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第38話: オペレーションΩ、リリィ奪還と精神支配の罠

 クロエを中心に再構築された「オペレーションΩ(オメガ)」は、ヴァロワールの拠点と目される王宮地下の秘密施設へ、複数チームに分かれて同時多角的に潜入。


 リリィを救出し、かつレガシー・コロッサスの制御システムを破壊するという、極めて複雑で大胆なものだった。


 陽動及び地上部隊の制圧は、バーンズと彼をサポートするアランの(まだ完治していないが戦闘可能なレベルまで回復した)騎士団の有志数名が担当。


 彼らは王宮正面から派手に攻勢をかけ、敵の注意を引きつける。


 地下施設への潜入及びリリィ救出の主力は、クロエとシオン。


 クロエが高度なハッキング魔法で施設のセキュリティシステムを無力化し、最短ルートを割り出してシオンがそのトリッキーな古代魔法で物理的な障害やトラップを排除しながら、リリィが囚われていると思われる場所へと急行する。


 そしてリリィを救出した後、クロエがコロッサスの制御システムに直接アクセスし、事前に準備しておいた魔導ウイルス(もちろん極めて強力で自己増殖・自己修復機能まで持つ、クロエ特製の最新バージョンだ)を注入、システムを内部から崩壊させる。


 リリィ自身も、もし意識を取り戻すことができれば、後方からクロエのハッキングを補助するなど、期待できるかもしれない。


 作戦は、開始から数時間はクロエの緻密な計画通り、驚くほどスムーズに進んだ。


 バーンズたちの陽動は見事に成功し、王宮の警備兵力の大半を地上に釘付けにした。


 クロエとシオンは、まるで幽霊のように王宮の地下へと潜入し、次々と現れる結社の番兵や複雑なトラップを、息の合った連携(というよりはクロエの的確な指示とシオンの気まぐれな超絶技巧の組み合わせだが)で突破していく。


 そしてついに、クロエの魔力探知が、リリィの微弱ながらも特徴的な魔力パターンを、地下施設の最深部にある厳重に隔離された一室で捉えた。


「……リリィさん、間違いありません。

 あそこにいます。


 ですが周囲には強力な魔力結界と、

 複数の生命反応。


 おそらく結社の幹部クラスが、

 彼女を直接監視しているのでしょう。


 ここからはさらに慎重に、そして

 迅速に行動する必要があります」


 クロエとシオンは、最後の障壁となる重厚な鋼鉄の扉をクロエが解析した解除コードと、シオンが作り出した特殊な溶解液(古代の錬金術らしい)を併用して音もなく開いた。


 部屋の中に踏み込んだ彼らが見たものは——リリィ・プランケットは、部屋の中央に設置された、特殊な拘束具に繋がれてぐったりと意識を失っているように見えた。


 彼女の周囲には、数人の結社の魔術師が取り囲み、何やら不気味な呪文を詠唱し続けていた。それは対象の精神に直接干渉し、記憶や感情を操作する、禁断の古代魔法の一種のようだった。


「まずい……!

 奴ら、リリィさんの精神を……!」


 クロエが叫んだ瞬間、リリィがゆっくりと顔を上げた。その瞳は虚ろで、焦点が合っていない。


 彼女はクロエとシオンの姿を認めると、まるでこの世の終わりでも見たかのような、恐怖と絶望に歪んだ表情を浮かべた。


「……いや……来ないで……!

 あなたたちは……敵……!

 クロエ先輩は……私を……

 見捨てたんだ……!

 私を、こんなところに閉じ込めて……

 酷いことをする……!」


 リリィはそう叫ぶと、その小さな手から、彼女が扱える最大出力の攻撃魔法(それでもクロエたちにとっては微々たる威力だが)を、無差別に放ち始めたのだ。


 結社の精神干渉魔法は既にリリィの心を蝕み、彼女にとって最も信頼していたはずのクロエや仲間たちを、「自分を裏切った敵」として認識するように、その記憶と感情を歪めていたのだ。


「リリィさん! しっかりして!

 私たちよ! あなたを助けに来たのよ!」


 クロエは必死に呼びかけるが、リリィの耳には届かない。彼女はただ怯え、泣き叫びながら必死に抵抗を続けている。


 バーンズやアランも通信を通じてその状況を知り、愕然としていた。彼らは、万が一にもリリィを傷つけることなど、想像もできない様子だった。


 その混乱に乗じて部屋の奥から、あのケンプファーに匹敵するほどの強力な魔力を持つ、結社の幹部クラスの戦闘員が複数人姿を現した。


 彼らはこの状況を予測していたかのように嘲笑を浮かべながら、クロエとシオンに襲いかかってきた。


「ふふふ……無駄だクロエ・ワークライフ!

 あの娘はもうお前たちの知る

 リリィ・プランケットではない。


 我らが偉大なる指導者、

 ヴァロワール様の忠実なる僕となるのだ。


 そしてお前たちは、ここで、

 その無力さを噛み締めながら死ぬがいい!」


 絶体絶命のピンチ。仲間からの(微弱な)攻撃。そして強大な敵の出現。クロエの脳裏に一瞬だけ、最悪のシナリオがよぎった。


 しかし彼女は決して諦めなかった。


「……リリィさんにかけられた精神干渉魔法

 ……その構造パターン、視認しました。


 非常に複雑ですが、

 解読不可能なレベルではありません。


 シオンさん。

 三分間だけ時間を稼いでください!

 その間に私が必ず、

 この非効率な呪いを解いてみせます!」


 クロエはオプティマイザー・ロッドを構え直し、リリィにかけられた魔法の解析と解除コードの生成を、猛烈な速度で開始した。


 同時にバーンズとアラン(アランは通信を通じて、部下に敵の増援ルートを遮断するよう指示を出していた)にも的確な指示を飛ばし、敵幹部との連携戦闘を開始する。


 それはクロエのこれまでのキャリアの中でも、最も困難で最も精神力を消耗する戦いとなった。


 しかし彼女の瞳には、揺るぎない決意の光が灯っていた。リリィを必ず救い出す。そして、この非道な敵を必ず打ち破る。——その一心で。


 数分後。クロエの額に汗が滲み、魔力も限界近くまで消耗していたが、ついに彼女は、精神干渉魔法の複雑な術式構造を完全に解明し、その効果を中和するための完璧な解除コードを生成することに成功した。


「……システム・デコンパイル完了。


 ターゲット、リリィ・プランケットの精神領域。


 アンチ・マインドジャック・コード、注入開始!」


 クロエのロッドから放たれた優しい翠色の光が、リリィの体を包み込む。


 するとリリィの虚ろだった瞳に、徐々に生気が戻り始め、焦点が合い始めた。



「……あれ……?

 私……先輩……?

 それに、シオンさんも……?

 一体、何が……?」


 正気に戻ったリリィは、自分が仲間たちに攻撃を仕掛けていたという事実に気づき、ショックと罪悪感で顔面蒼白になり、大きな瞳から涙をボロボロと流しながらその場に崩れた。


「大丈夫です、リリィさん。あなたは何も悪くない。

 今はゆっくり休んでください。

 残りの敵は、私たちが効率的に処理しますから」


 クロエは優しく、力強くリリィに声をかけた。バーンズとアランとも完璧に連携しながら、残っていた結社の幹部たちを次々と打ち破っていく。


 しかしこの忌まわしい経験は、リリィの心に、再び深く暗い影を落としてしまった。


 彼女が、このトラウマを本当に克服して再び笑顔を取り戻すまでには、まだ多くの時間と仲間たちの支えが必要となるだろう。


 だがリリィ誘拐事件すらも、ヴァロワール側の次なる、より悪辣な罠へのほんの序章に過ぎなかったことを、この時のクロエたちはまだ——知る由もなかった。

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