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CoDE: Hundred  作者: 銀杏魚
第一章 水ノ園学院高等学校編
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第1話 入学

 ここは私立水ノ園(みずのその)学院高等学校。臨海部に建てられたこの学校は今、沢山の人でごった返していた。それもそのはず、今日は入学式だからだ。

 

 校門から校舎を繋ぐ、並木道には多くの新入生と保護者が歩いている。そんな中を歩く二人の人影。一人はこの春、新しく、この学校に入学した渡辺(わたなべ)紫苑しおん。そしてもう一人は紫苑の父、渡辺(わたなべ)船人せんと


 紫苑は入学式であるというのに浮かない表情をしていた。


「友達できるかな…………」


 紫苑はポツリと独り言を零す。紫苑は自らが暗い性格で、地味な人間であることを自覚していた。それが原因かは分からないが、小中と誰からも話しかけてもらえず、孤独な学校生活を過ごしていた。


「大丈夫だ。ここなら友達もできる!!」


 父が紫苑に励ましの声を掛けた。父を一言で表すなら、偉丈夫。がっしりとした体格に明るい性格。顔も男前で、紫苑も憧れのようなものを持っていた。


「ハァ……」


 紫苑はため息をつく。どうして、親子でここまで、違うのか、紫苑は不思議でしょうがなかった。


 そんなふうに歩いていると、二人は体育館に辿り着いた。ここで入学式が行われる。入口にあった黒い石には第一体育館と彫られている。中に入り、紫苑は父と別れた。生徒が前に座り、保護者が後ろに座るようだ。


 紫苑は自分の席へと向かう。その最中、目の前で、女子生徒が躓いた。


「わっ!」


 咄嗟に紫苑は腕で支えた。紫苑の目に受け止めた生徒の顔が移る。


 髪をおさげにし、前髪で目を覆い隠しており、顔の半分以上が隠れている。しかし、それでもなお、顔の輪郭や、鼻筋、口元から、秘められた美しさが垣間見える。

 

 だが、それはそれとして、紫苑の頭は今、真っ白になっていた。


(ど、どうすれば…………!!)


 ここで、紫苑の対人経験の無さが裏目に出た。ありきたりな言葉でもかければよいのだが、そんな発想にも至らず、ただ、無言で彼女を見つめている。


「ごめんなさい!!」


 女子生徒は顔を真っ赤にしながら、飛び起きて離れていった。彼女が離れたことで紫苑は再起動し、フラフラと自分の席へ向かう。



「よっ!!」


 紫苑が座ったタイミングで隣の席の男子生徒が手を上げて、話しかけてきた。


 その生徒を一言で表現するならば、チャラい。髪を茶色に染め、服を着崩している。少々、ヤンキーぽさもあるが、特にピアスなどは付けていない。多少、鋭い目つきをしているが、笑顔が似合う、文句なしのイケメンだ。この顔の造形の良さもチャラさに一役買っているのだろう。


「お前、すごいな!」


 紫苑は少しだけ、男子生徒の雰囲気に怯えながらも、話を聞く。


「転びそうになってたの助けただろ? お前、かっけえな!!」


 紫苑は目を見開いた。そして、自分が何を言われたのか理解し、照れくさげに頬を掻いた。


(いい人かも……)


 二言三言しか会話をしていない紫苑だったが、心の中で、この男子生徒と友達になれるかもしれないと期待を持っていた。





「ただいまより、水ノ園学院高等学校の入学式を始めます。」


 入学式が始まった。豊富に髭を蓄えた、老齢の男性が杖を突きながら、壇上に上がる。


「私が水ノ園学院高等学校の学校長を務めています。沢野(さわの)寿郎(としろう)と申します。皆様が今日、この学校に入学されるのを心よりお待ちしておりました」


 校長の話と言うのは大抵、長いものであると相場が決まっている。なので、紫苑も話半分で聞いていた。


「生物は海から生まれました。つまり全ての始まりは水なのです。人間の体も半分以上は水でできていると言われています。要するに水分補給は忘れぬようにこれからどんどん熱くなりますから、健康には気を使ってください。くれぐれも火には気をつけてください。火は危ないですからね」


 最後にそう締めくくり、校長の話は終わった。


 その後、入学式は恙なく進行した。入学式も終わり、生徒は皆、クラスごとに退場していく。紫苑も同様に同じクラスの生徒たちと一緒に教員の引率で退場する。

 




 退場した紫苑が辿り着いた教室は一年六組だ。


「私が君たちの担任を務める久保山(くぼやま)愛凶(らくう)です。よろしくお願いします」


 一年六組の担任は眼鏡をかけている真面目そうな教師だ。目つきが鋭いというわけではないが、厳しそうな雰囲気を纏っており、笑っている姿が想像できない。体型は細身で、大っぴらにではないが、密かに人気が出そうな顔つきをしている。


「とりあえず今日は顔合わせですので、出席番号順に自己紹介で名前と話したいことがあれば一言、無ければ名前だけで結構です」


 入学式と言うのは往々にして自己紹介を行うものだ。


「では出席番号一番の君から」

「はい、僕の名前は――」


 ワ行で始まる生徒はどうやら他にいなかったようで、紫苑は出席番号で最後の席に座っている。そして前の席の生徒が紫苑の方へ振り向いた。


「よっ! さっきぶり! 名前は?」

「えっと……、渡辺紫苑……」

「俺は林道(りんどう)漣夜(れんや)だ! よろしくな!」


 漣夜は手を伸ばす、紫苑は恐る恐る、その手を握り、握手をする。


「なんか紫苑とは仲良くなれる気がするんだよな……。俺のことも漣夜って呼んでくれていいぜ!」


 どうやら、紫苑と漣夜は同じ気持ちだったようだ。紫苑は初日にして、念願の友人を作ることができた。

 その後、初めての友人――漣夜とは入学式の話で盛り上がった。校長が髪を青く染めていたのは、漣夜も気になっていたようだ。


「私は――」

「おっ! 次は俺だ!」


 どうやらいつの間にか漣夜の前まで来ていたようだ。そして、漣夜の前の生徒の自己紹介が終わった。


 漣夜は立ち上がる。


「俺の名前は林道漣夜だ! えーと好きなことは体を動かすこととゲーム! みんなよろしくな!」


 紫苑の番だ。


「えっと、渡辺紫苑です。趣味はランニングと読書です。これからよろしくお願いします」


(忘れた…………)


 紫苑は事前に自己紹介を考えていたが、緊張してド忘れしてしまった。結果、無難な自己紹介にはなった。


「紫苑、さっそくどこか遊びに行こうぜ!」


 紫苑の心配は杞憂に終わった。初日から無事に友達ができたようだ。突然の遊びの誘いに紫苑は無言で目を輝かせている。漣夜はその反応に若干引いているように見える。


「映画館に行きましょう!!」


 紫苑と漣夜に割り込む女子の声。紫苑はその声がした方を向く。そこには女子生徒が立っていた。


 黒髪を横でまとめている。所謂、サイドポニーテールというやつだろう。ぱっちりと大きく開かれた目は気が強そうな、それでいて快活そうな雰囲気だ。そしてスタイルも均整がとれていて、美しさと可憐さが同居している。

 そんな美少女に気圧されながら、紫苑は漣夜に尋ねる。


「だ、誰……?」

「ああ……幼馴染だ……」


(幼馴染!?)


 どうやら、この美男美女は幼馴染のようだ。お似合いの二人だ。付き合っていても不思議ではない。だが、紫苑は幼馴染という単語に反応を示した。


「憧れるなあ……」


 紫苑にとって幼馴染というのは最初からできる友人というイメージが強い。故に、ボッチの紫苑は、幼馴染というものに並々ならぬ憧れを持っている。だが――


「いや、そんないいものじゃない……」


 漣夜はかなり、渋い顔をしていた。そこには隠れた苦労が伺える。


「映画館行くわよ!!」

「わかった、わかったよ……」


 女子生徒の有無を言わさない提案に漣夜は力なく答えた。その返答に満足したのか、いきなり、女子生徒は紫苑の方を向く。


「そこの眼鏡かけた、君は確か……渡辺紫苑だったわね! 合ってる?」

「うん、合ってる。 えっと……ごめん……聞いてなかった……」

「いいのよ! 気にしなくて! どうせこのチャラ男がずっとしゃべりかけてたからでしょ?」


 紫苑は苦笑いを浮かべる。紫苑もずっと思ってはいたことだが、幼馴染の特権というものだろうか、平然と漣夜にチャラ男と言ってのけた。


「なあ、何度も言ってるけど、この髪は地毛なんだって!! だからチャラ男って言うのやめろ!」


(地毛なのか……)


 どうやら、漣夜の髪は地毛のようだ。そして、チャラ男と呼ばれるのが嫌らしい。紫苑は言わなくて良かったと心底、ホッとしていた。折角、できた友人を危うく、失うところだった。

 だが、漣夜の発言からこの女子生徒は頻繁に言っているようだ。こういう軽口もいつかは言ってみたいと紫苑は羨ましく思った。


「いや、あんたの髪が黒くても、あんたはチャラ男よ」

「ふざけんなああああああ!!!」


 漣夜は発狂した。それを無視して女子生徒は紫苑に話しかける。


「私は都井(とい)理心(りこ)! よろしくね! 一緒に出掛けるんだし、理心って呼んで!」

「え、えっと、よろしく」


 紫苑は少しだけ、困惑した。二人の間から全くと言っていいほど甘い雰囲気を感じない。幼馴染ということもあり、疎外感を感じるかと思ったがそういう心配はなさそうだ。


 その後、紫苑は二人と連絡先を交換した。二人とも紫苑と同じようにこの学校の近くの住宅街に住んでいるようだ。放課後は最寄り駅の流流塚(りゅうづか)駅で待ち合わせをしようということになった。

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