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CoDE: Hundred  作者: 銀杏魚
第一章 水ノ園学院高等学校編
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第18話 ドッジボール

 思考を中断させるに足る人物。異様な雰囲気の男子生徒。腰を曲げているので、最初は何処かを怪我しているのかとも思ったが、その顔を見て、戦慄した。


(老……人……?)


 顔には数多くの深いしわが刻まれている。老齢の男性。この学校の校長と同じくらいか、それ以上。何故、体操服など着ているのだろうか。紫苑の心の中に恐ろしい答えが浮かび上がりそうになったが――


(ああ、予備か……)


 理心の言っていた貸出。何らかの理由で、着替えが必要になった教員なのだろう。紫苑は合点がいき、すぐに思考を打ち切った。





 列は進んでいき、登校の際にはほとんど使わない――所謂、裏口に到着した。そこを抜けると、目の前には綺麗な体育館の入り口がある。その近くのプレートには第二体育館と書かれていた。


 中に入ると、すでに多くのクラスが整列している。レクリエーションの内容はドッジボール。交流を念頭に置いてはいるが、一応トーナメント形式でやるようだ。それ以外にも自由に対戦できるコートがいくつか存在している。


 紫苑のチームは何度か自由に試合をした後、チームの本格的な第一回戦が始まろうとしていた。


 紫苑は今までの試合から、生徒の大凡の実力を把握できた。予想通りというべきか、漣夜は運動神経が良い。ドッジボールを習っていたわけではないようだが、生来のセンスだろうか。かなりの実力を持っている。

 しかし、意外なことにもう一人、実力者がいた。それはヒルデ。巧みに変化球を扱い、自らの手足のようにボールを操る。かなりの技術を有している。

 この二人がクラス内で二強。二人が強すぎるせいか、連戦、連勝を重ねていた。


 第一回戦の準備時間。ヒルデは相手チームを見ながら、呟く。


「ニタヨウナカミガタデスネー」

「ああ、多分野球部だな」


 ヒルデの言葉に漣夜はあっけらかんと言った。しかし、理心は焦り出し、


「まずいんじゃないの!?」

「まあ、いけるだろ!」


 理心の心配を漣夜は軽く受け流す。本当に心強い、紫苑はそう思わずにはいられなかった。


 試合が始まる。審判が勢いよく、ボールを上げ、戦いの火蓋が切って落とされた。





 試合開始から少し経過した頃、そこには目を疑うような光景が広がっていた。それはまさに、惨状と呼ぶにふさわしいだろう。


 紫苑のチームは残っているのが、紫苑、漣夜、ヒルデの三人と元外野の数名。対して相手チームはアウトにされたのが数名のみで試合開始前とほとんど変わらない。


「あいつ、やべえな……」


 漣夜が指さしたのは相手チームのとある女子生徒。先ほど出会った、例の美女。


 黒曜石のような漆黒に微量に紫色を混ぜたかのような色の髪をポニーテールにし、垂らした髪は腰の位置まで来ている。切れ長の瞳は知性を感じさせ、鼻筋の整った顔は非常に美しい。しかしその顔に浮かぶ表情は凍り付いており、冷徹な雰囲気を醸し出している。

 そして特筆すべきはその身長。周囲の女子生徒よりも頭一つ分大きい。またそのスタイルも圧巻の一言に尽きる。腰の位置が高く、足も長い。途轍もないスタイルの持ち主だ。


 だが、その女子生徒は美しさだけではなかった。彼女からボールが放たれる。そのボールはヒルデを狙って投げられた。辛うじてヒルデは躱せたが、後ろにいた生徒にボールが当たってしまった。


「アウトです。外野に出てください」


 無慈悲な審判の声が鳴り響く。あの美女こそがこの惨状を作り出した元凶。紫苑のクラスの半数を外野に送った下手人。


「なんつーボールだよ……!」


 漣夜は冷や汗を流している。あの女子生徒から幾度も放たれたボールは砲弾と見紛うほどの圧倒的な威力を有していた。


(やっと、思い出した……)


 前に一度、廊下でぶつかった女子生徒。今の状況を見れば、何故、あの時、一方的に倒されたのか、その理由を紫苑は容易く、想像できた。


 漣夜はボールを拾い上げ、何とか奮起し、ボールを投げた。しかし――


「クソッ!!」


 漣夜のボールはあの女子生徒に片手で受け止められていた。漣夜は悔しさに顔を歪めている。そんな漣夜の姿を見て、紫苑は自分に何かできないかと考えた。だが――


(僕なんかが……)


 足の速さならまだしも、球技に関しては、からっきしだった。というより力の無さを紫苑自身、自覚しており、この試合の間もボールを捕らずに回避に専念していた。


「紫苑!!」


 漣夜の声が大きく響く。紫苑は咄嗟に我に返る。ボールが紫苑に向かって飛んできている。回避は間に合いそうにない。しかし――


(ボールは見えてる)


 紫苑は確かにその目でボールを捉えていた。彼女の投げるボールの全てを。ならば――


(捕るんだ)


 紫苑は動かない。その場で両手を広げ、捕球の体勢に入る。



 バァン!!!



 館内に、銃声のようなものが響き渡る。こんなものが人の体にボールが当たる音なのだろうか。紫苑はボールの勢いを殺しきれず、尻もちをついていた。だが、その手にはしっかりとボールが握られていた。


「紫苑!」

「よく捕れましたね……」


 漣夜は紫苑に近づいていく。ヒルデは感嘆の声を漏らす。


 紫苑は近づいてきた漣夜にボールを渡そうとする。だが、それを漣夜は首を振り、拒否した。


「お前が投げるんだ。紫苑」


 紫苑は驚愕の表情を浮かべる。漣夜は紫苑に笑いかけ、話を続ける。


「ボールを捕れた。なら次はあいつだ。最後にあいつだけは外野に送るぞ!」


 そう言って漣夜は紫苑の背中を叩く。


「最後にあの澄まし顔に一発かませ!!」


 漣夜の言葉に紫苑は力強く頷く。


 紫苑は相手のチームに近づいていく。今まで投げていなかった生徒がボールを持っていることに相手チームは困惑しているようだ。しかしあの女子生徒の澄まし顔は変わらない。


 紫苑は構える。狙うは一人。


「ぶちかませ!! 紫苑!!」


 漣夜の言葉に背中を押され、紫苑はボールにありったけの力を込めた。その瞬間……





 ――体育館が爆発した。

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