境界線上の君。(前)
扉を開けた瞬間、飛び込んできた姿に心臓が跳ねた。
周りと同じ制服に身を包んでいたって、すぐにわかる。
いつだって真っ直ぐに伸ばされた背中を、誰かと見間違えたりなんて、しない。
ずっと、その後ろ姿を見ていたから――
―境界線上の君。―
クラス分けの掲示板の前で時間を過ごしすぎたあたしは、ホームルーム直前の新しい教室に慌てて飛び込んだ。新学期、新しい級友、そうは言っても三学年。ある程度見知った顔ばかりで、緊張することもない――はずなのに。
教室入ってすぐに目にした人物に一瞬息を飲む。
「おう」
「……おう」
振り返った彼が普通に声をかけてきたから、反射的に応えて。
あの頃みたいに。
その態度が何でもなさすぎて、二年間のブランクを忘れそうになった。
彼の視線から逃れるようにキョロキョロ教室内を見回しても、知り合いはいない。当たり前、既に親しい友だちとクラスが離れてしまったことは確認済みだ。
だけどこれってなんだろう。アイウエオ順の座席なら、彼――藍川が、入り口に近いこの場所にいるのはおかしいよね?
あたしの困惑を読み取ったように藍川が口を開く。
「席は自由だってさ。お前、来るの遅かったな、いいところもう取られてるぞ」
指差す方向を見ると、黒板一面に座席表が描かれていた。空欄はあと二、三席。彼の言う通り残っているのは教壇の一番前だったり黒板が見にくい席だったり。
慌てて書き込みに行く。空席の周りに埋まった名前を見て、一瞬躊躇ったけど、仕方なしにそこを選んだ。
――ヤツの前の席を。
チョークの粉を払いながら、戻ってくるあたしとそれを眺めている彼に、その周りにいた友人たちが顔を見合わせる。
「なになに、総司ってば沖田さんとお知り合い?」
不思議そうに問いかける声があたしの髪を揺らした。
「ああ、幼なじみ」
端的に答えた藍川に、また、鼓動がその存在を主張する。
軽く驚いた声を上げる彼らに、ちょっと怯みつつ、席についた。成り行き上、無視するわけにも行かず、会話に耳を傾ける姿勢を取って。
なんでアンタが藍川クンたちと親しげにしているんだと、クラスの女の子の視線が気にならないわけでもなかったけれど、あえて気にしないフリ。
まあ、そうだよね。昔はいざしらず、今のあたしと藍川に共通点なんてないもの。
こんなに近くで顔を合わせるの、久しぶりに不意打ち過ぎて、暴れる心臓を宥めるのに苦労する。
「幼なじみってそんなん初耳だぞ~! なんで教えないのオマエ〜~!」
賑やかに藍川を締め上げているのは工藤くん。前期副会長だった彼は校内ではちょっとした有名人だ。じゃれあうくらい仲がいいとは知らなかった。
「なんでわざわざ教えなきゃいけないんだよ……」
「この石像男! 沖田さんとそのお友だちときたら他校に隠れファンがいるくらいの素敵女子だろ! お近づきになっておきたいに決まってるだろ!」
……あの、本人ここにいるんですが。
確かにあたしの友だちは表も内も可愛い娘ばかりだけど、一緒にされると申し訳ないっていうかこっぱずかしいっていうか。
ベシベシ頭を叩く工藤くんに、思いきり嫌そうな顔をした藍川は、振り下ろされたその手を取って逆手に捻じあげた。
「それ聞いたら余計に教えなくてよかったと思うだろ。この阿呆」
「いで! いでででで!」
騒がしいこのやり取りにあたしはポカンとするしかなかったんだけど、他の男の子たちが平然として笑っているところを見ると、いつものことみたい。
なんだか、意外。
あたしが知ってた藍川は、こんな風に誰かとふざけたりすることなんて、なかった。
対戦相手に、魔王とかあだ名されるくらい、いつも周りを圧倒する空気を纏っていて。
道場で見せる、ぴんと伸ばした背中は、どこか他人を寄せ付けず――そんな彼の仲間だったこと、気安く話せる一人であること、密かに優越感を持っていた。
あの頃とはもう違うのに。
――馬鹿だな。
「なあなあ、幼なじみってことはもしかしてさー、沖田さん、昔、からかわれなかった? 総司と名前ネタで」
物思いに浸りそうになったあたしの横に、藍川のお仕置きから逃れた工藤くんが座り、訊ねてくる。懲りないやつだなお前は、と唸る藍川を横目に苦笑を返した。
「まあね、藍川を婿養子に貰ってやれとかさんざん言われたよ」
――沖田・オキタ。
――総司・ソウシ。
あたしの名字と彼の名前をくっつけると、とある歴史上の有名人になる。
新撰組マニアな藍川の母が、息子の名前にお気に入りの隊士の名前を付けただけではあきたらず、剣道を習わせたという事実は、彼と親しくなれば自然と知ることだから。
そう言われるのは予想の範囲。
恥ずかしがって拒否したり、からかわれるのを嫌がったりする時期は、とっくに過ぎた。
だから、あっさり肯定して、流す。
――仄かに痛む胸の奥の本心を隠して。
眉をしかめている藍川は、どう考えているのか毎度のことながら、読めない。
こうやって名前のことで揶揄されるのが嫌なのかどうでもいいのか――そんなだから、いつもあたしは、なんでもないフリをしなければならなかったんだ。
平然としている藍川の側で、あたし一人が過剰に反応するわけにはいかなかった。
名前が何だっていうの、そんなことで別にあたしたちは関係を変えたりしないよ、と、ただの友だちだという姿勢を貫いた。
そうして、自分の気持ちを誤魔化すにも疲れて――側にいることをやめたのに。
高校生活最後の年に同じクラスになるとは、とんだ落とし穴。まして、藍川が普通に話しかけてくるなんて。
高校入学直後に、話したっきり、接点もなくなったあたしとは、ずっと没交渉だったくせに。
どういうつもり?
周りを固めた友人たちとそっけなく会話を交わす藍川にチラリと視線を向けて、こっそりため息をつく。
相変わらず、わずかにしか表情の変わらないあのふてぶてしく涼しげな顔を殴ってやりたい。
なんて八つ当たり気味に思いつつ、あたしは後ろの気配を極力気にしないように、前を向いた。
さとり。
暁里、そう、あの頃藍川は――総司はそんなふうにあたしを呼んでいた。
「――さとり、お前剣道部に入らないって本当か」
入学式もとうに過ぎ、桜も散った通学路を歩いていたあたしに、静かな声が掛けられた。
意外と遅かったな、なんて思いながら、ゆっくり振り返る。
難しい顔をした総司がそこにいた。
「誰から聞いたの?」
「八尋先輩から。女子部、誘ったのに、断られたけど理由知ってるかって――何でだ?」
彼の口から出た、中学から共通の先輩である彼女の名前にチクリと痛む胸を隠して、笑う。
「……んー、高校では、別のことしようかなって。剣道も、そろそろ限界見えてきたし」
「限界?」
なんだそれ、とひそめられた眉がさらに寄る。
睨み付けてるみたいだからやめろって、何回言っても治らない彼のクセ。そんな場合でもないのに、少しおかしくなった。
「……剣道は好きだけど、勝負するために竹刀を持つのに疲れちゃったっていうか……そんな感じ?」
あたしが競技会に出るのをあまり好んでいなかったことを知る総司は、納得はいかないまでもその言葉に強要する気はなくなったらしい。
ふっと息を吐いて、それ以上入部を進めるようとはしなかった。
「部に、入らないだけか。道場には、来るんだよな」
――どうして、そんなこと気にするの? あたしが剣道続けようが続けまいが、総司には関係ないじゃない。
喉元から出かかった言葉を飲み込むのは、難しかった。
もともと、すぐ上の兄にくっついて通い始めた剣道場だった。
そこに、藍川母に連れられた総司がいて、同い年の負けん気もあってか、競うように剣を握った。そうして高めあう相手がいたからか、自分でも、なかなかの腕前になったと自負していた。
――でも。
男女の区別がつきづらい幼い頃は良かった。
あたしたちは対等だった。
中学生になってお互い別々の性として成長していく身体に、差が出来てしまうまでは。
――あたしは総司のようになれないと、わかってしまったから。
そして、女として彼の隣にいられないことも、知ってしまったから――……
「……さあ。やりたいこと沢山あるし――とりあえず、高校生活を楽しむつもり」
曖昧にぼかした、あたしの剣道への決別を総司は察して、目を見張る。
どうしてそんな、裏切られたような目をするんだろう。なじるような。
あたしのほうが、そうしたい気分だっていうのに。
なんで、教えてくれなかったの?
八尋先輩と付き合ってること。他の誰からでもなく総司から、聞きたかった。
――暁里ちゃんが総司くんと幼なじみで仲がいいのはわかってるけど、今は八尋の彼氏なんだから、ちょっと遠慮した方がいいよ?――
――あれ、知らなかったの? あの二人、付き合いだしたんだよ――
そんなふうに他人から、したり顔で忠告されて、あたしがどんな気持ちだったか。
そういえば総司と話していると、よく八尋先輩が会話に混ざってきてた。
それであたしたちの会話が途切れてしまったりして、先輩には申し訳ないけど、邪魔だなって感じたりしてた。
――そうか、邪魔はあたしの方だったのか。
八尋先輩は美人で女らしくて、剣道も強かった。あんなふうになれたらな、って憧れてた。
そりゃ、先輩を選ぶくらいだ、あたしなんか眼中にないよね。女扱いされないのが対等みたいで嬉しかったのに、ほんの少し、胸が痛んだ。
一番側にいられなくても、あんたがあたしを女として見てなくても、仲間でいられるならいい。
少なくとも、肩を並べられる相手だと認めてくれているよね――。
それすらも、あたしの勘違いだったと知るのに時間はかからなかった。
見たんだ、本気の総司の剣を。
忘れ物を取りに戻った、みんなが帰ったあとの道場で。
師範と向かい合う、その姿を。
あたしと打ち合うときとは違った、息も出来ないような気迫に。
ガツンと頭を殴られた気がした。
何が対等。
何が仲間。
――ずっと手加減されていたんだと、理解したときにはもう、ダメだった。
何でもないふりで側に居続けることなんて出来ない。だから――
「――じゃあね。あんたは頑張んなよ、総……藍川、」
ひらりと手を振って背中を向けた。
それがあたしなりのせいいっぱいのサヨナラで。
剣道という共通項をなくしたあたしたちは、それ以来全く近づくことはなく。
寡黙な性格と均整のとれた体格、硬質な容姿、武道をやっている者特有の落ち着いた立ち居振舞いに、無視できない存在感がある彼は校内で徐々に知名度を上げ――剣の実力を考えれば当然、全国でもその名が知られるようになる。
同じ高校に通うだけの、ただの生徒のあたしと有名人な彼が、昔仲が良かったなんて、誰ももう知らない、そういう関係になったのだった――
……だった。
だった、ハズなんだけど。
「えぇ、サトちゃん剣道やってたなんてー! なんで教えてくんないのー!」
「なんで教えなきゃいけないの……」
作ってるんじゃないかと誤解をよく招いてる可愛らしさを今日も振り撒き、帆乃歌があたしの腕をポカポカ殴ってくる。小動物にそんなことされたって、痛くも痒くもないけど。
「……暁里ちゃんカッコイイ……。だからポニーテールなんだね〜」
いやいやいや、意味不明だし。
ウットリしたまなざしを向けてくる親友の片割れのランチボックスから、あたしはだし巻き玉子を奪った。あっ、とテンポの遅い颯子が眉を下げてもすでに口の中。慰めると見せかけて、自分の苦手なプチトマトをよこした帆乃歌に、気付かずありがとうとホンワリ笑う颯子。それを生暖かく見つめるあたし。
それはいつもの楽しいお昼休みの光景。
――余計な者が、いなければ。
「確かに沖田ちゃんのキリッとしたポニーテールはカッコイイよね、王道だぁねー」
「中学のとき結び過ぎでハゲがどうの言ってたけど、」
じいっとあたしの頭頂部を見て、藍川。
「克服したのか」
「要らんこと暴露するな馬鹿!」
――何故か。
何故か藍川たちまで一緒にお昼を食べている、この現状。
や、なぜかも何も、帆乃歌と颯子がお弁当箱ぶら下げてあたしのクラスにやって来たことに端を発するんだけども。
「サトちゃん、オベント食べよう~」と仲良く現れた二人を発見した工藤くんが、お近づきになるチャンスを逃してなるものかとゴーインに机をくっつけて来たのだ。
空いてる机まで利用して場所を作られてしまっては拒否できず。何だこの仲良しグループ、という集団ができあがったワケです。
………何故。
のほほんとしつつもマイペースな友二人とそれに輪を掛けてマイウェイな男二人に囲まれて、あたしは教室にいる方々(主に女子)の視線が気になって仕方ない。
同性のあたしから見ても天然可愛い帆乃歌と颯子、ついでにあたしは一部の女子から妙に睨まれてたりする。
まあ、簡単に言えば男ウケがよい二人が妬まれてるって感じなんだけど。
帆乃歌と颯子は普通にしてて可愛いだけで、陰口叩かれてるように媚なんか売ってないし。
そんなもん勝手に勘違いして寄ってくるオトコに言えよ、とあたしは睨みを利かせる係。
あーあ、工藤と総司なんて軟派と硬派のモテる代表二人組とこんな風にしてたら、また色々言われちゃうよ……と思いつつも、もう、そういったことを考えるのも面倒で彼らを避けるのはやめた。
無駄だと思うしさ。
座席変更がない限り、どうしたって関わらなきゃいけないんだ。
どういったわけか、デフォルトにしている無口無愛想はどこへやったんだというくらい、総司が話しかけてくるし。
どうしたんだコイツ。
幼なじみをやってたときも、そっちから話しかけてくるなんて、稀だったのに。
帆乃歌にあたしとの関係を聞かれたからって、なにも剣道やってたことまでバラさなくてもいいと思う。
工藤がなつっこいのはわかってたんだけど、この状況を受け入れているっぽい総司が、謎。
「藍川センパイ」
颯子の作ってきたマドレーヌを男共に奪われつつ、それなりに会話していると、戸口からひょこっと二年の女生徒が顔を出した。呼ばれた総司が顔を上げて、立ち上がる。
「新部長からの連絡事項なんですけど――」
なんとはなしにその光景を見ていると、ヒソリとささやきを耳に吹き込まれた。
「アレ、剣道部のマネージャー笠井ちゃん。総司に地味にアタック中。……気になる?」
は……?
ぱちくりと工藤くんを見返す。ニヤニヤしている腹黒そうな顔と、言葉の意味にようやく気付いて眉を寄せた。
「はぁ……、なんか誤解してる上に企んでない?」
呆れた息を吐き出して、色恋沙汰の揉め事を期待していそうな工藤を睨んだ。
「ちぇ、狼狽えたりしてくれないんだ、面白くなーい。総司も苦労するなコリャ」
なんでよ。こら、そこのかわいこちゃん二人も興味津々で聞き耳たてない。
そんな話をこっちがしているとわかっているのかいないのか、不意に振り返った総司があたしの名を口にした。
「暁里。机に入ってる青いノートとってくれ」
なんでワザワザあたしに頼む、と思ったのはあとのこと。
そのときは言われたまま総司の机からノートを探り出して、手渡し――ものすごい冷めた目つきをしたマネージャーちゃんと視線がぶつかって。
うわ、と思った。
総司は彼女に背中を向けていたから、気づかなかったみたいだけど。
オイオイ勘弁してよ、今さら争奪戦に参加する気力なんてありゃしないっつうの。
疲れるものを感じて、ぐったりしていると、
「コワイな~、総司は浮わついた噂がない分、ファンの思い込み愛は深いし~」
位置的に目にしたんだろう、あたしに聞こえるぐらいの小さな声で工藤が言う。
……完全に面白がってるな。
――本当に、今さらなの。
総司を好きで、どうにか傍にいられたらと頑張った時期はとうに過ぎ、今は曖昧にフクザツ極まりない感情があたしの中に残るのみ。
近すぎて想いをうまく伝えられず、遠すぎて想いは形を無くしてしまった。
自分が、今現在の彼をどう想っているのか、よくわからない。
――昔、好きだったヤツ。
――初恋の相手。
――もと親友。
――もと、好敵手。
言葉にすれば、様々な形容は出来るけれど。それが、真実、彼に対するあたしの気持ちを表しているとは思えないのだ。
……だけど、いつもその姿が近くにあれば、無意識に視線が追っていた。
振り向かない背中を、誰も深層には踏み込ませようとはしない彼を、心の中から消すことは出来なかった。
未練っていうんだろうか、これも。
「でー、結局のところどうなのー?」
くるりと黒目勝ちな丸い目をぱちぱちさせて、こちらを覗き込んでくる帆乃歌に、あたしは冷ややかな一瞥を投げる。
やっぱり訊くか。来ると思ったがやっぱりか。工藤になんか吹き込まれてたみたいだからなー。
「どうって何が。帆乃、そこの綴り間違ってる、aじゃなくてe」
むお、と慌てて消ゴムを掴んだ帆乃歌はしかし諦めず、不満げに唇を尖らせた。
「わかってるくせにー。しらばっくれるのナシだよ」
課題を見てほしいんじゃなかったのか。わざわざ放課後残ってまで図書室に来た目的はそっち?
「――だから、そりゃ同じ道場の門下生だったし普通に仲は良かったけど。今は単なる昔なじみ。高校入ってから、ろくに話してもなかったしどーもこーもないってば」
いい加減この話はここで終わり! と語句強く言い切ったあたしに、まだ何か言いたげにしつつも今は課題に集中することにしたらしい。
ホッとしたのもつかの間、あたしと帆乃歌のやり取りをニコニコしながら大人しく聞いていた颯子が呟く。
「でも逆に二年間関わりなかったっていうのも不思議だねぇ。うち、そんなにマンモス校でもないのに」
……ホンワリしてるくせに颯子は妙に鋭い。何気なく発したその言葉に、真実が隠されているとは思ってもいないんだろう。
――それは、あたしが、あいつを避けていたから――
避けるってこと自体、忘れたふりして意識していたって証拠なのに。
幸いにもあたしの動揺は気付かれることなく、課題と予習に集中し出した二人はそれ以上のムダ話を続けることはなかった。
暗くなってるから気をつけて帰りなさいよ、というすれ違った教師の言葉にハーイと良い子の返事をして、学校をあとにする。
クラスが離れてしまった分、放課後のお喋りが長くなったかも。同じ方向へ帰る二人に手を振って、駅までの道を歩き始め――
「暁里?」
ここ数日で、何度も聞いている声に呼び止められた。
振り返ると、予想通り総司がそこに。
剣道部の面々を周りに従えて、たぶんこれからどこかへ寄る予定だったんだろう、彼らは立ち止まった総司と呼び止められたあたしを不思議そうに見ていた。
……なんつータイミング。思わずしかめ面になる。
眉をひそめた総司が何故かこちらへやって来て。
来なくていいっつうの! てゆか、何で呼び止める!
「お前今帰りか? 遅くないか」
「帆乃歌たちと図書室で勉強してたの。いいでしょ別に」
叱られるような覚えはない。睨むなってば。
誰? とか何? とか、あたしと総司の関係を当たり前だけど知らない剣道部員がヒソヒソ話してるのが聞こえて、焦った。
変に注目されたくない。こいつは自分が周りに与えてる影響ってものを全くわかってないんだから。
マネージャーちゃんのこともあるし、関わりたくないの!
「どっか行くとこなんでしょ。皆さんお待ちよ、じゃあね」
そそくさとその場を去る……ハズが。
「ああ、悪いな。俺はここで帰るから。また明日」
アッサリ、そんなことを部員たちに言ってあたしについてくる総司に目を剥いた。センパイ!? と驚く部員たちの声を一瞥で黙らせて。
「ちょっ……なんで来んのよ!」
「夜道危ないだろ。送る」
はああああ!?
訳がわからない。でもって、怖くて後ろが振り向けない。
ものすっごいビシバシキッツイ視線が背中に突き刺さってるんですが!
最悪。
何なの、一体。同じクラスになってからというもの、接触が多すぎない?
今までわざとつくっていた距離をなくすくらいの勢いで。もとの関係を思い出させようとするみたいに。
何を考えてるんだ。
夜道危ないなんて気遣い、気持ち悪いんだけど。いまだかつて昔にだって、そんなこと、言わなかったくせに。
黙々と歩く隣の男にため息を吐き出す。
「急に女扱いされても、」
「――女扱いしなかったせいで逃げられたからな。同じ愚は犯さない」
―――?
耳にした言葉の意味が理解できず、つい反射的に総司を見上げた。
視線がぶつかる。あのときと同じ色を乗せた瞳がじっとあたしを見ていて、言葉をなくした。




