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幻を想う

作者: 綴 詠士
掲載日:2026/01/27

「いや、おかしい。おじいちゃんの遺品がある筈なのに。このままじゃ怒られる」

 

 少年、レジアンは焦りながら古い屋敷をうろうろしていた。

 

「ないの?」

 

 そんな少年の傍に小さな妖精が浮かんでいる。名前はナナでレジアンの相棒のような妖精だった。


「全然ない。懐中時計が確かどっかの棚にあった気がするんだけど。ああもう終わった。またお母さんに怒られる」

 

「うるさいわね。めそめそしすぎ。ほら探すわよ」

 

 ナナがイライラしながらもレジアンを叱咤する。

 

 レジアンはせわしなく辺りを探した。木でできた屋敷は歩くと小さくギシギシ音が鳴る。


『この家は代々一族が受け継いできたんだ。とはいえそろそろお役御免かもな』


「え?」


 レジアンは立ち止まって耳をそばだてる。


「どうしたの?」


「おじいちゃんの声が聞こえた気がしたんだけど……」


「私は何も聞いてないわよ?」


「本当? 結構はっきり聞こえたような」


「ほら、早く探す探す」


「分かったよ。……まあそうだよね」


 レジアンはため息をつき、遺品の捜索に戻る。

 

 遺品を探しながらも本が詰まった本棚や、年季の入った机やいすを手で触っていた。

 

「……なんか懐かしいな。最後に来たのは10年以上も前だけど。昔のままみたいに全部残ってる」

 

「ここ、おじいさんの家なんでしょ?」


「うん。お母さんは少し前に火事があったとか言ってたけど、大したことなかったみたい」


「……ふーん。そうなの。確かに綺麗なままね。というかやたら本が多いわね」

 

「おじいちゃんはよく本を読んでたからね。昔はよくここにきて色々と昔話を聞いたんだ。こっちが聞いてないのにどんどん話すからどんどん覚えちゃった」


「物知りなのね」


「うん。あと蝶を飼ってたな。綺麗な蝶々でさ、羽が青く光って凄い綺麗なんだ。おじいちゃんはその蝶々を大切にしてたよ」


「……」


「……そういえば妖精って昔は人間を惑わすものだったんだって。だから妖精が見えたら警戒しろって言ってたかも」

 

「あら、じゃあ私も警戒するの? 貴方がこんな小さい頃から一緒にいるのに」

 

 そう言うとナナは親指と小指で小ささを表そうとする。

 

「それじゃ小麦より小さいじゃん……。まあいいや、とにかく探そう?」


 レジアンは床を歩くと天井の方からギシギシと音がした。


「え?」


 思わず胸がきゅっとなり、レジアンはナナの傍に駆け寄る。


「ナナ。二階に誰かいない?」


「誰か? 誰もいないでしょ、こんな場所」


「でもさっき音が……」

 

「音? ……なるほどね。二階には上がっちゃだめよ。誰もいないし、放っておきましょ」

 

「なんで?」

 

「さっき見たら幻光虫がいたわ。ここに人は住んでないし迷い込んだのかもね。下手に近づくとあんたのことだし、幻に包まれてここから出られなくなるわよ」


「ええ、何でそんな怖い虫が。分かったよ。探すよ」

 

 そうして二人で遺品を探していると、一つだけ場違いなほど古めかしい棚に、とても精巧な懐中時計が棚から出てきた。

 

「あった、これだ」

 

「見つけた? じゃあ行きましょ。ほら早く早く」

 

「え、ちょっと急かさないでよ」

 

 レジアンは慌ててナナを追い、外に出る。

 

 街に向かって進んでいくナナを追いかけつつ、ちらりと後ろを振り返る。


「あれ……」


 古い屋敷に火が立ち上る。火はみるみるうちに屋敷を包み、跡に残ったのは燃え墜ちて崩れ去った廃墟だった。



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