二と三の君と私
偽った自分なら話せる気がしたから。
クラスの人とはあまり話した事がなかった。
女子にも男子にも。
でも、誰でもいいから話してみたかった。
少し、かまってほしかった。
そんな軽い気分でTwitterにアカウントを作った。
名前を載せても知ってる人なんていないし気味悪がられるだけ。
だから私は名前の佐藤からとって『シュガー』とつけることにした。
赤崎高校二年生とプロフィールに書き込んで。
同じ高校の人をぽつぽつとフォローした。
同じクラスの人、違うクラスの人、そもそも年が違う人。
「…どうしよう、しゃべりかけるの怖い。」
弱虫か!!
通知がきて、びっくりした。
フォロバされた…
同じクラスの男性だった。
そのあと少ししてリプライがきた。
『誰』
その一文字が怖い。
顔が見えない恐怖。
もしかして今とても気持ち悪そうな顔をしているんじゃないだろうか、もう名前がばれたのではないだろうか。
震えているとまたリプライがきた。
同じ人だ。
『あ、やっぱいいや。えっと、よろしく。あれ、もしかして年上ですかね。』
わぁ〜、コミュ力高そう…。
さすがに返さないのはまずいと思い、返す事にした。
『大丈夫、同い年だよ、よろしく。プロフィールに書いてある^_^』
なるべく、学校の私とは違う気持ちで。
すぐに着信音がなる。
うわ、はやい。
さすが高校生…自分もだけど。
『あ、たしかにwシュガーはなんか部活とか入ってんの?』
特定しようとしている。
『何も入ってないよ。』
ここまで会話して気づいたが、今話してる人はクラスでは意外と人気のある人なのでは…。
気づけば他にも七人くらいにフォロバされていた。
リプライしてきた人はいない。
この人が特殊なだけだろうか。
返信がまた、帰ってきた。
『俺も実は入ってないんだ、めんどくさいよなwてかさ、シュガーってよべばよかった?』
『うん、シュガーでいいよ。こちらこそなんてよべばいい?』
少し、時間が空いた。
そんな悩むものかな。
本名は片岡 卓。
アカウント名は、スグル、そのままだ。
『ごめん、親にちょっと怒られてたwうん、スグルでいいかな。』
『スグル、よろしく。』
気持ち的に切り替える為にも、卵アイコンからスヌーピーのアイコンに変えた。
「…」
今更だけど、ばれた時の恐怖が私にはまとわりついていた。
それから、ちょくちょく片岡くんと話すようになった。
漫画もそこそこ読んでいる為、よく話せた。
きっと、片岡くんは私の事を男だと思っているだろう。
わかってる。
「片岡さぁ、最近シュガーって奴と仲いいよな。」
つい、ビクッとする。
こ、こえぇ。
「普通に話してるだけかなー、誰かしらねぇし。」
…だよね。
「てか普通だろー、嫉妬か?おお?」
男子と片岡くんがじゃれあっているとおされた片岡くんが私にあたった。
あぁ、なんて話せば、なんて声をかければいいんだ。
「あぁ、悪りぃ」
こちらも見ず、目を見ず、おわった。
とても、こっちじゃ何も話せない。
家に帰ってTwitterを開くと、DMがきていた。
珍しい。
片岡くんからだった。
『シュガーって佐藤なの?』
バレルの、はやすぎじゃない?
なんて返せば良いかわからない。
正直なことをいうか、嘘をつくか。
『嘘つきやがって、てめぇ弓道部じゃねぇか。』
その言葉に目を疑う。
ん?
弓道部?
ふと弓道部に佐藤がいる事を思い出す。
「そ…そっちか…」
安堵と不安が一気にわたしの脳内を満たした。
また一つ、嘘が増えてしまうではないか。
『ばれた?』
弓道部の佐藤くんは、明るくて、真面目で、成績がいい。
私とは真逆。
『佐藤とは話したこと、ないからなんか今になってだけど新鮮な気分きてるわw』
え?
この人は何を言ってるんだろう。
片岡くんは佐藤くんとは比較的仲がいいハズだ。
『そ、そうだな。』
スグルからの返事はこなかった。
「…学校、行きたく無い。」
絶対にばれた。
わかる、わかるんだ。
大丈夫、いつも通り。
本当に何事もないように行けばいいんだ。
ネットの世界は、嘘で埋れているハズなんだから。
本当に片岡くんとは何も話さずに終わった。
いつも通り、目も合わさず。
帰り際、廊下を歩いていると着信音がなった。
急いで携帯を取り出し開くとDMがきていた。
『佐藤。』
後ろを振り向くと、そこには片岡くんがいた。
いたって真顔な片岡くんは私の方へとツカツカとやってきた。
もう、終わりだ。
明日にはTwitterのアカウントを消そう。
何事もなかったかのように。
「筆箱、忘れてるんだけど。」
「え?」
思わず出した声は面白いほどに裏返っていた。
「あ、ありがとうございます…」
筆箱を受け取った手と声はとても普通とは言えないほどに震えていた。
「佐藤ってさ、佐藤千春って言うのな。」
「は、はい…」
なんで、名前の確認なんかするんだ、早くシュガーは佐藤の事だろって言ってよ。
気持ち悪いっていって、スパブロしてよ。
「さ、桜とかどう。」
「え?」
「あのな、ずーっと言いたかったんだけど、ネーミングセンスないんだよ、何がシュガーだよ、砂糖ってすぐわかるっつの。」
その言葉一つ一つが怖くて、目がうるうるしてきた。
「だ、だからさ、もうちょい女の子らしい名前にすれよ、春にちなんで桜とか…ほら、さとうのさだし、可愛いし。」
「そ、そうです…か。」
何だろう、これは。
「あの、今まですみませんでした、明日には垢を消します、ごめんなさい。」
ついに、涙がこぼれた。
「え、なんで泣いてんの、お前、えっ。」
困らせてる、クラス一番暗いと思われる私がクラス一の人気者を困らせてる。
「垢消すなよ、俺さ、佐藤がこんな話すの楽しい人だと思わなくて。」
「え?」
楽しい…?
「だから、ずっと話したかったんだけどその…嫌われてるみたいだったし、俺も話しかけづらかったし。」
思ってもいなかった事態で、頭の中が混乱してきた。
「あ、あの…」
それは、私が存在していて良いという事だろうか。
「嫌って、ないです。私も話すの楽しくて、でも学校で話しかけるのなんて迷惑だろうな、って思って、勇気、でなくて。」
顔を見上げると、目が初めて合った。
「なんだ、お互い避けてた岳なのかよ…」
片岡くんはクスッと笑った。
私も、笑ってみせた。
「最近、片岡桜って奴と仲良しだよなー」
わぁ、また言われてる…。
「まあ、仲良いからな。」
知らない顔で、私は教室へと入った。
「あ、千春、おはよう。」
「お、おはよう、スグルくん。」