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CoDE: Hundred  作者: 銀杏魚
第一章 水ノ園学院高等学校編
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第7話 鬼

 紫苑は再び、図書館の入口に戻ってきていた。そこには、すでに大量の警備員がいた。広大な敷地を管理するために、ある程度、常駐しているのだろう。そのうちの一人が紫苑の方へ近づいてくる。


 紫苑は説明を任せようと、司書の方へ振り向いた。


「え……?」


 司書はその場に蹲っていた。表情は伺えないが、彼女から発せられる音は苦しみを暗示させる。喘息のような、擦れた息――あるいは何かを吐き出そうとする嘔吐きか。


 そのあまりの有り様に、紫苑は怯える。彼女の身に一体、何が起こっているのだろうか。警備員も司書の異常な様子に気が付いたのだろう。無線で何か、連絡を取っている。そして、紫苑には校舎に戻るよう、促した。





 紫苑は上の空で、自分のクラスへと戻っていた。あれらは何だったのか、考えずにはいられなかった。しかし、そのせいで、注意散漫となっていた。紫苑は何かにぶつかり、尻もちをつく。


「ごめんね! 大丈夫だった?」


 紫苑の目の前には美しい少女がいた。


 髪色や顔つきから外国人のようだ。窓から差し込む日光によって、キラキラと輝く金色の髪をツインテールにしている。エメラルドのようなライトグリーンの瞳を有する目は大きく開かれており、愛嬌があって、可愛らしい。

 体格も小さく、まるで小動物のようだ。高校の制服を着ていなけらば、中学あるいは小学生と勘違いされてしまうかもしれない。


 紫苑は不思議に思った。多分、この少女とぶつかったんだろう。そして一方的に押し負けた。この小さな体にそれほどまでの体幹を有しているのだろうか。しかし――


「レイちゃん!! ぶつかったら謝らないと!」


 少女は紫苑の背後に呼びかけている。紫苑は振り返った。


(高いな……)


 女性にしては非常に背が高い女子生徒。黒髪――ほんのり紫色にも見える、それを一つで結んだ、長いポニーテールを揺らしながら、歩いている。紫苑からは後ろ姿しか見えないが、それでもあの女子生徒の圧巻のスタイルが見て取れる。


 どうやら、あちらとぶつかったようだが、少女の呼びかけに応じず、そのまま、歩き去っていく。


「本当にごめんね!!」


 少女が手を合わせ、紫苑に謝罪をする。そして、小走りで女子生徒の後を追った。紫苑は呆気にとられながらも立ち上がり、再び、クラスへの帰路に戻った。





「なんかあったのか?」

「まあ……、色々と」


 漣夜の質問に紫苑は答えを濁した。もう少し、聞こうと思ったのか、漣夜が口を開こうとした瞬間、教室に担任が入ってきた。


「今日は皆さん、速やかに帰宅してください」


 それだけ言うと、担任はクラスを出て行った。クラスは一瞬の静寂の後、歓声が響いた。中にはあまりにあっさりしているので、帰っていいのか困惑している生徒もいた。


「おい聞いたか!? 今日は早帰りだ!!」


 漣夜は歓喜の表情を浮かべている。そして、そのまま、紫苑へと話しかける。


「紫苑! 今日、俺ん家、来いよ!」

「聞いたわ!」


 紫苑の横には、理心とヒルデが立っていた。


「ヒルデも行けるみたいよ!!」

「マジか!?」

「マジデスヨー!!」


 ヒルデはサムズアップをした。





 漣夜が家に向かう前に、菓子類を購入しようと提案し、四人は今、近所の商店街に訪れていた。

 商店街を歩いていると紫苑は前方にフラフラと足取りが不安定な人物がいることに気が付いた。他の三人も気づいたようで、特に漣夜は心配そうに見ている。


 そして次の瞬間、その人物は倒れた。漣夜は走って駆け寄る。周りの人はまるで何もいないかのように歩き去っていく。


「おい! しっかりしろ!」


 倒れたのは老齢の男性だった。どうやら息をしていないらしい。紫苑は急いで、救急車を呼んだ。漣夜は老人を寝かせて、胸骨圧迫を始めた。胸骨圧迫を開始して、すぐに救急車は到着した。どうやら紫苑より前に通報した人がいたようだ。

 

 救急隊員が老人を運んで行った。救急隊員の一人が、漣夜が老人の身内だと思って付き添いを要求していた。しかし、他人だとわかったのだろう。


「君はすごいな……!」


 救急隊員は酷く、感心していた。それから漣夜と救急隊員は二言三言話し、別れた。


「こういう時の漣夜はやっぱり速いわね……」

「スゴイデース! レンヤダケデシタヨ!」


 ヒルデの言葉を聞いて、漣夜は表情を硬くした。


「しょうがないんだ……。今時、助けた後になんか言われるってのも珍しくないからな。でも俺はさ、助けないで後悔するより、助けて後悔する方がずっといいとそう思うんだ。まあ、ただの自己満かもしれねえけど……」


 紫苑はその言葉に何か心に来るものを感じた。



 パチ…………パチ…………パチ…………



 無粋な拍手の音が響きわたる。拍手の出処は黒いローブを頭から被った老婆だった。しわがれた手をゆっくりと叩いている。椅子に座っていて、目の前の小さな机の上には水晶玉が乗っている。


「先ほどのをずっと見ていた。素晴らしいことじゃ、人を助けるというのは……。ワシも人助けでちょいと占いをしておる身でな……。どうじゃ? 一度占ってみんか? おぬしなら特別に半額でええぞ」


 漣夜は目を輝かせた。


「いいのか!?」

「漣夜の悪い癖だわ……」


 理心は呆れたようにため息をついている。紫苑もまた苦笑いを浮かべている。漣夜はあれでもかなりのオカルト好きのようで、家の本棚にも沢山のそういう類の本が置かれている。


「まあ、ちょいと値が張るがのお……。半額で五千円というところじゃ」

「一回で?」

「うむ」


 その値段を聞いた理心は漣夜の肩に手を置いた。


「ぼったくりよ。悪いことは言わないわ。無視していきましょう」

「いや、俺は占いを間近で見たい!」


 そう言って漣夜は理心の手を振りほどいた。


「そんなことしたって意味ないのに……」


 小さな声で理心が何かを呟いている傍ら、紫苑は占い師を指差し、ヒルデに尋ねる。


「ヒルデ的にはあれ、どう思う?」

「詐欺ですよね? アレ」


 ヒルデの口からは正論が放たれた。しかし漣夜はすでに五千円を払い、占いをしてもらっていた。


「その水晶玉を使うのか?」

「いやこれは雰囲気づくりじゃ。わしクラスになると見るだけで相手を占える。どれおぬしの未来を占ってやろう」


 占い師は漣夜を見て、ふむふむと頷いた後、


「まず、おぬしは火事に気をつけねばならん」

「いや、それ過去だから……」

「違う! 本当に気をつけなければならないのは――」


 そう言って、ちらりと漣夜以外の三人の方を見た。すると突如、目を見開き、震え始めた。


「おい、あんた大丈夫か?」


 漣夜は占い師の前で手を振る。すると突然、占い師から絹を裂くような悲鳴が発せられた。

 

 紫苑は少しだけ驚いたが、理心はよそ見をしていたのか、肩が跳ね上がった。ヒルデは占い師を睨む。占い師は椅子から転げ落ち、そのまま後ずさりをする。


「なんじゃ……なんなんじゃ……なんなんだ!? お前は!?」


 そう言って占い師は漣夜のお金を置いて、後ろの路地に逃げて行ってしまった。紫苑は顔に困惑を浮かべる。理心と漣夜も同様のようだ。しかし――


「何者ですか!?」

 

 突然のヒルデの流暢な大声に、紫苑は勢いよくヒルデの方を見た。ヒルデの手には豪奢な十字架が握られていた。しかし、それよりも紫苑の目を引いたのは、別の存在。



 ――コイツは……!?



 ずっと三人の背後にいたのだろうか。ならば、占い師はコイツを目にして――


「くっ……!」


 紫苑は近くの二人の手を引く。ヒルデはすぐに意図を理解したようだが、理心が怯えているようで気づいていない。紫苑は無理矢理、理心を引っ張りながら、大声を上げた。


「漣夜!! 逃げろ!!」


 漣夜はヒルデの声に気付いていなかったようだ。紫苑の大声に反応して、振り向き、その意味を理解した。漣夜の顔が恐怖からか、引きつる。一斉に四人は走り出した。

 

 四人が見たもの。



 ――鬼。



 紫苑があの日、あの場所で目撃した“鎧”。そのフードの下には禍々しい相貌が隠されていた。“鎧”は確かに実在していた。





 商店街を抜けた後も四人はひたすらに走った。そして、漣夜の家の前でようやく止まった。


 紫苑は背後を見る。どうやら奴は追ってきてはいないようだ。ヒルデと漣夜はそれほど疲れているようには見えないが、理心は息を荒げ、汗だくになり、今にも倒れそうなほどだ。それに加え、酷く、顔が青褪めている。体力の消耗に加え、恐怖もあるのだろう。


「なん……なの……アイツ…………?」

「“鎧”だ」


 歯を鳴らしながらの理心の問いに紫苑は答える。奴への警戒からか、その声音は固い。


「あれが“鎧”……か」


 漣夜は声を漏らす。ヒルデの顔も未だに険しい。


「とりあえず、家、入ろうぜ……」


 漣夜は自分の家を示しながら、そう言った。

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