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第31話: 精鋭部隊・黒橡《くろつるばみ》の追撃とアランの負傷

 「黄昏の秘文字(ヒエログリフ)」の地下アジトを壊滅させ、ヴァロワール宰相の恐るべき計画「レガシー・コロッサスによる世界の剪定」の情報を掴んだクロエたち。


 しかしその勝利は、同時にヴァロワールの逆鱗に触れることでもあった。


 彼らの秘密の拠点の一つが白日の下に晒され、計画の一部が露呈したことに対し、ヴァロワール(及び、彼に忠誠を誓う結社の残存勢力)は、報復とこれ以上の情報漏洩を防ぐため、クロエ・ワークライフとその協力者たちを「最優先排除対象」として指定。


 彼らの抹殺を、結社の最も精鋭で暗殺も行う専門チーム「黒橡くろつるばみ」に命じた。


 クロエは、アランの情報網を通じて、その危険な動きを即座に察知した。


「…どうやら、我々は蜂の巣を

 盛大につついてしまったようですね。

 まあ、これだけのことをすれば、

 当然の反応でしょうが。


 しばらくは、表立った行動は控え、

 身を隠す必要がありそうです。


 実に非効率ですが、これもリスク管理の一環です」


 クロエは、一時的に自宅ラボを引き払い、アランが用意した複数のセーフハウス(王都内外に点在する騎士団情報部が秘密裏に管理している隠れ家)を、数日おきに転々とする、そんな『ザ・潜伏生活』を余儀なくされた。


 もちろん、それぞれのセーフハウスのセキュリティレベルは、彼女自身の手でさらに強化済みだ。


 しかし、敵の追跡は執拗だった。


 「黒橡くろつるばみ」と呼ばれるそれは、音もなく忍び寄っては対象の命を確実に刈り取ることを得意とする、恐るべき暗殺者集団だった。


 彼らは高度な隠密魔法や、姿を消す古代魔道具を駆使し、さらには即効性の致死毒や、対象の精神を蝕む呪術まで用いて、クロエたちの命を執拗に狙ってきた。


 ある時は、クロエが潜伏していたセーフハウスの給水タンクに、特殊な魔力毒が混入された。無論、これについてはクロエが設置した自動毒物検知システムが作動して未然に防いだ。


 しかしまたある時は、夜道で完全に気配を消した複数の暗殺者に襲撃された。


 この時はというと、クロエが護身用に携帯していた、個人的な研究の過程で開発した小型迎撃魔法装置「センチネル・ビット(試作改良型)」が、設定された脅威パターンに反応し、自動で複数の魔力弾を発射、暗殺者たちの奇襲を牽制し、数秒間の時間的猶予を生み出したが。


 ——という具合に、クロエは持ち前の高度な危機察知能力と、周到に準備していた各種防衛システムによって、これまでのところ直接的な被害は受けていない。


 しかし常に命を狙われ、気の休まる暇もない状況は、さすがの彼女にとっても精神的な疲労を蓄積させていた。


 私の完璧な睡眠サイクルが、最近著しく乱されています。これは、美容と健康、そして何よりも日中の思考効率の低下に繋がる看過できない問題です。


 あの忌々しい暗殺者ども…次に現れたら徹底的に非効率な目に遭わせて、二度と私の前に姿を現せないようにして差し上げましょうか——


 クロエの心には、静かだが確かな怒りの炎が燃え始めていた。


 そんな中、さらに悪い知らせが舞い込んできた。


 騎士団内部で、独自にヴァロワールの不正な資金の流れや、結社との繋がりを調査していたアラン・クルツが、彼の最も信頼していたはずの情報部の同僚に裏切られ、待ち伏せ攻撃を受けて重傷を負ったというのだ。


 実は、以前から結社に買収されていたスパイだったらしい。


 幸い、命に別状はなかったものの、アランはしばらくの間、前線での活動は不可能となり、絶対安静を余儀なくされた。


 彼の持つ情報網も、一時的にだが、その機能を大幅に低下させることになった。


 その報を受けたクロエは、珍しく感情を露わにした。


「アランさんまで……!

 あの連中、絶対に許しません……!」


 彼女の瞳には、冷たい怒りの光が宿っていた。自分自身が狙われることはある程度想定していた。しかし、信頼する仲間が、卑劣な裏切りによって傷つけられたことは、彼女の逆鱗に触れたのだ。


「これはもう単なる任務でも、

 自己防衛でもありません。

 私の…いえ、私たちの、

 正義と誇りを賭けた戦いです。


 ヴァロワール、そして黄昏の秘文字(ヒエログリフ)……


 必ず、あなたたちのその非効率な野望を、

 私の——私たちの手で、完全に粉砕してみせます」


 クロエは、これまで以上に危険な手段――例えば、敵をおびき出すための大胆な陽動作戦や、ヴァロワールの懐に直接飛び込むような、ハイリスクな潜入工作――をも辞さない覚悟を、静かに、そして固く決めたのだった。


 もちろん彼女の心は、既に次なる一手を見据えていた。

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