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4話『違和感の正体』

 ――『トワイライト・ユニバース』。


 最王手ゲームメーカー数社が『次世代ドリーム・ゲームプロジェクト』と称して始めた、一大プロジェクトの成果が導入された作品として有名なMMORPGだ。

 次世代ドリーム・ゲームプロジェクトとは『よりリアルに、より感動を、夢を現実に』を目的に、ユーザーの『夢』を実現させるために始動したプロジェクトで、ユーザーからの支持も厚く莫大な寄付金が集まった。

 そんなユーザーの期待と夢を乗せたプロジェクトの実現するため、着眼されたのは――VR技術――だった。

 ゲーム業界には一昔前より既にVR技術は導入されていたが、本当の意味での『その場にいるような臨場感』を演出するのは不可能とされていた。いくら大企業とはいえ一社だけでは限界が見えているのだ。

 それでも、最王手ゲームメーカーが結託して、莫大な資金と人員を投入すれば不可能が可能になると踏んで、プロジェクトの命運をVR技術に託す。

 試行錯誤のうえ、僅か五年後の二〇二五年――遂にプロジェクトの技術を集結させた最初のゲームが世に送り出された。

 それこそがVRMMORPG『トワイライト・ユニバース』だ。

 安全かつ従来型を凌駕する圧倒的な臨場感を実現。全ゲーマーにとって夢・理想とされてきた『仮想世界(ゲーム世界)への脳を直接接続』を可能にする。

 脳から送られる人体への電気信号を極限までマシンが回収して、ほぼ一〇〇%影響がないと専門家、研究員を始めとして政府も認めたのだ。

 プロジェクトの先陣を切ってスタートした『トワイライト・ユニバース』は、当然ながら世界的大ヒットとなった。開始当初より完全抽選で登録規制までされて、今なお人気は衰えていない。

 小耳に挟んだ話では、運が悪い人は未だに登録できないとかなんとか。

 そして致命的な問題は何一つ起こらないまま、つい先日三周年を迎えて、同時に登録者数は一〇〇〇万人を突破した。


 ――そんな世界が注目するゲームの運営にスカウトされて二日。


 ――二〇二五年五月二〇日/東京都豊島区西池袋@自宅マンション(神場涼)・昼――


 俺は今日も今日とて、パソコンと対面していた。

 しかし今日は、社会人っぽいことをする。

 俗に言う体験入社というやつだ。

 立川エイジに関して、如月ゲームス本社に問い合わせたところ、白とわかったので危険なところに連れて行かれることはないだろう。


「えーと……指定のアバターを使って、仮想本社に接続か……」


 希望日時を伝えたあとに指示されたのは、指定のアバターを使って、仮想本社に接続することだった。

 現代の日本は、現実の本社とは別に『仮想本社』と呼ばれる、インターネット内に仮想の本社を持つ会社も増えてきた。

 おもにIT系の会社に多く見られて、如月ゲームスもその一つに数えられる。

 もっとも如月ゲームスの場合は、現実にも自社ビルを持っているのだが。

 メールで本社に赴くか仮想本社に来るかの二択を問われて、俺は迷わず仮想本社を選んだ。


「家を出て会社に行くなんて、今の俺には難易度高すぎるからな。うん」


 指定のアバターは、当日の朝に俺のアカウントに送るとのことで、今朝確認すると第二アバター(サブアバター)として登録されていた。

 仮想本社は、サーバー選択時に『如月ゲームス・仮想本社』を選べばいいとのことだった。

 本来、サーバー選択はⅠ~Ⅹの中から、自分のキャラを登録しているサーバーを選択しなければならない。それ以外のサーバーを選んでも、キャラクターを登録していないのでログインできないのだ。

 ちなみに、俺はサーバーⅠの住民で、確かにⅩの下に普段はない『如月ゲームス・仮想本社』の表示があった。

 普段ユーザーには非表示になっており、指定のユーザー(運営陣)だけが表示になっているらしい。


「そろそろ時間だな。……行くか」


 静かに息をつくと、ログイン用のヘッドギアをかぶる。

 一度ヘッドギアをかぶると、わずかに胸内で渦巻いていた緊張は薄れて集中力が戻った。

 マウス操作でサーバー『如月ゲームス・仮想本社』を選択する。

 次にキャラクター選択を求められるので、指定のアバタ『debug_avatar_06』を選択。

 最後に確認と、ヘッドギアの着用を求められるので、そのまま『ОK』ボタンをクリックする。

 ログイン方法は普段と変わらないので迷うことはない。

 すべての操作を終えると――ヘッドギアが情報を受信して、耳奥にキュィィィィィィンと機械的な加速音が迸る。

 それを認識した次の瞬間には、意識はブラックアウトするのだった。



 ――二〇二五年五月二〇日/仮想世界@株式会社如月ゲームス本社前・昼――



 一瞬で意識が戻り、加速音が収まると同時に目を開ける。

 目の前には、二〇段ほどの大理石の階段。

 階段の両脇にはエスカレーターが備えられていた。

 そして――階段のうえにそびえ立つ建物を一言で現すとすれば、魔王城だろうか。

 いや、いくらなんでも失礼なので、ゲームオーバーになったら『おお、勇者よ情けない』などと言って来る、煽りと無能を兼ね備えた王様の城だ。

 そんな表現を並べるほど、空は雲一つない快晴に包まれた、てっぺんが見えない超高層ビルがあった。

 階段のひとつ手前に銘板で『如月ゲームス』と表示されているので、この建物は如月ゲームス所有のものなのだろう。

 仮想世界とはいえ、ここまで大きなビル必要なのか?


 ……それにしてもなんだろう、この違和感。


 そう、俺はログインしてから言い様のない違和感を覚えていた。

 なんというか視界が低い気がする。

 その中でも特に強い違和感を覚えた身体。

 顔を下に向けてみると――二つの大きな膨らみが目に入る。


「……なんだ――こ、れ? ……んっ? んんっ」


 反射的に喉をおさえる。……なんだ今の声?

 俺の勘違いかも知れないが、どこか透明感のある甘い声――分かりやすく言えば、萌え美少女キャラの如くかわいい声が、自分の口から発せられた気がした。


「どういう……あれ、また……?」


 なおも声は変わらない。どうやら俺の勘違いではないようだ。

 さらには、視界の隅に入った喉をおさえる手が、妙に白く綺麗でほっそりしているように感じた。

 ――そんな時、偶然、鏡のように磨かれた大理石の階段が見える。

 当然ながら、自分の姿が映る『はずだった』。



 現実に映っていたのは、長い髪の『美少女』が、パッチリつぶらな目で階段を見つめている姿で。



「えっ? こ、これって……まさ……か?」


 慌てて先ほど見つけた、二つの大きな膨らみ――正確には、胸部に存在する膨らみを触ってみる。

 ――むにゅむにゅ。

 柔らかく、大きく形を変えて指が沈む感触。

 そして『触られた』という感覚。

 嫌な予感が脳裏をかすめる中、ズボンがミニスカートになっている自分の股の間に手を添えて――嫌な予感は確信へと昇華する。


「な、ない……。俺、女の子になったのか?」


 震える声はやはりかわいい萌え声で、実感を深める結果となるのだった。


ようやく如月ゲームス本社にログインするところまで。

(実はここまでがプロローグだったりします)

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