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第22話: オペレーション・ナイトフォール前夜の攻防

 クロエとアランが練り上げた共同作戦「オペレーション・ナイトフォール」の決行日が、刻一刻と迫っていた。


 ヴァロワール宰相と「黄昏の秘文字(ヒエログリフ)」の幹部が、王都郊外にある、今は使われていない貴族の別荘で極秘裏に会合を持つという情報を、アランの持つ情報網が掴んだのだ。


 その情報の確度は高いとクロエは判断したが、同時に、それが敵の巧妙な罠である可能性も捨てきれなかった。


「ヴァロワールほどの男が、

 そう簡単に尻尾を掴ませるとは思えません。


 この会合情報自体が、

 我々をおびき出すための陽動、

 あるいは、

 さらに大きな罠への入口である可能性も

 考慮しておくべきでしょう」


 クロエは、あらゆる事態を想定し、複数のコンティンジェンシー・プラン(緊急時対応計画)を脳内で構築していた。


 そして、彼女の懸念は、残念ながら的中することになる。作戦決行の数日前から、クロエとアランの周辺で不審な出来事が頻発し始めたのだ。


 アランが、作戦遂行のために信頼できる部下数名に極秘裏に指示した内容が、なぜか外部に漏洩し、彼らが待ち伏せされたり、尾行されたりするようになった。


 クロエ自身も、自宅周辺で明らかに自分を監視していると思われる怪しい人影を、何度か感知していた。


「……情報が漏れていますね。

 それも、かなり高い精度で。

 アランさんの部下の中に、

 まだスパイが潜んでいるのか。


 あるいはヴァロワールが、

 我々の通信を直接傍受、または予測できる、

 何らかの特殊な能力か魔道具を

 所有している可能性も考えられます」


 クロエは、自身のラボのセキュリティレベルをさらに引き上げ、外部との通信も、これまで以上に高度な暗号化と偽装を施すようにした。


 しかし敵の妨害工作は、それだけでは終わらなかった。


 王都のタブロイド紙や街角の噂話を通じて、「クロエ・ワークライフ、謹慎中に古代魔法の禁断の研究に手を染め、その力に魅入られて暴走。魔術師団から追放処分を受ける日も近い」という、真実と嘘を巧妙に織り交ぜた、悪質なデマが急速に広められ始めたのだ。


 その噂は、クロエがオリジンコアセクターで古代ゴーレムを圧倒的な力で撃破した事実と、彼女が魔術師団内部で「異端児」として扱われているという評判、そして彼女が実際に謹慎処分を受けているという状況を、巧みに利用したものだった。


 これにより、これまでクロエに対して同情的だった一部の世論は、一気に懐疑的なものへと変わり始めた。


 彼女を「危険な存在」と見なす声も上がり始め、彼女に協力したり、例えばリリィのような、情報を伝えようとしたりする者に対しても、無言の圧力がかかるようになってきた。


「先輩……最近、街で、先輩の良くない

 噂をたくさん聞くんです……。

 先輩が、悪い魔法使いになったとか、

 王国を裏切ろうとしているとか……

 そんなの絶対絶対、嘘なのに……!」


 リリィは、大きな瞳に涙を浮かべながら、クロエにそう訴えた。彼女もまた、周囲からの心無い言葉や冷たい視線に心を痛めているのだろう。


 クロエは、リリィの頭にポンと手を置いて静かに言った。


「リリィさん。

 気にする必要はありません。

 噂というのは事実とは無関係に、

 人々の不安や憶測を養分として増殖していく、

 非効率な情報ウイルスのようなものです。


 重要なのは、真実が何かということであり、

 そしてその真実を我々がどう利用するか、

 ということです」


 クロエは、この悪質な情報操作に対しても冷静に対応した。アランと協力し、まず騎士団内部の情報漏洩経路の特定を急いだ。その結果、アランの部下の一人が、家族を人質に取られる形で結社に脅迫され、情報を流していたことが判明。


 同時に、流されている偽情報を逆手に取り、ヴァロワール側にさらに誤った情報を掴ませるための、巧妙な偽装工作を開始した。


「敵が、私を『危険な古代魔法の研究者』として

 見ているのであれば、

 そのイメージを最大限に利用しましょう。


 例えば、私が密かに『黄昏の秘文字(ヒエログリフ)』と接触し、

 彼らの力を利用して王国に反旗を

 翻そうとしている……。


 あるいは、

 もはや誰の手にも負えないほどの

 強大な力を得てしまい、

 国外へ逃亡しようとしている……

 といった偽の情報を、

 意図的にリークさせるのです」


 クロエの提案に、アランは「…君は、時々、本当に悪魔のようなことを考えるな」と呆れながらも、その有効性を認めざるを得なかった。


「敵を欺くには、まず味方から、

 とはよく言ったものですが、

 今回の場合は、敵が勝手に作り上げた虚像を、

 こちらが利用させてもらうだけです。

 実に効率的でしょう?」


 クロエは、不敵な笑みを浮かべた。情報戦は、既に始まっている。そして、彼女はその戦いにおいても、決して負けるつもりはなかった。


 たとえそのために、さらに多くの「敵」を作ることになったとしても。

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