第14話: 即席共同戦線と未だ見えざる『真の敵』
第二波として出現した中型ゴーレム群は、数こそ多いものの一体一体の戦闘能力や防御力は、先ほどの巨大ゴーレムと比較すれば格段に劣っていた。
しかし、それらは巧みな連携を取りながら、まるで訓練された兵隊のように統率の取れた動きでヘイステリア市へと迫りつつあった。
クロエは、現場に残っていた数少ない戦力——負傷から辛うじて復帰したバーンズ、後方支援と負傷者救護に奔走するリリィ、そしてまだ戦意を喪失していない数名の騎士団員や魔術師——と、即席の共同戦線を組むことにした。
もちろん、指揮権はクロエが半ば強引に掌握した形だ。
「皆さん、聞こえますか。
これより中型ゴーレム群の迎撃を開始します。
私の指示に従い、効率的な連携を心掛けてください。
無駄な魔力消費と不必要な自己犠牲は厳禁です。
目標は、被害ゼロでの完全掃討。
よろしいですね?」
クロエの冷静で的確な指示は、混乱していた現場に一筋の光明をもたらした。バーンズは、先ほどクロエに助けられた(そしてその実力を目の当たりにした)ことで、多少なりとも彼女の指示に耳を傾けるようになっていた。
「バーンズさん。
あなたは持ち前の高火力を活かし、
ゴーレム群の先頭、
特に防御力の高そうな個体を狙い、
一点集中攻撃をお願いします。
ただし決して深追いはしないように。
あなたの役割は敵の陣形を崩し、
後続の攻撃チャンスを作り出すことです」
「…おう、分かった。
お前の言う通りにしてやるよ。
ただし、これでしくじったら承知しねえからな!」
バーンズはぶっきらぼうに答えながらも、その目には新たな闘志が宿っていた。
「リリィさん。
あなたは引き続き負傷者のケアと、
後方からの情報支援を。
特に、敵ゴーレムの出現パターンや、
弱点となりそうな部位の情報を、
アナリティカル・レンズの共有データから
リアルタイムで私に報告してください」
「は、はい! 了解です、先輩!」
リリィの声には、まだ緊張が残っていたが、以前のような怯えは消えていた。
「騎士団及び他の魔術師の方々は、
私の指示があるまで待機。
ゴーレムがこちらの迎撃ラインを突破した場合の、
最終防衛ラインの構築と、
民間人の避難誘導の徹底をお願いします」
クロエは矢継ぎ早に指示を飛ばしながら、自身はオプティマイザー・ロッドを構え、遺跡から放出され続ける異常な魔力パターンを、より詳細に再分析していた。
「このパターン…
やはり、自然現象ではありません。
外部からの強制的な励起と、
高度な制御を受けています。
しかも興味深いことに、
先ほどの巨大ゴーレムを制御していたパターン
と比較すると、より洗練され、効率化されている…
敵もこの短時間で学習し、
システムをアップデートしているようですね。
——実に厄介な相手です」
クロエの脳裏には、シオン・アークライトが語っていた「未知の魔法体系」や「異次元からの干渉」という言葉が再び蘇っていた。
このゴーレムたちは、単なる古代兵器の暴走ではなく何者かの明確な意思によって操られている『操り人形』のようなものなのかもしれない。
だとすれば問題の根本は、ゴーレムそのものではなく、それを操っている「誰か」、あるいは「何か」ということになる。
「これらのゴーレムを一体一体倒し続けるのは、
蛇口からとめどなく溢れ出してくる水を、
ただひたすら雑巾で拭き続けるようなものです。
一時しのぎにはなっても、
根本的な解決には至りません。
元栓……つまり。
この非効率な状況を作り出し、
私の貴重なアフターファイブを脅かしている『元凶』
そのものを叩かなければ、
この問題は——永遠に解決しないでしょう」
クロエは、はっきりとそう結論付けた。
迎撃作戦は、クロエの的確な指揮と、バーンズの意外な(しかし効果的な)奮闘、そしてリリィの献身的なサポートにより、予想以上にスムーズに進んだ。
バーンズが先陣を切ってゴーレムの防御をこじ開け、そこにクロエが精密な弱点攻撃を叩き込み、確実に一体ずつ無力化していく。
リリィは後方から敵の増援情報や、各個体の微細な挙動変化をクロエに伝え、攻撃の精度をさらに高めることに貢献した。
数十分後、中型ゴーレム群は完全に掃討された。しかし、クロエの表情は晴れない。
「一時的な鎮圧には成功しましたが、
遺跡からの魔力の流れは止まっていません。
おそらく、さらに強力な第三波、
あるいは、
これまでのゴーレムとは全く異なるタイプの
『何か』が出現する可能性も、否定できません」
彼女は、捜査と戦闘の焦点を、目の前のゴーレムを倒すことから、それを操る、あるいはこの現象を引き起こしている「真の敵」の特定とその排除へと、完全にシフトさせることを決断した。
「オリジンコアセクター……
その最深部に全ての答えがあると、
私の分析は告げています。
危険は承知の上ですが、行くしかありませんね。
これ以上、時間を浪費するわけにはいきませんから」
クロエは、夕焼けに染まる不気味な遺跡を見据え、静かに、しかし固い決意を胸に、その禁断の地へと足を踏み入れる準備を始めるのだった。