幻を想う
「いや、おかしい。おじいちゃんの遺品がある筈なのに。このままじゃ怒られる」
少年、レジアンは焦りながら古い屋敷をうろうろしていた。
「ないの?」
そんな少年の傍に小さな妖精が浮かんでいる。名前はナナでレジアンの相棒のような妖精だった。
「全然ない。懐中時計が確かどっかの棚にあった気がするんだけど。ああもう終わった。またお母さんに怒られる」
「うるさいわね。めそめそしすぎ。ほら探すわよ」
ナナがイライラしながらもレジアンを叱咤する。
レジアンはせわしなく辺りを探した。木でできた屋敷は歩くと小さくギシギシ音が鳴る。
『この家は代々一族が受け継いできたんだ。とはいえそろそろお役御免かもな』
「え?」
レジアンは立ち止まって耳をそばだてる。
「どうしたの?」
「おじいちゃんの声が聞こえた気がしたんだけど……」
「私は何も聞いてないわよ?」
「本当? 結構はっきり聞こえたような」
「ほら、早く探す探す」
「分かったよ。……まあそうだよね」
レジアンはため息をつき、遺品の捜索に戻る。
遺品を探しながらも本が詰まった本棚や、年季の入った机やいすを手で触っていた。
「……なんか懐かしいな。最後に来たのは10年以上も前だけど。昔のままみたいに全部残ってる」
「ここ、おじいさんの家なんでしょ?」
「うん。お母さんは少し前に火事があったとか言ってたけど、大したことなかったみたい」
「……ふーん。そうなの。確かに綺麗なままね。というかやたら本が多いわね」
「おじいちゃんはよく本を読んでたからね。昔はよくここにきて色々と昔話を聞いたんだ。こっちが聞いてないのにどんどん話すからどんどん覚えちゃった」
「物知りなのね」
「うん。あと蝶を飼ってたな。綺麗な蝶々でさ、羽が青く光って凄い綺麗なんだ。おじいちゃんはその蝶々を大切にしてたよ」
「……」
「……そういえば妖精って昔は人間を惑わすものだったんだって。だから妖精が見えたら警戒しろって言ってたかも」
「あら、じゃあ私も警戒するの? 貴方がこんな小さい頃から一緒にいるのに」
そう言うとナナは親指と小指で小ささを表そうとする。
「それじゃ小麦より小さいじゃん……。まあいいや、とにかく探そう?」
レジアンは床を歩くと天井の方からギシギシと音がした。
「え?」
思わず胸がきゅっとなり、レジアンはナナの傍に駆け寄る。
「ナナ。二階に誰かいない?」
「誰か? 誰もいないでしょ、こんな場所」
「でもさっき音が……」
「音? ……なるほどね。二階には上がっちゃだめよ。誰もいないし、放っておきましょ」
「なんで?」
「さっき見たら幻光虫がいたわ。ここに人は住んでないし迷い込んだのかもね。下手に近づくとあんたのことだし、幻に包まれてここから出られなくなるわよ」
「ええ、何でそんな怖い虫が。分かったよ。探すよ」
そうして二人で遺品を探していると、一つだけ場違いなほど古めかしい棚に、とても精巧な懐中時計が棚から出てきた。
「あった、これだ」
「見つけた? じゃあ行きましょ。ほら早く早く」
「え、ちょっと急かさないでよ」
レジアンは慌ててナナを追い、外に出る。
街に向かって進んでいくナナを追いかけつつ、ちらりと後ろを振り返る。
「あれ……」
古い屋敷に火が立ち上る。火はみるみるうちに屋敷を包み、跡に残ったのは燃え墜ちて崩れ去った廃墟だった。
他の掌編、短編は作者ページへ。気に入ったらブクマ/評価をお願いします。




