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CoDE: Hundred  作者: 銀杏魚
第一章 水ノ園学院高等学校編
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第12話 乱入

「“【蛇抜山海嘯じゃばつざんかいしょう】”」


 何者かの声が響いた。そして次の瞬間、紫苑の周囲の壁が一斉に崩壊し、蚯蚓へとなだれ込む。そのまま、圧倒的な威力で怪物の巨体を押し流した。


 間一髪、喰われずに済んだ。紫苑は腕で汗を拭う。心臓が強く波打っている。今さらになって自分は死ぬところだったのだと理解した。


 紫苑の背後から足音が聞こえる。


「下がっててくださいっス。勇気ある人」


 その言葉とともに家々の瓦礫を飛び越え、制服のようなものを着崩した青年が暗闇から姿を現した。


 (やばいな……)


 途轍もない破壊力によって、周囲の家々は瓦礫と化した。暗い、瓦礫の荒野で、蚯蚓と青年は相対している。紫苑は後ろに下がりながら、青年を観察する。


(何者なんだ…………?)


 紫苑の目には両方とも化け物にしか見えなかった。


「効いてないっスか…………」


 蚯蚓は、体をくねらせ、青年に突進する。その姿からダメージを受けているようには到底見えない。むしろ動きが俊敏になってさえいる。


 青年は何かを取り出した。


(札だ……!!)


 紫苑は意欲的に観察する。札の使い方、あるいは狐面に何かつながるものがあるかもしれない。


「“木符(もくふ)木洩水もくえいすい異法発芽(いほうはつが)魔王魔亡(バオバブ)】”」


 そして、札を目の前の瓦礫へと投げた。突如、青年の目の前に瓦礫を押しのけ、植物が生えてくる。その植物はまるで時間を早送りしているかのような通常では考えられない速度で成長している。


 だが、異質なのは成長速度だけではなかった。幹の表面に何かが浮かび上がっている。それはまるで、人の顔のような模様。怯え、叫んでいるような顔がいくつも浮き出ている。

 おそらくは、目の錯覚だろう。しかし、樹木からまるで、悲鳴のような音と共に幹が段々と太くなっていく。

 余りの禍々しさに、紫苑は顔を顰める。


 いつの間にか、その植物は蚯蚓の体長を超えていた。蚯蚓も、警戒しているのだろう。動きを止めた。紫苑を嵌めた時と同じように微動だにしない。しかし、青年の方は何故か、一歩一歩後ずさっている。


「やらかしたっス……」


 紫苑は嫌な予感がした。青年は振り返り、紫苑の方を見た。その顔には引きつった笑みが浮かんでいた。


「逃げるっス!!」


(何しに来たんだコイツは……!?)


 木から離れるように、青年は瓦礫を器用に飛び越え、離れていく。紫苑も不格好ながらも瓦礫を飛び越えていく。依然として、後方では悲鳴のような音が響いている。紫苑は後ろを振り返り、蚯蚓を見た。樹木の近くで微動だにしていない。どうやら追ってくる気配は無さそうだ。


 紫苑は青年の後を追いながら、樹木と距離を取る。そして、背後の悲鳴が小さくなったあたりだろうか。突如、音が消えた。


「来るっスよ」


 青年は走るのを止め、樹木のある方を見据えている。紫苑も青年に倣い、同じ方向を見る。


(なんだ、アレ……!?)


 空気を大量に入れられた風船のように膨らんだ樹木が視線の先にあった。所々から黒い液体を漏らしながら、勢いよく、破裂した。


「まさか、爆発するとは……」


 樹木の近くにいた蚯蚓は爆発の際の衝撃で瓦礫へと倒れこむ。


 ――駆動音。


 少なくとも、生物からはならないであろうその音。しかし、紫苑はすぐに蚯蚓のものだと理解した。隣の青年も、同様のようだ。既に制服から札を取り出している。


「“火符(かふ)(ひのえ)鬼火(おにび)】”」


 青年の周りに青白い火の玉が浮かぶ。蚯蚓は瓦礫を弾き飛ばしながら、先ほどの突進など比ではないほどの速さで青年へと向かってくる。その様はまるで怒り狂っているかのようだ。


 青年は悠然と前に手を伸ばし、火の玉を蚯蚓に飛ばしていく。蚯蚓はそれを躱すこともしない。火は吸い込まれるように蚯蚓の肉体へと命中する。

 とてつもない火力で蚯蚓はその肉体を焼かれる。そんな様になりながらも、突進を続けるが、青年が次々と飛ばす火によって遂に限界が来たのだろう。体全体をくねらせながら、あの駆動音を響かせる。そしてそのまま、倒れ、動かなくなった。


 青年は蚯蚓が動かなくなったタイミングで指を鳴らし、何故か、火を消した。そして青年は自分の周りに火の玉を浮かべたまま、蚯蚓に近づいていく。蚯蚓の肉体は黒焦げになっており、動く気配はない。絶命しているのだろう。


 青年は、黒焦げの亡骸を触る。そして、指で叩いた。


「改造されてるっスね」


 叩いた部分から、金属音が響く。青年は頭部の口元まで歩くと――


「逃がさないっスよ」


 そう言って、浮かべていた火の玉を口の中に投入していく。どうやら、蚯蚓は生きていたようで、青年に襲い掛かろうとしたが、内側から焼かれ、完全に焼失した。瓦礫の所々から火の手が上がっているところを見るに、全長は途轍もなかったのだろう。


 怪物は死んだ。紫苑は緊張の糸がほぐれ、その場に座り込む。


 そんな紫苑に青年が近づいてくる。そして、青年は紫苑の顔を見て、肩眉を上げ、怪訝そうな顔をしながら、顔を近づけてくる。かなりの美形だ。女顔とまではいかないまでも、中性的なイケメンだ。黒髪の一部分に白いメッシュが入っている。


「初対面っスよね?」

「は、はい…………」


 紫苑は困惑しながら、答えた。その答えに青年は何度か頷きながら、顔を離し、満面の笑みを浮かべる。


「無事で良かったっスよ!!」


 明るい声音でそう言った。しかしすぐに青年は浮かない表情になり、


「死んだらそこで終わりになんスよ……。当人はね。でも残された者たちは続いてゆく。心に深い傷を残しながら……」


 そう言い終わった後、青年は再び、笑顔になった。


「自分を大切にしてくださいっス! さあ、手を!」


 青年が手を紫苑に伸ばしてきた。紫苑はその手を掴む。すると、青年は紫苑を立たせた。


「“急急如律令きゅうきゅうにょりつりょう”」





 紫苑はカフェの前にいた。




 ――――夢…………?


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