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第52話: アランの因縁、裏切り者との決着

 玉座の間へと続く最後の扉。


 その重厚な扉を前にしてアラン・クルツがふと足を止めた。彼の表情にはいつもの冷静沈着さに加え、どこか複雑な、覚悟を決めたような色が浮かんでいた。


「クロエ、バーンズ、シオン……

 すまないが、

 ここは私一人に任せてもらえないだろうか」


 アランのその意外な言葉にクロエたちは驚いて彼を見つめた。


「アランさん……?

 一体、どういうことです?」


 クロエが問いかける。


「この扉の向こう、玉座の間の手前には、

 おそらく、ヴァロワールに最後まで心酔し、

 彼の盾となることを誓ったであろう、

 最後の側近が待ち構えているはずだ。


 そしてその男は……おそらく、

 かつての私の同僚であり、

 そして、私を裏切りこの傷を負わせた、あの男だ」


 アランはまだ完全に癒えていない脇腹の傷に手をやりながら、苦々しげに言った。彼の脳裏には、信頼していた仲間に背後から襲われた屈辱と怒りの記憶が蘇っていた。


「私は彼とここで、ケリをつけなければならない。

 これは私の個人的な戦いだ。

 君たちを巻き込むわけにはいかない」


 アランのその言葉にも、騎士としての誇りと、裏切られた者としての静かな怒りが込められていた。


 クロエはアランの覚悟を察し、何も言わずに頷いた。バーンズも、最初は「何言ってんだよアランさん!俺たちも一緒に行くぜ!」と反対しようとしたが、アランの真剣な眼差しを見て言葉を飲み込んだ。


 シオンは「やれやれ、ここへ来て個人的な因縁の対決とはね。まあそれもまた一興か」と、どこか面白がるような表情で静かに成り行きを見守っている。


「……分かりました、アランさん。

 あなたのその覚悟、無駄にはしません。


 ですが決して無茶はしないでください。

 あなたの力は、この後のヴァロワールとの戦いでも

 必ず必要になりますから」


 クロエはそう言ってアランの肩を軽く叩いた。


「ああ、感謝する。

 扉を開けたら、私一人で戦う」


 アランは仲間たちに後を託すと、一人、重い扉を開いてその先の薄暗い空間へと足を踏み入れた。



 そこにはやはり、一人の男が待ち構えていた。かつてアランと共に騎士団に所属し、将来を嘱望されながらもヴァロワールの甘言に乗り「黄昏の秘文字(ヒエログリフ)」へと身を投じた、元騎士団員——ライナス・グレイだった。


 その手には、血に濡れたような禍々しいオーラを放つ魔剣が握られている。


「……やはりお前だったか、ライナス。

 なぜだ……なぜ、お前ほどの男が、

 ヴァロワールのような狂気に(くみ)し、

 騎士の誇りを捨ててまで

 あのような卑劣な真似をしたのだ!?」


 アランは悲しみと怒りを込めて問い詰めた。


「アラン……。

 お前にヴァロワール様の偉大なる

 理想が理解できるはずもない。


 あの方こそが——

 この腐りきった世界を救済し、

 真の秩序と平和をもたらすことが

 できる唯一の指導者なのだ!


 お前のような、旧世界の感傷に囚われた者に

 あの方の邪魔はさせん!」


 ライナスは狂信的な光を宿した目でアランに襲いかかってきた。


 二人の騎士の、それぞれの正義と信念が激しくぶつかり合う。


 ——カァァァン!


 剣と剣が交錯し、火花が散るかのようだ。かつては背中を預け合った仲間同士が、今は互いの全てを賭けて死力を尽くして戦っている。


 ライナスの剣技は確かに強力だった。結社の秘術によって強化されているのか、彼の力はアランを徐々に追い詰めていく。


 しかしアランの心の中には揺るぎない信念があった。それは、クロエや他の仲間たちと共に戦う中で改めて見出した、人の心の温かさと、非効率に見えてもかけがえのない日常の価値を断じて守り抜く——という決意だった。


「お前の言う『理想』は

 多くの無辜(むこ)の人々の犠牲と

 お前自身の魂の歪みの上に成り立つ

 ただの砂上の楼閣に過ぎない!

 

 俺はたとえ非効率で不完全かもしれなくても、

 人の心があり、自由があり、

 そして明日への希望がある未来を選ぶ!

 そのために、お前をここで止める!」


 アランは力を振り絞り、渾身の一撃をライナスに叩き込んだ。それは彼の騎士としての全てを込めた魂の一撃だった。


 ライナスの魔剣が砕け散り、彼は力なくその場に崩れ落ちた。アランの思いが届いたのかあるいは術が解けたのか——ライナスの瞳からは狂信の光が消え、代わりに深い後悔とそしてほんの少しの安堵の色が浮かんでいるように見えた。


「……そうか……

 俺は……間違っていたのか……

 アラン……!」


 アランは、倒れたかつての同僚に静かに敬礼した。


「アランさん……これで——」


 アランの心中を察し、クロエは言いかけて思わず口を噤んだ。


 そして、彼が守ろうとした扉の向こう側——玉座の間へと新たな決意を胸に歩き出すのだった。

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