第47話: 古の宝物庫、サブ制御ターミナル攻防戦
バーンズとアランが決死の覚悟で敵の主力を引きつけている間に、クロエとシオンは、リリィが発見した監視システムの脆弱性を突いて幾重にも張り巡らされた警備網を突破していた。
そうしてついに、レガシー・コロッサスの制御システムへアクセスするための主要ターミナルの一つが隠されていると思われる、王宮の最奥部にある古の宝物庫へと到達した。
薄暗くて埃っぽい、忘れ去られたような空間。しかしその中央には、周囲の古めかしい雰囲気とは不釣り合いなものが鎮座していた。
それは最新の魔導技術と古代の様式が融合した、異様な形状の大型制御端末で、ひたすら不気味な光を放っていた。
「……間違いありません。
これがコロッサスの制御システムに繋がる
主要アクセスポイントの一つでしょう。
ですが見てください、この防御機構。
物理的な装甲もさることながら、
極めて高度な多重魔法障壁と、
不正アクセスを検知した場合に
端末そのものを破壊する、
強力な自己破壊トラップが仕掛けられています。
さすがに厳重ですね。
まあ、これも想定の範囲内ですが」
そう言うとクロエはアナリティカル・レンズでターミナルの構造を瞬時にスキャンし、その複雑な防御メカニズムを分析した。
「まず物理的なロックを解除する必要がありますね。
あの装甲の材質は、
おそらく超硬化軽量魔導銀と
古代オリハルコンの合金。
通常の破壊手段では、傷一つ、
付けることもできないでしょう。
ですが構造解析の結果——
ロック機構の内部、七番目のギアの部分に、
設計上の僅かな脆弱性を発見しました。
そこを精密な振動周波数の魔力パルスで攻撃すれば、
共振現象を引き起こし、ロックを強制的に解除できる
可能性があります」
クロエは解析データを即座に後方で待機(と言いつつ別のルートから陽動を行いつつ合流を目指している)アランに送信した。
『アランさん、聞こえますか。
ターゲットの
物理防御解除プロトコルを送信しました。
あなたの持つ、
特殊工作用の遠隔操作型小型振動ニードルを使えば、
おそらく対応可能でしょう。
私が以前最適化しておいたアレです。
ただしタイミングは極めてシビアです。
私の合図と同時に、正確に実行してください』
「…了解した、クロエ。
相変わらず君の準備の良さには驚かされるな。
いつでもいけるぞ」
アランからの短い、信頼に満ちた返信。
次に、魔法防御だ。ターミナルは、何重もの複雑な暗号化シーケンスと、不正な魔力アクセスを検知すると即座に強力なカウンター魔法を発動する、極めて厄介な防御システムで守られていた。
「シオンさん。
あなたの出番です。
この魔法障壁の構造……古代カルドニアの
失われた『守護の十二星座』の呪法が
ベースになっているようです。
あなたの知識とリリィさんの演算補助があれば、
この複雑な暗号化パターンを解読し、
カウンター魔法を無効化できるかもしれません」
「ふむ。
これは確かに懐かしい香りがするね。
『守護の十二星座』か……
実に古典的で、そして美しい術式だ。
だがどんな美しい薔薇にも棘があるように
——この術式にも、
いくつかの『隠された通路』が存在する。
リリィ君、僕の指示に従って
特定の魔力周波数のデコイパターンを、
正確なタイミングで流し込んでくれるかい?
そうすればこの堅固な盾も、
ほんの少しだけ、
油断してくれるかもしれないからね」
シオンは楽しげにそう言うと、リリィと連携しながら、まるで高度なパズルでも解くかのように魔法障壁の解析と無力化に取り掛かった。
しかし敵もさるもの。クロエたちがターミナルにアクセスしようとしていることを察知したのか、レガシー・コロッサス本体から、強力な魔力的ノイズの妨害電波が断続的に放射され始めた。
それはクロエたちの魔力制御を著しく困難にし、思考力や集中力をも奪おうとする極めて厄介な攻撃だった。
「くっ…!
このジャミング…! 計算が…!」
クロエの額に、苦悶の汗が滲む。
(だが、こんなもの―—)
だが彼女は決して諦めなかった。
「第一段階クリア! アランさん、今です!」
クロエの合図と共にアランが遠隔操作する振動ニードルが、ターミナルの装甲の僅かな隙間から侵入してロック機構の脆弱性を正確に突いた。
ガチャン、という音と共に物理的なロックが解除される。
「第二段階ももうすぐです、クロエさん!
シオンさん、あと少し……!」
リリィの必死の声が通信を通じて響く。シオンの額にも汗が浮かんでいるが、その瞳は挑戦者のように輝いていた。
そして、ついに。
「……開いた! 魔法障壁、完全に沈黙!」
シオンが歓喜の声を上げた。
クロエはその瞬間を逃さず、オプティマイザー・ロッドの先端をターミナルのインターフェイスに接続して自身の魔力と意識を、コロッサスの巨大な制御システムへとダイレクトにリンクさせた。
膨大な情報と禍々しいまでのエネルギーが、クロエの脳内へと逆流してくる。
「ぬううううう……!」
それは並の魔術師ならば、一瞬で精神が崩壊してしまうほどの圧倒的な負荷だった。
しかしクロエは、歯を食いしばりそれを耐え抜いた。
「……アクセス成功……!
コロッサスの制御システムの一部…
武器システム、移動システム、
そして自己防衛システムのパラメータを——
強制的に書き換えます……!」
彼女の瞳が、翠色の光をさらに強く放つ。反撃の糸口は確かに掴んだ。
しかしコロッサスを完全に停止させるためには、さらに奥深く。中枢へとアクセスする必要がある。
そしてそこには、おそらくヴァロワール自身が待ち構えているはずだ。
一体、どんな罠が待ち構えているのだろうか。クロエはさらに思索を巡らせるのだった——。




