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第81話: 地下遺構『オリジン・ヘブン』とバーンズと戦鬼の因縁対決

 数日後。アラン・クルツの退院を待って、クロエたちは『星辰の碑文』のレプリカの情報を頼りに、今はもう使われていない下水道の奥の奥、隠蔽魔法によって何重にも閉ざされた場所に向かっていた。


「半信半疑ではありましたが——

 ここまでは本当に

 『星辰の碑文』……のレプリカなんかに

 描かれていた通りです。

 

 やはり、昔の人の考えていることは

 効率的なのか非効率的なのか、訳が分かりません」


「クロエの言う通りだな——」


 クロエ、リリィ、バーンズ。そこにまだ本調子ではないものの戦術サポートとして同行を買って出たアラン。


 さらに今回は、突然どこからともなく現れるのではなく、「面白いものが見られるなら危険も厭わないよ」と嘯いて、合流を申し出たシオン・アークライト。


 一行は固唾を飲んで闇の奥深くを見つめていた。


「ここから先は完全に未知の領域です。

 我々が『星辰の碑文』から読み取ったどのデータも

 当てにならないでしょう。

 何が潜んでいるか分かりません」


 クロエの声が静かな地下空間に響く。


「だが、行くしかねえんだろ」


「ええ。これが、データにある最後の扉——

 最も、目には見えない『不可視の扉』ですが」


 そう言うと、右手を伸ばして呪文を詠唱するクロエ。すると、透明な空間に扉らしき形状に光が走る。バーンズが筋肉質な腕に一層力を込めて、その扉を押し開ける。



 遺跡内部はクロエたちの想像以上に巨大な迷宮だった。壁や天井には苔むした古代文字のレリーフが不気味な燐光を放ち、ひんやりとした空気が肌を刺す。


 通路は複雑に入り組んでおり、一歩進むごとに方向感覚が狂わされていく。アランはゆっくり進みながらも慎重に何か異常な気配がないか気を張り詰めている。


「意外と、一撃必殺の罠なんかが

 張り巡らされているわけじゃないんだな。

 むしろ罠の数は普通のダンジョンよりも控えめだ」


「アランさん。そういう縁起でもないこと言うなよ」


「バーンズさんは、

 もう少し慎重に歩くくらいが

 ちょうどいいと思いますよ」


「まあまあ、クロエ君。

 この遺跡の構造……

 第一次魔導文明期特有の

 空間位相を利用した防御機構だよ。

 ——実に興味深い」


 シオンはまるで博物館の展示を眺めるかのように楽しげに解説する。彼の古代遺跡に関する知識は本物のようだ。


 シオンの案内とリリィの知識があったおかげで、迷宮らしいギミックや罠を回避しながら遺跡の深部へと進むことが出来た。


「それにしても、全く人の気配がありませんね。

 本当に『兄弟団』はここを狙っているのでしょうか」


「クロエらしくないな。

 それじゃあまるで、敵の登場を待っているみたいだ」


「いえ、そんなことは決して——

 もちろん

 叩いておかねばならない連中ではありますが」



 と、3階層ほど進んだ頃、不自然に踏みならされて床におかしな足跡がついていることにクロエが気づいた。


「これは……痕跡が新しすぎます。

 やはりここに奴らが——?」


 一行が振り向いた瞬間。


「やはりここにたどり着いたか!

 招かれざる客どもめ!

 ここから先には行かせんぞ!」


「ほらね、クロエ。言わんこっちゃない」


「——私のせいではないでしょう」


 現れたのは、禍々しいオーラを纏った一団だった。ローブに刺繍された一つ目のフクロウの紋章からも叡智探求の兄弟団フラタニタス・サピエンティアエの一味だということは明らかだ。


「俺は『戦鬼』のフェルヴォ。

 その昔——『殺戮の傭兵』なんて二つ名で

 ちっとばかし有名だった男だ」


 長い口上と共に現れた男は、賢者ヴァイスクの腹心であり残忍な戦闘狂として知られる幹部「戦鬼フェルヴォ」だった。


 その血走った目は、すぐに赤髪のバーンズを捉えた。


「まさか本当にいるとはな、バーンズ・ゲイル……!」


「元騎士団、元傭兵——のフェルヴォ!

 俺はあんたを許さない! 絶対に!!」


「待て、バーンズ!」


 アランの忠告も聞き入れず、バーンズは拳に炎を強く纏わせてフェルヴォに突進しようとする。


「待ちなさい、バーンズさん! これは罠です!」


 クロエが鋭く制止するが、もはやバーンズには届かない。


 バチィィィン!


 バーンズの豪炎魔法が掌から勢いよくフェルヴォに向かって飛び出していく。


 しかし、その隙を突いて「兄弟団」の兵士たちがクロエたちを分断しようと一気に襲いかかってきた。


「クソッ!」


 アランが剣で競り合う。火花のようなものも散る。魔法によって圧縮された風の刃がすかさず襲ってくる。クロエも一瞬で魔法を解析し、軌道を変える。


「こんなもの、何でもありませんよ?」


 しかし、攻撃をかわした先に、遺跡の複雑な構造。そのうえ、新たに仕掛けられた幻覚魔法のトラップ。


「これは——!

 こっちが狙いということですね……!」


「あぁあぁ……

 どこまで墜ちていくんだい? 参ったね」


「先輩——!!」


 クロエ、シオン、アラン、リリィ、そしてバーンズ。皆、瞬く間に散り散りになってしまった。



「くそっ、はぐれたか!」


 アランが舌打ちする。


 このままでは各個撃破されてしまいかねない。しかし——


『皆さん、聞こえますか!

 ここまでの遺跡の構造が解析できました!

 安全な合流ルートを割り出したので

 各自確認してください!』


 こういうこともあろうかとリリィの通信魔法が予め組まれていたのだ。それぞれの力強い声が通信機から響く。


『私もここから一旦逃走する

 最短ルートを見つけたので

 皆さんもめいめいでお願いします!』


 どこか豪胆なリリィ。かつてのようにパニックに陥ることもなく、自身の持つ知識と分析能力を最大限に活用し仲間たちの道標になっている実感がそうさせたのかもしれない。


 味方の安全さえわかれば、クロエとアランはこの程度のことで動じることもない。シオンは勝手にやっていける。


 最も心配だったバーンズだが——フェルヴォとの壮絶な一騎打ちではあったものの、かつてのように怒りと力に任せた戦い方ではなく、クロエから学んだ戦術で臨んでいた。


 なんと、相手の動きを読みカウンターを狙う効率的な戦い方を、脳筋なりに必死に実践しようとしていたのだ。


「昔と何も変わっていないな!

 何も守れず、誰も救えず

 己の無力さに怒りを募らせて

 勝手に自滅していく『豪炎バカ』め——!」


 フェルヴォが嘲笑う。だがその言葉とは裏腹に、バーンズの一撃は確かに以前よりも重く、的確になっていた。そしてついに、バーンズの炎を纏った右拳がフェルヴォの顔面を捉える。


「オラララァ!」


 次の瞬間、炎まみれになりながら遺跡の奥の壁まで吹っ飛ばされるフェルヴォ。


「な、バカな——!」


 追い込んだバーンズは、ぐったりと倒れたフェルヴォの胸ぐらをつかみ、もう一撃お見舞いする。


「俺は命まで奪ったりしねえ。

 しっかり情報は吐いてもらうし

 罪も償ってもらうぜ……!」



 その頃、クロエとシオンは迷宮のさらに奥でついに合流した。


「シオンさん」


「——なんだい?」


「明らかに——物々しい巨大な扉です」


「そうだね。きっと、これだろうね」


 ギィ……と重い扉を押し込むと既にあの男が待ち構えていた。


 賢者ヴァイスク。


「まさかフェルヴォまで退けるとは思わなかったが

 ヘキサグラマトンを起動させるための

 時間を稼ぐ役には立った——。

 お前たちの無駄な足掻きもここまでだ。

 間もなく世界は

 真の調和と効率の下に生まれ変わる!」


 ヴァイスクの宣言と共に、その奥から「万象廻るヘキサグラマトン」が姿を現す。どこからどこまでがひとつながりか分からない巨大な構造物の一部が、起動を開始した。


 ガガン……ガン……ガガガン……


 不気味な音と共に周囲の空間がぐにゃりと歪み、強大で禍々しいエネルギーが全体を満たし始めた。


「いよいよ、ですか——」

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