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第39話: 国家反逆者の烙印と情報戦の激化

 リリィ・プランケットの救出には成功したものの、その代償は大きかった。


 ヴァロワールと「黄昏の秘文字(ヒエログリフ)」は、クロエたちのこの行動を王国に対する明確な反逆行為として、巧みに利用し始めたのだ。


 彼らは、クロエたちが王宮地下の秘密施設に潜入して戦闘を繰り広げた事実を、自分たちに都合の良いように歪曲・誇張した。


 「クロエ・ワークライフとその一味がついに本性を現し、黄昏の秘文字(ヒエログリフ)と本格的に手を組み、王国の転覆とヴァロワール宰相の暗殺を企てた」という衝撃的な情報を、魔術師団及び騎士団の内部、さらには王都の一般市民に向けて大々的にリークし始めたのである。


 肉を切らせて骨を断つと言わんばかりの、敵ながら強烈な作戦だった。


 その情報には巧妙に捏造された「物的証拠」——例えばクロエが「黄昏の秘文字(ヒエログリフ)」の幹部と密会しているかのように見える合成映像や、彼女の筆跡を真似て書かれた「反逆計画書」とされる偽造文書、さらには今回の戦闘で破壊された施設の残骸(それも「黄昏の秘文字(ヒエログリフ)」側が、意図的にクロエたちの仕業に見えるように細工したもの)——などが、次々と「発見」され提示された。


 そしてリリィが一時的に精神を操られクロエたちを攻撃したという事実もまた、「リリィ・プランケットはクロエに脅迫され、無理やり反逆行為に加担させられていた哀れな被害者である」という同情を誘うストーリーに仕立て上げられた。


 これらの情報は、ヴァロワールが完全に掌握している王国の公式メディアや、彼に買収されたタブロイド紙を通じて瞬く間に王国全土へと広まっていった。


 その結果、これまでクロエに対して多少なりとも理解や同情を示していた魔術師団や騎士団内部の良識派たちも、次々と提示される(ように見える)圧倒的な「証拠」の前に、沈黙せざるを得なくなった。


 あるいはヴァロワールの巧みな情報操作と背後からの圧力によって、クロエを有罪と断定する方向に雪崩を打ったように傾いていった。


 アランやバーンズが、クロエの無実を必死に訴えて弁明しようとしても、彼らの言葉は「反逆者の仲間の戯言」として一蹴され誰にも聞き入れられない。


 それどころか彼ら自身もまた、反逆罪の共犯者として指名手配される危険性すら出てきた。


 唯一シオン・アークライトだけが、この一連の出来事をどこか冷めた目で観察していた。


「……これは、あまりにも出来すぎた筋書きだねぇ。

 まるで、誰かが書いた三文芝居のようだ。


 だが大衆というものは、往々にして、

 分かりやすい悪役と、

 悲劇のヒロインを求めるものだからね。


 ——実に、嘆かわしい」


 などと、皮肉めいた言葉を漏らしてはいたが、彼が積極的にクロエを擁護したり状況を打開するために動いたりする気配は、今のところ見られなかった。


 そしてついに、魔術師団及びカルドニア王国政府は、クロエ・ワークライフを「国家反逆罪及びヴァロワール宰相暗殺未遂の首謀者」として正式に断罪し、彼女に対する捕縛命令を王国全土に向けて発令した。


 彼女の人相を載せた莫大な懸賞金の案内が街の至る所に貼り出され、彼女は一夜にして王国で最も危険な犯罪者の一人となってしまったのだ。


 もはやクロエにとって、公的な立場も社会的信用も、全てが完全に失われた。味方と呼べるのは、ごくごく少数の彼女の無実を信じて最後まで共に戦うことを選んでくれた仲間たちだけ。


「……いよいよ、完全に追い詰められましたか。

 まあこれも、

 ある程度は予測していた事態ではありますが。


 ですがこれで、遠慮も建前も、

 一切不要になりましたね。

 むしろ好都合かもしれません」


 クロエは、自身が「国家反逆者」として指名手配されたという報を、天文台のアジトで驚くほど冷静に受け止めていた。


 モニターに映し出された巧妙に合成された自身の「密会映像」や、稚拙ながらも悪意に満ちた筆跡で書かれた「反逆計画書」なるものを一瞥すると、彼女はフンと鼻を鳴らした。


(この程度の偽造。

 私にかかれば数分でその矛盾を暴き、

 逆に発信源を特定することすら可能なのですが……


 今の私には、それを公に証明し、

 大衆の誤解を解くための時間も手段もない。


 ならばこの『汚名』すらも利用し、

 彼を油断させるための材料とするまでです)


 彼女の翠色の瞳には絶望や怒りではなく、むしろこれから始まるであろう、より過酷でそしてより自由な戦いへの静かな覚悟と不屈の闘志(と、わずかにこの状況を楽しむかのような不敵な笑み)が宿っていた。


「ヴァロワール……

 あなたのその稚拙な情報操作と

 非効率な権力闘争ごっこもここまでです。


 これからは私が、あなた方の土俵ではなく、

 私の土俵で、存分に戦わせていただきますよ。


 私の定時退社を、

 そしてこの世界の本当の平和を取り戻すために」


 それはもはや誰にも止められない、彼女自身の正義と信念を賭けた、誇り高い反撃の狼煙だった。

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