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CoDE: Hundred  作者: 銀杏魚
第二章 CoDE特殊作戦群編
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第29話 病院

「待っ――」


 目を開けた紫苑の視界に映るのは室内の天井とそこに向かって、伸ばしている自分の腕だった。


(ここは……どこだ?)


 紫苑は体を起こし、周囲を見渡す。ここは病室のようだ。そして、自分は薄青色の患者衣を着ている。近くに置かれているデジタル時計は意識を失った日から二週間後の日付が表示されている。


(それほど眠っていたのか……)


 紫苑は自分が入院していることは理解した。だが、一つだけ奇妙な点がある。


 ――左腕に刺された点滴。


(僕は……確か左腕を――)


「起きましたか」


 紫苑の横にいつの間にか人が立っていた。声を掛けられるまで気配すら感じなかった。紫苑は警戒レベルを引き上げる。だが、その人間は意に介さず、紫苑の病室のカーテンを開ける。


 紫苑は窓から差し込む光の眩しさに手をかざす。そして、光にも慣れ、声の主の姿を視認する。それは女性だった。ナース服を着ている。だが、紫苑が感じた第一印象は……


 ――気味が悪い。


 まず、目に付いたのは肌。血色が悪いどころの話ではない。病的なまでに青白い。それから頭髪は白、瞳も白。何かの病気を患っているとしか思えない。そして、最後に整い過ぎている顔面。綺麗に配置されており、まるで作られたかのような印象を感じさせる美。


「何者だ……!?」


 目覚めの第一声の言葉ではないが、紫苑は今、気が立っている。それに加え、このナースときた、正直、不可抗力と言えるだろう。だが、そんな言葉を掛けられたナースは淡々と――


高尾(たかお)祥子(しょうこ)です」


 表情筋が死滅しているのではないかというほど、最低限の口の動きだけでナースは自分の名前を答えた。


 紫苑は困惑している。同時に、少しの罪悪感が湧いた。流石に初対面の第一声ではなかったかもしれないと反省し、謝罪の言葉を口にしようとした瞬間――


「起きたのか」


 そう言って、白衣を着た、アラサーぐらいの男性が部屋に入ってきた。そして紫苑のいるベッドの近くの椅子に座った。


「私は御古(みこ)悠悟(ゆうご)。君の担当医だ。よろしく!」


 どうやら、この男は医者のようだ。黒髪はぼさぼさ、眼鏡も少し、曇っていて、服もヨレヨレ。多分、身嗜みに無頓着なのだろう。だが、その顔は整っており、垂れ目で優し気な雰囲気の残念なイケメンという印象だ。


 しかし、紫苑は別のことが気になっていた。というのも目の前の医者の体がぶれているように見える。いわゆる一種の乱視のような状態が近いかもしれない。紫苑は目頭を揉む。


(そういえば、眼鏡――)


「じゃあ、目覚めの検診だ!」


 紫苑の思考は担当医の大声に邪魔された。陽気なテンションだが、正直、今の紫苑はそれについていける精神状態ではない。


「何か、体に変なところはあるかな?」


 紫苑は担当医の言葉を無視し、自分から質問する。


「ここはどこなんですか? 学校はどうなりましたか?」


 担当医は特に腹を立てた様子もなく、紫苑の質問に答える。


「ここは五ノ竜記念病院だ」


(理心がいる病院だ!)


「君の学校は全焼。原因は不明。教職員、生徒、並びに、あの日いた学校関係者は全員、死亡あるいは行方不明。生存者は君だけだ」


 担当医の言葉に紫苑は言葉を失う。心のどこかで微かにだが、希望を抱いていた。もしかしたら生きてるんじゃないかと。あの二つの焼死体は何かの間違いなんじゃないかと。


「私も検視に参加した。何分、死体の数が多すぎる。損壊状況も酷いせいで、身元が特定できないのがほとんどだ」


 担当医はため息をついた。


「救急救命士が言うには、君は学校の外壁に寄りかかるように意識を失っていたらしい」


(なんで、そんなところに……?)


「外傷はなかったが、多分、酸欠だったんだろう。こんなふうに受け答えが出来ているあたり、脳に異常は無さそうだが……」


(外傷が……ない……!?)


 そんなはずはない、紫苑は確かに、顔面を殴られ、腕を折られ、腹を穿たれた。何より、最終的には欠損もした。にもかかわらず、外傷が無かった。

 しかし、担当医が嘘をついていないことは紫苑の現在の状況を見れば、一目瞭然だった。それに自分自身でも痛みを感じたりはしていない。


(どういうことなんだ…………?)


「どこか、痛むかい?」


 紫苑は黙って、首を振る。担当医はすでにカルテを取り出しており、記述していく。


「どこか、異常は?」


 本当なら腕が無いですと言ったところで医者を困らせるだけだろう。だが、一つだけ、不調ではないが、相談したいことがあった。


「目が良くなったような……気がします」

「自覚があるくらいか……。普段、眼鏡をかけているのかな?」

「はい……」

「じゃあ、今は眼鏡が必要?」


 紫苑は周囲を見渡す。次に窓の外の風景を眺めた。そして――


「必要なさそうです」

「なるほどね。念のため、それは検査したほうがいい。まあ、後日だけどね」


 担当医は立ち上がり、胸ポケットから何かを取り出す。それは手紙のようだ。


「君のお父さんからだ」


 そう言って、紫苑に手紙を渡す。紫苑は不思議に思いながらも、それを受け取り、開く。


『紫苑へ


 この手紙を読んでいるということは無事に目が覚めたんだな。俺は古い友人の頼みでここを少しの間、離れないといけなくなった。紫苑が起きるまで待ちたかったんだが、火急の用なんだそうだ。本当に済まない。紫苑には一人で寂しい思いをさせてしまうが、すぐに用事を終わらせて、帰ってくるからそれまで待っていてほしい。


 P.S. 凄いお土産を持って帰るから楽しみにしといてくれ!!』


 紫苑は手紙を閉じる。


「読み終わったかい?」


 医者の言葉に紫苑は頷く。


「じゃあ、検診の続きだ」


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