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CoDE: Hundred  作者: 銀杏魚
第一章 水ノ園学院高等学校編
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第5話 鎧

 あの火災から今日で、丁度、ひと月くらいだ。原因は未だにわかっていない。判明していることは、あの大型ショッピングモールが全焼したことと、多くの犠牲者を出したことだった。

 そのため、この事件は風化せず、度々、ニュースなどでも取り上げられている。だが、未解明というものには得てして、陰謀論というものが湧いてしまうものである。


「だめだ…………」


 紫苑の目の前で漣夜が項垂れている。その様を紫苑は苦笑しながら見守っている。この一ヶ月、紫苑は漣夜を皮切りに、多くのクラスメイトと会話することが出来ていた。そのことに紫苑自身が一番驚いていた。小中と独りぼっちだったのが嘘のようだ。

 その中でも、やはり、よく話をする――友人……いや、親友だろうか。今、紫苑の席の周りにいる。


 まず、一人目は林道漣夜だ。


「見つかんねえよぉ~~~!!」


 スマホを見ながら、泣き言のようなものを言っている。


「なんなのよ!? もう!!」


 二人目は都井理心。こちらも同様にスマホを見ながら、怒っている。


「リコ、オチツイテクダサイ…………」


 そして、このひと月の間に新しくできた三人目。紫苑はこれらの三人と、よく行動を共にしていた。


 三人目の名は坂上・ブリュンヒルデ。正確にはミランダ・ヤコバ・坂上・ブリュンヒルデ。

 堀の深い顔立ちに赤みがかった黒髪。瞳の色は青く、切れ長の目には少し、柔らかさが混じり、どこか、紳士的な雰囲気を感じさせる。その姿は、スカートを履いていなければ、男性と間違われても不思議ではない。髪型はウルフカットで、モデル体型の男装が似合うような麗人だ。

 愛称はヒルデ――他の三人は親愛を込めて、彼女をそう呼ぶ。


 そんな四人の今の話題は――


「“鎧”が全然、いねぇ…………」


 あの事件の日、紫苑が見たという騎士のような風体をした不審者。四人はそれを“鎧”と呼称し、ネットで、情報を探し回っていたのだが――


「どいつもこいつも…………!!」


 理心が怨嗟の声を漏らす。SNSなどを含め、ネットでこの話題が尽きることはなかったが、それは四人が歓迎するものではなかった。

 ネットに転がる、数多くのフェイクや加工画像。眉唾物の情報。不謹慎ともいえるものの数々。例を挙げるとするなら――赤色のローブを着た集団、修道服を着た人物、果てには羊の着ぐるみなど。まるで事件を面白おかしく脚色しているかのような――しかしそれでもなお、“鎧”は影も形もない。


「コスプレデハ?」


 嘘も証言が多くなれば、真実味が増してくる。あのショッピングモールで何らかのイベントが開催されていた可能性も捨てきれない。しかし、今ではそれを知るすべもない。公式サイトは既に閉鎖されており、あの店舗も直に解体されるそうだ。


「はぁ……」


 理心はため息をつきながら、自らの席に戻っていく。そろそろ授業が始まる頃合いだ。理心のため息に紫苑は少しだけ、申し訳なくなった。“鎧”は自分の見間違い――あるいは幻覚かもしれないという思いが徐々に湧いてきていた。

 紫苑もまた、自らの制服の胸ポケットに手を入れながら、ため息をついた。内容物の感触を手に感じながら――





「また、来てくれたんですね! 嬉しいです!!」


 現在は昼休み。紫苑は今、図書館にいた。具体的には読書スペース――席に座っている。その隣に座っているのは黒木愛利寿だ。

 入学式の日からの彼女との付き合いもまた、途切れず、続いている。別クラスということもあり、毎日、顔を合わせるわけではないが、週に最低でも二日、紫苑は図書館へと足を運んでいる。

 紫苑が昼休みに用事があるというたびに、例の三人がにやつくのは紫苑の悩みの種だった。


 そう。三人の想像は当たっていた。紫苑も鈍感ではない。愛利寿からの好意にはかなり早い段階から気付いていた。というより、どんなに鈍感でも察しが付くだろう。なぜならば――


「ちょっと、近くない……?」


 紫苑の言葉に愛利寿は首を傾げる。ほぼ、密着状態で同じ席に座っていると言っても過言ではないほどの近さ。ボディタッチも多めで、紫苑の顔は少しだけ、引きつる。普通に談笑できるほどの仲にはなったが未だにこれだけは慣れない。


 しかし、愛利寿の嬉しそうな顔に紫苑はこれ以上の追及を止めた。


「今日も怖い話?」

「いえ、今日は雑談でもしようかなと……」


 愛利寿――彼女は怖い話が大好物だった。紫苑はこの一ヶ月でそれを嫌というほど実感した。彼女から語られた怖い話は森人瘡、向日葵監獄、猿上島など。

 だが、それと同時に時たま、毛色の違う、神秘的な話をすることもあった。五姉妹の災厄、月の巨人、ヴァールヴァラ王家、ワルプルギスの天蓋など。


「ですが、ご所望とあれば――」

「いらない! いらない! 十分間に合ってるから!!」


 紫苑は首を横に激しく振り、拒否を示す。愛利寿とは正反対に紫苑はホラーが大の苦手だった。楽しそうな愛利寿に仕方なくといったふうに付き合っているだけで、自分から聞きたいとは微塵も思わなかった。


「間に合ってる?」


 突然、愛利寿の雰囲気が変わった。彼女は紫苑の頬に手を当て、顔を近づける。その過程で髪の隙間からあの美しい瞳が垣間見える。しかし、今はその瞳がうっすらだが、濁っているように見える。


「そういう話をしてくれるご学友でもいらっしゃるんですか?」

「え、えっと、いないけど……」

「それは良かったです」


 愛利寿はゆっくりと紫苑から顔を離す。そして微笑を浮かべ、穏やかな雰囲気へと戻った。


「子供って度胸がありますよね?」


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