第56話: みんなの想い——最終最適化魔法、発動準備
ヴァロワールの誘惑を完全に振り払い、揺るぎない信念を再確認したクロエ・ワークライフ。
彼女の瞳には一点の曇りもなく、ただ目の前の狂気の化身を打ち破り、この非効率な戦いに終止符を打つという絶対的な決意だけが燃え盛っていた。
「ヴァロワール……
あなたのその、どこまでも独善的で
そして醜悪な『最適化』は——
ここで私が完全に『デバッグ』し
修正させていただきます」
クロエはオプティマイザー・ロッドを高く掲げ、自身の内に眠る全ての魔力を、そして仲間たちから託された想いを、完全に解放する準備に入った。
その瞬間を仲間たちも見逃さなかった。クロエが最後の切り札を切ろうとしていることを察した。
「うおおおおっ! クロエ!
俺たちの全ての力をお前に預けるぜ!
絶対にあの野郎をぶっ飛ばせ!」
バーンズは残された魔力の全てを振り絞り、渾身の防御結界をクロエの周囲に何重にも展開した。
それはヴァロワールが放つであろう最後の一撃から、クロエを完全に守り抜くための炎の盾だった。
「クロエ……君ならできる。
君のその『効率』は、決して間違ってはいない。
我々の未来を——君に託す……!」
アランもまた最後の力を振り絞り、ヴァロワールの注意を引きつけ、クロエが魔法を完成させるための時間を稼ぐべく、捨て身の陽動攻撃を仕掛けた。
その剣技は傷つきながらも、なお鋭くそして気高い。
『先輩……!
私のこの『調和の魔力』も
どうか使ってください!
先輩の、そして皆さんの
お力になれるのなら……!』
リリィもまた、移動司令部から彼女の持つ全ての魔力を、特殊な増幅魔法陣を通じてクロエへと送り届け始めた。純粋で清らかなその魔力は、クロエの消耗しきった魔力回路を癒し、新たな力を与えていく。
「ふふ……いよいよフィナーレだね。
ならば僕も、この舞台を最高に盛り上げるための
とっておきの『演出』をさせてもらおうかな!」
シオンは楽しげにそう言うと、これまで隠していた奥の手とも言える、極めて高度な古代の空間制御魔法を発動させた。
それは玉座の間全体の空間構造を一時的に安定化させ、ヴァロワールが放つであろう空間断裂攻撃や、時間操作魔法の効果を大幅に減衰させるという驚くべき大技だった。
仲間たちの全ての想いと力が、クロエ一人へと集約されていく。
その負荷は、常人ならば一瞬で精神が崩壊し、肉体が消し飛ぶほどの凄まじいものだった。
クロエの体からは制御しきれないほどの膨大な魔力のオーラが、まるで翠色の炎のように立ち昇り、玉座の間全体を照らし出す。
クロエは、その圧倒的な力に押し潰されることなく、むしろそれを完全に自分の支配下に置き、最適化し、そして一点へと収束させていく。
彼女の脳裏に、かつてエリオット・グレイワンドから聞いた言葉と、そして彼女の数少ない趣味である、あの古代カルドニア文明の超難解な立体パズルの、最後の解読パターンが鮮明に蘇ってきた。
『ヴァロワールとコロッサスの融合システムには
設計上の、あるいは——
古代文明が意図的に残した
ある種の『欠陥』もしくは『フェイルセーフ機構』が
存在するはず……』
(……見つけました…エリオット先生。
そしてありがとう、私の愛すべき古代パズルたち。
あなたたちが教えてくれた
この世界の『隠された論理』と『調和の法則』……
それこそが、ヴァロワールの歪なシステムの
唯一にして最大の
『致命的な非効率性』だったのですね!)
クロエはその「欠陥」を特定し、狙い撃ちにすることにした。
その欠陥とは——コロッサスの莫大なエネルギー循環システムの中にごく僅かながら存在する、特定の魔力周波数と位相パターンに対して、極めて脆弱な共振点を引き起こす、一種の「論理的なバグ」のようなものだった。
「これが私の——そして私たちの
最後の答えです。
ヴァロワール……
あなたのその、
どこまでも自己満足に満ちた『理想郷』は
ここで完全に——そして永遠に
強制終了していただきます!」
クロエはその一点に向け、自身の魔力、仲間たちの想い、そしてこの世界の全ての調和を願う力を込めた、最終にして最強の最適化魔法を発動させることにした。
最適化魔法——言うなれば、ゼロ・ディフェクト・ジャッジメント《完全無欠なる審判》。
世界の運命を賭けた最後の一撃が、今、ヴァロワ―ルに向かって放たれる!




