第41話: レガシー・コロッサス起動、世界の終焉の序曲
クロエ・ワークライフとその仲間たちが、山奥のセーフハウスで最後の反撃計画を練り上げて決意を新たにしていた、まさにその時。
——王都カルドニアの中心。王宮の地下最深部に秘密裏に建造された広大な制御施設では、宰相のヴァロワールがついにその狂気的な計画の最終段階を実行に移そうとしていた。
「……ふふふ。
クロエ・ワークライフとその残党どもも、
もはや風前の灯火。
私の計画を邪魔する者は、もう誰もいない。
時は、満ちた。
長きにわたる準備と、幾多の犠牲を経てついに——
この世界を『あるべき姿』へと導く時が来たのだ」
ヴァロワールはレガシー・コロッサスの巨大な制御コンソールを見下ろしながら、恍惚とした表情で呟いた。
その瞳には、常軌を逸した狂信の光が宿っている。彼の周囲には「黄昏の秘文字」の最高幹部たちが傅き、コロッサス起動のための最終準備を厳粛な儀式のように進めていた。
「リリィ・プランケットは、
まだ抵抗を続けているようだが、
それも時間の問題だ。
彼女のその稀有な『調和の魔力』は、
コロッサスを完全に目覚めさせるための
最後の鍵となる。
彼女を『触媒』としてシステムに組み込めば、
レガシー・コロッサスは、
ついにその真の力を解放するだろう」
ヴァロワールは、別室に監禁されてもなお必死に抵抗を試みているリリィの姿を、監視用の魔導モニター越しに冷ややかに見つめた。
彼女の瞳には恐怖と絶望の色が浮かんでいた。しかしその奥には、まだ消えないクロエへの信頼と、仲間たちへの想いが微かに残っているように見えた。
「始めよ。
これより、カルドニア王国の
——いや、この世界の、新たな創世記が始まるのだ。
非効率で、愚かで、醜い旧世界よ——
永遠に別れを告げようじゃあないか。
そして我が手によって『剪定』され、
完璧に調和の取れた、
『美しい新世界』に生まれ変わるのだ!」
ヴァロワールの高らかな宣言と共に、王宮地下の制御施設全体が、不気味な振動と共に唸りを上げ始めた。
レガシー・コロッサスの最終起動シークエンスがついに開始されたのだ。次の瞬間——王都カルドニア全域で異変が起こり始めた。
◇
まず、街全体の魔力エネルギー供給が急速に不安定になった。魔導灯は明滅を繰り返し、魔法動力の乗り物は次々と機能を停止。通信網も途絶えがちになった。
人々は、何が起こったのか分からず、不安と混乱に陥った。
そして王宮の真上、カルドニアの空を覆っていた、平和の象徴とも言える青空が、突如として禍々しく、暗く、紫色に鈍く光る巨大な魔法結界に覆われた。
その結界は、まるで生きているかのように脈動し、見る者に言いようのない恐怖と圧迫感を与えるものだった。
大地はまるで巨大な獣が目覚めたかのように激しく揺れ始め、建物は軋み、道路には亀裂が走り、人々の悲鳴が王都のあちこちでこだましている。
ついには、王宮のすぐ近く、かつては美しい庭園だった場所の地面が轟音と共に大きく割れた。
その割れ目から、全長数百メートルはあろうかという、鋼鉄と岩石でできた巨人がゆっくりと、威圧的に姿を現すのだった。
レガシー・コロッサス。
忘れ去られた古代文明が生み出した、恐るべき破壊と創造の化身。その圧倒的な威容は、まさしく世界の終焉を告げる使者のようだった。
◇
その頃、山奥のセーフハウスにいたクロエたちもまた、その異常なまでのエネルギーの鳴動と、大地を揺るがす激しい地響きをリアルタイムで感知していた。
「……この魔力パターン……
この振動……まさか……!」
クロエはアジトの観測機器が叩き出したデータを見て、顔面蒼白になった。
「ヴァロワール。
ついにレガシー・コロッサスを
起動させ始めたのですね……
ですがまだ完全に覚醒し、
制御下に置かれたわけではないはず。
まだ、わずかながら
時間は残されているはずです…!」
クロエは即座に状況を判断し、仲間たちに告げた。
「皆さん、聞きましたね。
もはや一刻の猶予もありません。
これより我々は最後の戦いに挑みます。
目標は……
王宮地下の制御施設へ突入し、
ヴァロワールを排除すること。
そしてレガシー・コロッサスの機能を
完全に停止させること。
これが、我々に残された唯一にして最後の道です!」
クロエのその言葉は、絶望的な状況下ではあるものの確固たる決意に満ちていた。
彼女の瞳に迷いはなかった。ただ己の全てを賭けて、この未曾有の危機に立ち向かうという、強い意志だけが燃えていた。もちろん、仲間たちと共に。
まさしく——世界の運命と、そしてクロエ・ワークライフの定時退社を賭けた最終決戦が、始まっていく。




