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第100話: 新たな『非効率的会議』とクロエなりの鎮魂

 王国を、そして世界を混沌に陥れた賢者ヴァイスク。彼が遺した、古代兵器『万象廻るヘキサグラマトン』の恐ろしい設計思想。


 そしてヴァイスクが収集した膨大な禁断の知識、そしてその末に辿り着いた「効率による世界の再調律」という歪んだ理想。


 これらを巡り王国では、会議という会議で激しい議論が巻き起こっていた。


「禁書庫から持ち出された魔術書など

 あまりにも危険な知識は

 二度と悪用されぬよう完全に封印

 あるいは消滅させるべきだ!」


「しかしそれでは

 歴史の闇へと葬り去ることになる。

 歴史は繰り返すぞ!」


「左様。

 過ちを繰り返してはならない」


「だが——その中にも

 未来の魔法技術の発展に貢献しうる

 有益な部分があるはずだ」


「何も技術自体が悪なわけではない!

 未来に資する部分は

 安全に利用できる道を探るべきだ」


「そもそも論壇としてはだね

 彼の思想と計画の全てを反面教師として

 後世への警告とすべきだと考えている者もいる」


 クロエは公的な議論には一切直接関与しようとはしなかった。あまりにも非効率で、結論の出ない不毛なものになることが目に見えていたからだ。


(行かなくてもわかる、不毛な会議です)


 しかし彼女は個人的に、極秘裏に行動していた。


 リリィの協力を得て、禁書庫に一旦封印されたアステル・ノクターナが遺した膨大な研究データと、彼女の手記を再検証することにしたのだ。


「アステル。

 あなたの本当の『想い』を私は知りたい——」


 しかし改めて調査をしてみれば、そこには確かにクロエが知る通り常軌を逸した狂気と、危険な思想が満ち溢れていた。


 と同時に、膨大なデータの片隅にクロエは見つけた。


『世界をより良いものに変えるためには

 時間をかけて人々を導かなければならない時がある。

 指導者——王国のために公務に捧げる人々を

 養成する機関が必要なのか、あるいは——』


 かつてのアステルの純粋な探究心。世界をもっと良くしたいという『歪む前』の純粋で温かい願いの欠片。そして、クロエと共に語り合った未来の夢の名残。


『王立先進魔導研究所——

 その設立思想が間違っていたとは思えない。

 間違っていたのは、やり方』


「——アステル。

 あなたよ。

 あなたこそ、やり方を間違っていたのです」


 クロエはアステルが「効率」を信じて辿ったあまりにも悲劇的な道のりと、クロエ自身が信じる「効率」の本当の意味との違いについて深く、静かに思索した。


(同じ『効率』と言っても

 やはりどこかで確実に袂を分かってしまった——)


 そしてクロエは一つの結論に達した。


 アステルの遺志をクロエなりのやり方で未来へと繋いでいくという結論に。



 魔術師団のオフィスに戻ると、クロエはアステルが遺した膨大な知識の中から真に価値があり安全に応用可能な部分――例えば古代魔法の危険性を正確に予測するシミュレーション理論や、暴走した魔力エネルギーを安全に鎮静化させるための新たな技術などを抽出し、それをリリィたち「良識ある研究者」たちと共有することで、未来の魔法技術の健全な発展と倫理的な運用のための礎を築こうと試みた。


(これが、私にできるせめてもの鎮魂です。

 アステル——どうか安らかに)


 これは、クロエ自身が過去のトラウマと完全に決別するための静かな儀式でもあった。


『……効率とは

 表面的な時間の短縮を求めることではない。

 プロセスにおける厳格な倫理観と、

 それに関わる全ての人々の幸福への配慮があってこそ

 初めて真に価値のあるものとなる——

 そう信じている』


 クロエはアステルの手記の最後のページにそう静かに書き加えた。


「……まあ、もちろん私の定時退社と

 その後の完璧なアフターファイブが

 最も基本的で譲れない前提条件であることは

 言うまでもありませんが」


 心の中で、小さく囁いた。クロエの心には、もう迷いはなかった。


 と、その時——。


「クロエ。エリオット・グレイワンドから連絡だ」


「エリオットが?」

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