父様は私がメアに言ったことと似たようなことを言っている。


「セバスの様なことを言うのだな……今はまだ仕方がないか、今の我々は冒険者のパーティみたいなものだし、私はパーティのリーダーのように思ってくれていれば大丈夫だからな」


 私はまだしもお父様と気安く接するには随分と時間が掛かるでしょう。お父様には自然と頭を下げたくなるような風格がある。それは貴族だったから身についたものではない。


 夜も深くなり、私も見張りをやりたいと言ったがもう少し旅に慣れてからお願いしますと断られてしまった。

 まだ命を預けられるほどの役割は担えないと判断されたようだ。残念だが仕方がない。学園の実習で王都近くの森林で三日ほどの野営をした経験しかないのだから。


 少しづつ色々なことを経験して皆さんの信頼を得ていこうと思う。



 ◇



 日差しを感じて目覚めると隣にお母様の姿はなかった。テントから出ると私以外の方たちは既に食事の準備をしており、出発の準備も整えていた。


 ……私には見張りは早いみたいです。


 食事を済ませると馬たちに鞍を付け、馬車を引いてもらい移動を始めた。背の低い草が多かったのですが数時間もすると辺りには背の高い草木が多くなってきた。時間はかかりますが馬車を走らせることの出来る道を探しながら進んで行く。


 森に入り暫くするとお父様が手を上げて止まるように言った。何故このようなところで止まるのかと疑問に感じて周りを見渡したが特に何もない。


「囲まれているな」


「はい、そのようですね。ですがまだ距離はあるようです」


 お父様とセバスの会話から察するに魔物が迫っているようだが私にはさっぱり分からない。


「全然、見えません」


「ああ、視界にはまだ入ってない。気配を感じているんだ」


「……気配ですか」


 私はまだ上手く気配を感じとることが出来ない。氣を上手く使いこなせないからでしょうか?


「近付いて来る魔物は大した事はないな、この距離から殺気を感じさせるなんて」


 かなり近くに来たようでお父様たちは馬から降りた。私も馬車を降りて棍を構える。お父様たちは近付いて来ている魔物の強さまで分かっているようだ。私はまだまだ未熟ですね。何とか足手まといにならないようにしたいのですが……


 ん?


 まだ木々しか見えないが東側から何かが来るような気がした。それに西側からも同じような気配がしたような。


 あっ、狼のような魔物がこちらに向かってきました。



「今のだミレイ、姿が見える前に魔物が来る方向を見たな、お前は自然と感じてしまうから自覚がないんだよ」


「……」


 分からない、それが私の率直な感想だ。確かに何かが来た様な感じがして後ろを見たが明確に何かが来ると感じた訳ではない。

 命がかかっている場で不確かな感覚だけに頼るのに不安を感じる。やはりまだまだ未熟ということだろう。



「まあいい、今はそのままでな」


「私も戦っていいですか?」


「ああ、今の内にこのぐらいの魔物から慣れていった方がいいだろうしな」


 魔物は私達を取り囲んで一定の距離を保っている。連携して狩りを行う魔物のようだ。闇雲に力を振るう魔物よりも厄介かもしれない。


「ミレイ、出来るなら毛皮に傷を付けないように戦ってみろ」


「はい!」


 お父様からの助言に返事をすると同時に魔物が攻撃を仕掛けてきた。

 一体の魔物が飛びかかってくるがそれを避けながら棍を下から振り上げ胴体を攻撃して吹き飛ばす。思っていたよりも動きは速くない。いや、十分に速いのだが兄様と訓練していたためそうは感じない。


 態勢を崩しながら着地する魔物の足を突き、倒れた所を振りかぶって首元を打ちつけると動かなくなった。どうやら倒すことが出来たらしい。


 狼の魔物はお父様達の言っていた通り、大した強さではなかった。


 周りを見渡すと皆さんは既に戦いを終えており、こちらを見ていた。どうやら私の戦いを見ていたらしい。


「……どうでした?」


 家族に聞いても褒められるだけだと感じた私は近くにいる女性兵士のティナさんとエマさんに感想を求めてみた。


 ティナさんは衛生兵として優秀で活躍していたそうで、金色の髪を肩上ぐらいまでにした髪型の可愛いらしい犬人族の女性。

 エマさんは男性も含めた若手のホープだったという赤髪の長髪が特徴的なカッコいい感じのする美人さんだ。



「……凄いですね。私はお嬢様が戦う所を見るのは初めてでしたがこれほど動けるなんて」


「……私も驚きました。フリーデン家は代々、圧倒的な力の持ち主が多いので凄いのだろうと思っておりましたが、これで魔法もお使いになるなんて、実戦の経験はどれほどあるのでしょうか?」


 精鋭揃いのフリーデン兵士の中で女性の身ながら男性たちと対等に渡り合ってきたお二人に褒められるのは大変嬉しいが私にはそこまで実力はないと思う。



「家では小さい頃からお父様達に練習をしてもらいましたが実戦は、学園に入ってからの実習でゴブリンなどと戦ったことぐらいでしょうか?」


「……実戦の経験はほとんど無しですか……素晴らしい」


「ミレイは私達が基準だからな、自分がどれだけの力を持っているのか自覚がないんだろ」


「まだ負ける気はしませんが、このまま実戦の経験を積めばすぐに追い越されてしまいそうです。それに氣を使っているように見えましたが?」


 氣を使っていると言われて私は思わず首を傾げた。魔力と違って私は氣を自分の思い通りに使いこなせたことがないからだ。


「それも無自覚なんだろう、やはり魔法を使わない時は自然と氣が使えているようだな。才能だけなら私よりあるかもしれん」


 そんな私を見てお父様がそう言った。身内びいきというか何というか、あまり持ち上げられても嬉しくありません。


「私の魔法の素養も受け継いでくれたし、これから強くなるわ。アレク達も油断してたらすぐ追い越されてしまうわよ」


 確かに私は魔法を使うことが出来る。

 カイル兄様とシエル兄様は魔力と氣の両方を使いこなしているようだがそれはとても難しいことだと聞いている。


 今までどちらかに集中しろと言われた事はありませんが私はどちらを鍛えていけばいいんでしょうか?


 落ち着いたら聞いてみましょう。



「母上、私達も追い越されてしまっては兄としての面目が立ちませんからね、頑張りますよ」


 どうやら兄様たちはお母様の冗談を間に受けたようだ。私が鍛える間にも兄様たちはどんどん強くなるだろうから追い付ける気がしない。

ティナの種族設定を犬人族に変更しました。性格などは変わっていないので耳と尻尾がついただけだと思って下さいm(_ _)m

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