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第29話: 弱点看破と仲間との連携——そして、撃破

 ケンプファーの猛攻は、嵐のように激しかった。彼の巨大な戦斧が振るわれるたびに大気が震え、地面が砕ける。


 クロエは、その圧倒的な破壊力を紙一重で回避し続けるが、徐々に活動範囲を狭められ、追い詰められていく。


「どうした小娘! 逃げ回るばかりか!

 貴様の言う『最適化された戦い方』とやらは、

 その程度のものか!」


 ケンプファーの嘲笑が、地下ドームに響き渡る。


 その間にも、アランとバーンズは、辛うじて意識を取り戻し、壁際で互いを支え合いながら、必死に戦況を見守っていた。


 彼らも何とか加勢しようとするが、ケンプファーのプレッシャーはあまりにも強く、迂闊に手出しできない。


「くそっ……!

 あの野郎シンプルに強すぎる……!

 クロエは本当に勝てるのか……!?」


バーンズが、苦しげに呻く。


「……信じろ。彼女なら必ず何か策があるはずだ。

 我々はその瞬間を待つしかない」


 アランが冷静に、それでいて固い信頼を込めて答えた。


 クロエはというと、ケンプファーの攻撃をかわしながらも、常に彼の動き、呼吸、魔力の流れ、そして何よりも、彼の左膝への意識の集中具合を、アナリティカル・レンズを通して精密に観察し続けていた。


 そしてついに、彼女が待ち望んでいた「最適化された反撃のタイミング」が訪れようとしていた。


 ケンプファーが、渾身の力を込めて戦斧を大きく振りかぶり、クロエに最後の一撃を加えようとした、まさにその瞬間。


「……今です!」


 クロエは、これまでの回避行動から一転、逆にケンプファーの懐へと踏み込むかのような、大胆な動きを見せた。


 同時に彼女は魔導通信で、待機していた仲間たちに瞬時に指示を飛ばす。


『シオンさん。

 幻惑魔法最大出力!

 彼の視覚と聴覚を、三秒間だけ完全に

 ジャックしてください!』


『バーンズさん。

 もし動けるなら私の前面に、

 あなたの最大防御力を持つ炎熱障壁を、

 一点集中で展開!』


『アランさん。

 私が合図したらケンプファーの左膝、

 半月板の裏側を、あなたの最速の一撃で!』


 クロエの指示はあまりにも突然で、そしてあまりにも精密だった。しかし仲間たちは彼女の言葉を信じ、それぞれの役割を最後の力を振り絞って実行に移した。


 まずシオンが「心得たよ、マイ・ディア・コマンダー!」と不敵な笑みを浮かべ、両手から複雑な紋様の光を放つ。


 その光がケンプファーを包み込んだ瞬間、彼の動きがピタリと止まり、その目は虚空を見つめて焦点が合わなくなっている。強力な幻惑魔法が、彼の感覚を完全に支配したのだ。


 次にバーンズが「うおおおっ!クロエのためなら、このくらい!」と最後の気力を振り絞り、クロエの前に立ちふさがるように、圧縮された炎の壁を出現させた。それは彼の魔力のほとんどを注ぎ込んだ渾身の防御魔法だった。


 そして、その全てが、わずか一秒にも満たない間に起こった。


 ケンプファーが幻惑から覚め、状況を再認識しようとした時には、既にクロエは彼の死角、左膝のすぐ傍にまで接近していた。


『アランさん、今!』


 クロエの合図と同時に、アランが、まるで影が地面を疾るかのように音もなくケンプファーの背後へと回り込み、その手に握った特殊合金製の短剣で、彼の左膝の内側、クロエが正確に指示したポイントを、電光石火の速さで突き刺した。


「ぐおおおおっ!?

 な、何だこれは……!?」


 ケンプファーの巨体が、激痛と驚愕に大きく揺らぐ。彼の古傷であり、最大の弱点である左膝を、完璧なタイミングで正確に攻撃されたのだ。


 体勢が崩れ、大きな、そして致命的な隙が生まれる。


「……計算通りです。

 終焉(チェックメイト)の時間ですね」


 クロエは、その千載一遇のチャンスを決して逃さなかった。彼女のオプティマイザー・ロッドの先端に、先ほど巨大ゴーレムを仕留めた「ゼロ・ディバイダー」よりもさらに高密度に圧縮され、そして回転運動を加えることで貫通力を極限まで高めた、新たな必殺魔法が形成されていく。


「対装甲・対結界・一点突破型

 螺旋収束魔力貫通弾——

 『ペネトレイト・ボルテックス』!」


 その魔法の名を、静かに、だが力強く宣言した。


 次の瞬間、ロッドの先端から放たれたのは、目に見えないほどの高速で回転する『極小の魔力の渦』だった。


 それは、ケンプファーの屈強な肉体や、彼が纏っていた古代魔法による強化オーラ、そして戦斧が放つ魔力防御さえも、まるで熱したナイフがバターを切るかのように容易(たやす)く貫通し、彼の鎧のわずかな隙間——左膝の古傷を庇うために、無意識のうちに補強が薄くなっていたポイント——から体内に侵入し、内部で炸裂した。


 それは、致命傷ではなかった。しかしケンプファーの戦闘能力と、その強靭な精神力を完全に奪い去るには十分な一撃だった。


「ば……馬鹿な……この俺が…

 こんな小娘の、小賢しい連携ごときに……!」


 ケンプファーは、信じられないという表情で膝をつき、やがてその巨体をゆっくりと床に横たえた。


 その目からは、既に戦意も憎悪の光も消え失せていた。ただ、深い疲労と、そしてほんの少しの、敗北を認めたかのような穏やかさだけが浮かんでいるように見えた。


「……見事な連携だった……。

 だが、忘れるな……

 ヴァロワール様は……あのお方の理想は……


 貴様らごときには、決して止められんぞ…」


 それが、ケンプファーが最後に振り絞った言葉だった。


 クロエたちは、ケンプファーを厳重に拘束し(彼が再び抵抗する力は残っていなかったが)、ようやく地下アジトの完全制圧を完了させた。


 アランは、左膝を押さえてうずくまるケンプファーに近づき、静かに問いかけた。


「ケンプファー……

 ——いや、元王国騎士団、

 第三騎士隊隊長、バルドル・ケンプファー殿。


 なぜ、貴殿ほどの男が、

 ヴァロワールのような狂気に(くみ)したのだ?


 貴殿の騎士道は、どこへ行ってしまったのだ?」


 ケンプファーは力なく首を振り、答えた。


「……騎士道など、とうの昔に捨てたわ……

 この腐りきった世界と、

 それを維持する非効率なシステムに、

 絶望したあの日にな…。


 ヴァロワール様だけが、

 この世界を真に救済できる……

 そう信じただけだ……」


 その言葉は、クロエの胸に重く突き刺さった。彼もまた、何らかの形で、この世界の「非効率」に傷つき、絶望した人間の一人なのかもしれない。


 しかし、感傷に浸っている暇はなかった。クロエは、すぐに武器庫の調査と、結社に関する重要情報が保管されているであろう情報端末の確保に取り掛かるよう、仲間たちに指示を出すのだった。


 中間目標は達成したが、戦いはまだ終わっていない——

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