第89話: 魔力インフラを巡る攻防——ロジックボム・ポイントに迫る!
「——これで、当面の危機は去りましたね」
天文台のアジト。クロエ・ワークライフは、新型魔力コンデンサ「マナ・リザーバーGX」の暴走事件に関する最終報告書をシステムにアップロードし終えると、静かに呟いた。
(それにしても
バーンズさんがあんなにも成長するとは。
非常に興味深いです)
しかし、根本的な問題は何一つ解決していない。
「だが、いつまでもこうして防戦一方じゃ
埒が明かねえ!
いっそ、エネルギーを吸い上げてる大元の
——魔力パイプでも何でも
この俺がぶっ壊すっていうのはどうだ?」
テーブルに拳を叩きつけ、バーンズが息巻く。が、即クロエが続ける。
「残念ですがそれでは何も解決しません。
何らかの魔法的な方法、
あるいは古代技術などを用いて
ヘキサグラマトンは王都の魔力インフラから
エネルギーを吸収していると見られます。
しかし、下手に供給を断てば
先日のコンデンサのようにエネルギーが収束し
暴発あるいは不規則挙動等による
別の被害も懸念されます」
「ぐっ……。じゃあどうすりゃいいんだよ!」
「落ち着け、バーンズ。
だが、我々から仕掛けるべき
という点については同意する。
問題は、その方法だ」
バーンズたちの議論を聞きながら、クロエは壁一面に広げられたデータを指し示した。
「——ええ。
今思えば……以前から続いていた
魔力インフラの異常。
もしかすると
あの頃から、こんなことがいつか起きるという
予兆だったのかもしれません。
そう考えた上で私が提案するのは——
より効率的なプランです」
クロエの言葉に、皆の視線が集中する。
「先日、王立禁書庫の地下で我々が掴んだ理論
——ヘキサグラマトンのシステムに存在する
『ロジックボム・ポイント』。
これを衝くことが、我々の唯一の勝機でしょう。
しかし、その正確な座標とトリガーとなる術式は
依然として不明。そこで……」
クロエが提案したのは、いい意味で彼女らしくなく、ある意味で彼女らしい、大胆かつ危険な作戦だった。
「王都の魔力インフラと
ヘキサグラマトンが『吸収』という形で
接続していることを逆手に取り
探査用の魔力パルスを送信します。
そしてシステムからの応答を解析し
中枢である『ロジックボム・ポイント』の座標を
絞り込む——ということに試します。
言うなれば
巨大な蛇の尻尾を僅かにつついて
心臓の位置を探るようなものです」
「なるほど。
——防御ではなく、攻めの情報戦というわけか」
アランが納得の声を漏らした。
「だが、そんなことをすれば
ヴァイスクに俺たちの居場所を
教えてやるようなもんじゃないか!」
バーンズの懸念ももっともだった。
「その通りです」
クロエは平然と肯定した。
「この作戦は、賢者ヴァイスクに
我々の意図と現在地を特定されるリスクを伴います。
ですが——
座して世界の終わりを待つよりは
遥かに効率的で意味がある選択です。
リスクとは、低ければいいわけではありません。
適切に管理しながら
とるべきリスクは取らなければなりません。
役割分担も既に計算済みです」
そう言うと、クロエとリリィがハッキングとデータ解析を、アランとバーンズが物理的な警備と緊急脱出路の確保を担当。
そして、作戦の成否を握る鍵としてシオン・アークライトを名指しした。
「シオンさん。
あなたには、我々が送り込む探査パルスを
古代魔法で偽装していただきます。
自然発生した魔力ノイズなんかどうですか?
あなたの好むトリッキーな作戦でしょう?」
——と、挑戦的な笑みを浮かべるクロエ。いつの間にかアジトの隅のソファに腰掛けていたシオンは、楽しげに笑った。
「ふふ、実に面白い。
僕の『悪戯心』が試されるというわけだね。
いいだろう、引き受けた」
こうして、チームの総力を挙げた壮大な『サイバー戦争』の火蓋が切られた。
◇
クロエの指がコンソールの上を舞い、リリィの演算補助を受けた探査パルスが、王都の魔力ネットワークへと放たれる。
シオンは傍らで難解な呪文を詠唱し、魔力の流れを巧みに歪め、偽装していく。
「順調順調!」
しかし、敵の反応はクロエの予測よりも速く、正確だった。
『警告!
強力なカウンタープログラムを検知!
アジト端末の座標が逆探知されています!』
「なんですって?」
「速いナァ——!」
リリィの悲鳴に近い報告が飛ぶ。ヴァイスクが構築した防御システムは、クロエたちの探査を即座に感知し、猛烈な勢いでカウンターを発動させてきたのだ。
「上等です!
リリィさん。
カウンタープログラムのパターンを解析!
アランさん、バーンズさん。
いつでも動ける準備を!」
クロエの思考も極限まで加速する。敵の攻撃を捌き、かわし、隙を縫ってデータを抜き取る。それはミリ秒単位の判断が勝敗を分ける、息詰まる攻防。
数分……いや、数秒後だろうか。
「……ここまでです! 皆さん、撤収!」
クロエは作戦を中断し、叫んだ。彼女の額には汗が滲んでいたが、翠色の瞳には確かな手応えが宿る。
「完全な座標特定には至りませんでしたが
目標領域を王宮地下の特定セクターまで
絞り込むことに成功しました。
ですが、同時に我々の居場所も作戦も
ほぼ特定されたでしょう。
——猶予はありません!」
クロエの言葉と共にアジトの外には「兄弟団」の連中か——何者かが迫ってきていた。
「ここに長居は不要です。
……手に入れた情報を携えて、次に行きましょう」




