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CoDE: Hundred  作者: 銀杏魚
第二章 CoDE特殊作戦群編
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第55話 初陣

 あの決闘から数日が経った。紫苑の体の不調――頭痛は例の吐血事件と同じように、すぐに引いた。体にも何ら、問題は発生していないようだ。


 時刻は早朝。紫苑は、現在、会議室にいた。あの説明の時と同じように、黒い空間で円卓の席に座っている。

 しかし、あの時とは面子が違う。円卓に座るのは三人――紫苑、司令、そしてナギ。それぞれ、距離を置くようにして、座っている。


 紫苑がこの場に召集された理由。それは――


「お前たちに任務だ。これより、概要を説明する」


 円卓上に画像が表示される。そこには、立ち入り禁止のテープや赤いカラーコーン。そして、その奥には盛土。


(あの公園だ……!!)


「お前たちも見覚えがあるだろう」


 司令がそう言うと、画像が切り替わり、拡大された小山――その中に埋もれる腐乱死体。


「例の公園で発見された五名分の遺体。その身元が判明した」


 画像が切り替わる。三人の男性と二人の女性――計五名の顔写真が映し出される。


「この五名の関係性は同じ銀行に勤務する同僚だったようだ。そして、数ヶ月前に一斉に退職した」

「その時に、殺されたのか?」


 紫苑の質問に司令は首を横に振る。


「この五名は現在、都内のある町工場に在職している」


 再び、画像が切り替わり。住宅街にある建物の上空写真が映し出される。


(どういうことだ…………?)


 紫苑は混乱する。確かに五名は亡くなっているはずだ。現在というのは死の直前までの比喩だろうか。しかし、あの死体の腐敗具合はそれでは説明がつかない。


 ――致命的な時間のずれ


 これを解消するには、当人が二人でもいれば、説明が――


「まさか…………」

「察しがついたようだな。五名はまだ、存命だ。しかし、遺体は確かにその五名を示している」


 司令は一度、間を置いた。そして――


「今回の討伐対象は“CoDE: Dummy”。殺し、成り代わり、隠れ潜むこの五体の殲滅だ」


 紫苑の脳裏に、あの夜道での親友の偽者の姿がよぎる。その不快感から、表情が歪む。


「不満そうだな?」


 司令から声を掛けられ、紫苑は疑問を覚える。


「シェムシュじゃなくて、残念か?」

「いや、そういうわけでは…………」


 本当に違ったのだが、司令は話を続ける。


「これは、お前の入隊試験も兼ねている。お前が本当に戦えるのか、どうかの」

「入ったんじゃないのか?」

「まだ、お前は見習いだ。そもそも実地を見ていない。実戦で使い物にならなければ意味ないだろう?」


 棘のある言い方だが、司令の言葉には一理ある。紫苑はそう感じた。


「化け物らしい化け物というのは案外いないものだ。少なくとも、お前が相手する輩は専ら、人型ばかりだろう。それはお前の目的でもあるシェムシュ含めてな」


 司令は不敵な笑みを消し、紫苑を睨む。


「お前に戦う勇気はあるのか? お前に命を奪う覚悟はあるのか? それを今回ので、改めて見定めさせてもらう」


 円卓上のモニターが消える。そして、司令は立ち上がった。


「これはお前の悲願への第一歩だ。だからこそ、心してかかれよ」

「わかりました」


 紫苑は気持ちを切り替える。



 ――予行演習は終わりだ。





 場所は家々が立ち並ぶ、都内の住宅街。そこに場違いともいえる黒色の簡素な装甲車両が止まっている。中から、軍隊を思わせるような装備を着た数人とラフな格好の男女が降りてくる。


 ラフな格好の男女というのは紫苑とナギのことだ。ラフと言ってもナギの場合は、いつもの和装だ。紫苑は最初のスーツ以外、ナギが一般的な服装をしているのを見たことが無い。


 紫苑は周囲の人員を見ながら、自分はこんな服装で良いのかと少し、疑問を感じていた。しかし、戦闘の際は結局、鎧を着るので問題ないようだ。彼は、自らのポケットに入っている支給された円盤に触れる。


『お前にこれを渡しておく』


 会議の後、司令から渡された装備――“X-armor”、その円盤。


『それは汎用型だ。ナギとローズのと違って特別な機能は無いが、必須の機能は、諸々、備わっている。そして、この基地内と同じように、それにも人工知能――“ELIZA”が搭載されている。任務の補助に役に立つ。うまく扱うことだ』


 数刻前の記憶を呼び起こしながら、紫苑が歩いていると――


「お待ちしておりました!!」


 工場の建物前に、揉み手をした、歯に衣着せずに表現するならどこか、胡散臭い老人が立っていた。


『事前に根回しした責任者と出会えるはずだ』


(この人か…………)


 司令の言っていた人物。紫苑は責任者と思しき人間を観察する。白髪の目立つ、還暦ほどは行っているであろう男性。おそらくは工場長。作業着を着て、潰れたような帽子を被っている。


「化け物を退治しに来たと聞いております! まずは自己紹介をば、――」

「いらない」


 ナギの言葉に老人はポカンと口を開けている。ナギの言い方に紫苑も思うところがないわけではないが、あまり時間がない。ここは住宅街のど真ん中。駅も近い、この立地では、他の人員が行っている人払いにも限度があるだろう。

 早々に任務を済ませなければならない。


「早く、案内して」

「ヘへッ……、わ、わかりました。どうぞ、こちらに……」


 引きつった笑い声を漏らしながら、建物の鍵を開ける。


(家みたいだな…………)


 紫苑は建物の外観を見る。少しばかり、他の家々よりも大きい程度の住宅のように感じられる。住宅兼工場――本当に小さな町工場のようだ。



 ――戸が音を立てて、開く。


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