表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/15

5話『御厨』

少なくてすみませんー。キリよく切ったら1200文字程度になってしまいました。

「どうして、こんな……」


 状況が分かったところで、未だ理解は追いついていない。

 大理石に浮かんでいる女の子は、戸惑いから不安げに歪んだ表情をしていた。

 この美少女が俺だって? なんの冗談かな。ハハッ。

 ハハハハハハハハハハハ……ハハ? ハァ……。

 アホか、空笑いも出ねえよ。


「例のアバターが、女性アバターだっただけの話だろ」


 半ば強制的にネカマをやらされている。考えるまでもない話だ。

 どんな意図があるか不明だが、おかげで体験入社に対するモチベーションが底をついた。


 俺は『ネカマ』にトラウマがある。まさに黒歴史だ。


 以前、優しいお姉さんが、トワイライト・ユニバースで俺に手を尽くしてくれたことがあった。

 ちょうどその時期。現実のいざこざで心が荒れていた俺は、最初は邪険にしていたが、手を差し伸べてくれるその人に甘えてしまった。

 一度甘えれば、ダムが決壊したように相談をするようになった。

 俺はその人に夢中だった。時期に、一緒に行動することが多くなって――そして、無意識のうちに心を寄せるようになる。

 悩みに悩んだ末、答えが出そうな……その時に、その人がネカマだったと知ったのだ。

 以来、女性アバターを見たら相手は男性と思うようになった俺がいる。少なくても最初は警戒してかからなくては、何か大切なモノを失いそうだったから。

 ――そんな俺は、絶対にネカマをせんと誓っていたのだが。

 まさか、運営から使わされることになろうとは、夢にも思っていなかった。


「もういい……帰る」


 すっかり気が冷めた俺は、ログアウトしようとメニューウインドウを開いた。


「いらっしゃいませ。お待ちしていましたよ、神場涼さん」


「え!?」

 突如、頭上から聞こえてきた声。

 足音も気配もなく……大理石の階段の上には、一人の少女が佇んでいた。

 声の主の姿を見た俺は――


 ――ドクン。心臓が大きく飛び跳ねる。


 鈍器で頭を強打されたような衝撃に襲われて、視界が揺らいだ。

 もしかして俺は錯覚を見ているのか?


「十分前行動、感心します。私が先にお待ちする予定でしたが、遅れてしまいましたね」


 唇が乾いて。やがては……口の中までもが乾いてしまう。

 ひたいに脂汗が滲み、全身から汗が噴き出すような錯覚を覚える。

 動悸が激しい。

 心臓が警鐘を鳴らすように脈打ち重い。

 

 極度の緊張状態にあるようでとても不快な状況だった。

 そんな中、俺の瞳は『彼女』を認識する。


 やがて『彼女』以外の情報は――呼吸すら忘れてしまって。


「今そちらに向かいますので、少々お待ちくださいね」


 かき上げた漆黒色の髪を腰の辺りで揺らしながら、階段を降りてくる『彼女』。

 赤銅色を基調とした派手めの軍服ワンピースのコスプレをしている。

 階段を降りるたびに、振動で白いラインが入ったベレー帽がズレるようだ。

 彼女はそれを右手で押さえていた。

 よく似合ってるが、正直なところ、それはどうでも良かった。


 まぶたの裏で鮮明に再生される過去の後悔。


 なあ、どうして、おまえが生きているんだ?






 ――御厨。







評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ