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第104話: 王都カルドニアの復興とアランからの不穏なメッセージ

 「兄弟団」の残党による小規模なテロ計画もクロエたちの迅速かつ効率的な対応、そしてアラン率いる騎士団の精鋭部隊による隠密作戦によって未然に防がれ、王都カルドニアにはようやく平穏が戻りつつあった。


 街は復興作業ではあるものの活気に満ち、人々は過去の悪夢を乗り越え、新たな日常を力強く築き始めようとしていた。


「今週もまた、行きつけのパティスリーが

 営業再開との情報がありますね……」


 クロエもまたようやく心置きなく定時退社を満喫できる日々を取り戻していた。


 相変わらず新作スイーツの市場調査と評価に余念がなく、時にはリリィやバーンズを誘ってその味覚を共有し議論を戦わせる、という新たな「遊び」の発見もあった。


 もちろん難解な魔導パズルの解読も継続課題だ。


「やあクロエ。

 今度こそ、君を困らせる魔導パズルに違いない」


「この間もそう言っていましたが

 一瞬でしたよ」


「ふふ……君の傾向と対策は任せてくれ」


 そう言うと、シオンは見たこともない風情の複雑に金属が絡み合うパズルをクロエの目の前に差し出した。


 最近ではシオンがどこからか持ち込んでくる異次元の超難解なパズルに挑戦することが、彼女の新たな楽しみとなっていた。


「これは——本格的ですね」


 時には仲間たちと他愛のない会話を交わしながら「非効率」だがどこまでもリラックスできる温かいティータイムを過ごす。


 その輪の中にはアランも「情報交換」と称して時折顔を出していたが、実態はただの穏やかな雑談を交わすのが常となっていた。


(ようやく、私の「定時」が字義通りに

 「定時」となりましたね……喜ばしい限りです)


 クロエだけではない。仲間たちもまたそれぞれの道で大きな成長を遂げていた。


 リリィは王立禁書庫の若き副司書長としてその誠実さと卓越した分析能力を活かし、クロエが陰から提供する「業務改善コンサルティング」——という名の「完璧な指示書」を元に、着実に禁書庫の再建と改革を進め、手腕は王国の内外から高い評価を得始めていた。


 バーンズは魔術師団の若手育成部門の鬼教官として、自己流の「脳筋熱血指導」にクロエから叩き込まれた効率的な訓練理論とアランから学んだ戦術眼を取り入れ、格段に効果的な指導法で多くの有望な若手を育てており、早くも深く慕われつつあった。


 アランは騎士団情報部のトップとして今回の事件の教訓を活かし、王国内外の新たな脅威に対する情報ネットワークの再構築と、組織間の非効率な縄張り争いを排除するための「部門横断型危機管理プロジェクト」の設立に尽力し、騎士団内部で信頼を勝ち得ていた。


(皆さんのご活躍。

 私も大変喜ばしく思っていますよ——)


 クロエは、復興する街並みを眺めながら、コーヒーを啜り、想いを馳せていた。



 そんな、とある、晴れた朝。


 王都に夜明けを告げる教会の鐘の音がいつにも増して美しく、晴れやかに鳴り響いた。


 長きにわたった戦いの終わりと、新たな時代の始まり、そして平和な日常の尊さを、街中の人々の心に告げているかのようだった。


 クロエは急ごしらえのアジトの窓から、鐘の音と朝日に美しく輝く王都の街並みを眺めながら、どこか感慨深げな表情を浮かべていた。


(私が求めていたもの。

 平穏な日常、平穏な仕事、平穏なアフターファイブ。

 何という充実感でしょうか——)


 ♪ピロロロロン


 しかし、静寂を破るかのように——いや、実際に静寂を破る音声は鳴っているのだが——クロエの魔導端末に一件の「至急確認を要する極秘情報」とマークされたアランからのメッセージが届いた。


『クロエ、少し厄介な情報が入った』


(——!)


『隣国ルヴァリア皇国で

 数ヶ月前から原因不明の大規模な龍脈エネルギーの

 異常活性化が観測されている。


 背後にはどうやら

 危険なカルト組織の影があるらしい。

 詳細は後ほど直接報告する。


 君の『専門知識』と『効率的な問題解決能力』を

 少しだけ貸してもらうことになるかもしれない』


「少し、だけ」


 クロエはメッセージを一読すると、深い深いため息をついた。が、すぐに、以前よりも少しだけ楽しげに、いつものようなプロフェッショナルとしての誇りに満ちた不敵な笑みを浮かべた。


「……やれやれ。

 私の完璧な定時退社ライフとこの世界の平穏は

 どうやら常に新たな『非効率的な戦い』の

 最前線にあるようですね——


 ですが、それもまた

 日常という名の刺激的なパズルなのかもしれません」

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