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第27話: 洗脳された子供たちと効率主義者の葛藤

 地下アジトの中枢区画で始まった「黄昏の秘文字(ヒエログリフ)」の戦闘員たちとの戦いは、クロエたちの予想以上に激しいものとなった。


 敵は単に数が多いだけではない。一人一人が古代魔法の基礎的な戦闘技術を叩き込まれており、現代魔法とは異なるトリッキーな動きで攻撃を仕掛けてくる。


 さらに彼らは個々の戦闘能力はそれほど高くなくとも、巧みな連携と死をも恐れぬ狂信的なまでの突撃によって、クロエたちを徐々に圧迫し始めた。


「くそっ!

 こいつら、まるで虫けらのように

 次から次へと湧いてきやがる!

 キリがねえ!」


 バーンズが自慢の爆裂魔法で敵の集団を薙ぎ払うが、すぐに新たな戦闘員がその穴を埋めるように現れる。アランも、二本の短剣を駆使して敵の攻撃を捌きながら確実に数を減らしていくが、消耗は明らかだった。


 シオンは——ひらりひらりと敵の攻撃をかわしながら、時折、予測不能な古代魔法で敵を混乱させてはいるものの、積極的に敵を殲滅しようという意思は見られない。これがシオンの戦い方か。


 クロエは、後方から戦況全体を冷静に分析し、的確な指示を飛ばしながら、自身も精密な魔法攻撃で敵の指揮官クラスや、特に厄介な術を使う者を優先的に無力化していく。


「アランさん。

 右翼からの挟撃に注意!


 バーンズさん。あなたの正面向かって三時の方向に、

 敵の増援らしき魔力反応!


 シオンさん。

 もう少し敵を引きつけて、

 彼らの連携を分断できますか?


 リリィさん。敵の魔力パターンの解析、急いで!

 何か共通の弱点があるはずです!」


 戦闘が続く中、クロエたちは、このアジトの恐るべき実態を目の当たりにすることになる。


 そこは単なる訓練施設ではなかった。広大な地下空間には、いくつもの区画に分かれた訓練場があり、そこで、まだ十代半ばにも満たないような少年少女たちが、まるで兵器のように扱われ、過酷な戦闘訓練を強制させられていたのだ。


 彼らの瞳には子供らしい純粋さはなく、ただヴァロワール(あるいは結社の指導者)の歪んだ思想——現代社会への憎悪、古代魔法による世界の救済、そして異物を排除することの正当性——を、盲目的に信じ込まされた結果の、狂信的な光だけが宿っていた。


 彼らは、クロエたち潜入者を

 「旧世界の秩序を乱す悪魔」

 「浄化されるべき穢れた存在」

 と呼び、恐怖も躊躇いもなく、その小さな手に握った錆びた剣や、未熟ながらも強力な破壊力を持つ古代魔法の断片をもって、命懸けで攻撃を仕掛けてくる。


「な……なんだこいつら……

 子供まで戦わせるなんて、許せねえ!」


 バーンズは、自分に向かってくる幼い少女の姿に、一瞬攻撃をためらった。その隙を突かれ、少女の放った小さな火球が彼の腕を掠める。


「バーンズさん! 油断は禁物です! 彼らは敵です!

 ——そうプログラムされた危険な存在です!」


 クロエは、非情なまでに冷静に警告するが、彼女自身も、その光景に内心では複雑な感情を抱いていた。


 これらの子供たちは被害者でもあるのだ。結社の歪んだ思想によって、その未来も、人間性すらも奪われようとしている。


(彼らを無駄に傷つけるのは、

 私の本意ではありません。


 ——ですが、彼らは現実に我々の脅威となっている。

 ならば、可能な限り殺傷能力を抑え、

 行動不能にすることに専念すべきですね。


 そして、この非効率な洗脳システムを

 一刻も早く破壊しなければ…)


 クロエは、攻撃魔法の出力を調整し、敵を殺傷するのではなく、眠らせたり、一時的に金縛り状態にしたりする系統の魔法へと切り替えた。


 アランも、クロエの意図を察したのか、剣の峰打ちで敵を気絶させ、急所を避けるように戦い始めた。


 バーンズも、苦々しい表情を浮かべながらも、威力を抑えた範囲攻撃で敵の足止めに徹するようになった。


 シオンだけは、そんなクロエたちの葛藤を面白がるかのように


「やれやれ、君たちは本当に甘いねぇ。

 敵は敵だろう?

 まあ、その甘さが、人間らしさ

 というものなのかもしれないが」


 などと呟きながら、相変わらず派手な幻惑魔法で敵を翻弄し、結果的にクロエたちの負担を軽減させていた。彼の真意は、やはり読めない。



 数時間に及ぶと思われる(遺跡内部では時間の感覚が曖昧になっている)激しい戦闘の末、クロエたちはようやく敵の第一波を制圧し、アジトの中枢部へと続く通路を確保することに成功した。


 周囲には、意識を失って倒れている結社の戦闘員や、洗脳された少年少女たちが、折り重なるように横たわっている。


 クロエは、彼らを無力化する際に、極力ダメージを与えないように細心の注意を払ったが、それでも——この光景は決して気分の良いものではなかった。


「……急ぎましょう。

 このアジトの本当の中枢は、まだ奥のはずです。


 武器庫を破壊し、

 彼らの洗脳システムに関する情報を

 確保しなければなりません。


 そして、願わくば、

 この子供たちを解放するための手がかりも……」


 クロエは、仲間たちにそう告げると、新たな決意を胸に、さらに暗く、そして不気味な気配が漂う遺跡の深部へと、足を踏み入れていくのだった。


 ——彼女の効率主義の根底にある、彼女の本来の人間性は、この非道な状況を許せずにいた。

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