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第四話 大きな代償

自己紹介などの挨拶が終わり、先生がやってくると授業がはじまる。

だが、授業中は、ずっと次はなにを話そうかと考えてしまう。

昨日の綾間の発言だと、学校のこととかになるが、どういうふうに切り出すか。

僕は、そればかりをずっと考えていた。

昼休みに入ると会話をするチャンスがきたが、隣の席を見てみると石黒の姿はない。

すると、教室に石黒が入ってきて、僕の名前を呼ぶ。


「霜野〜! 綾間さんが呼んでるぞ」

「え? な、なんで……」


(なんだ、急に。話すチャンスだったのに)


廊下に出ると、腕を組んだ綾間が待っていた。

呼ばれた理由はわからないが、急いで綾間のほうへ向かう。


「えっと……。どうしたの?」

「大変なことが起きたわ」

「それは、一体……」

「私のお昼ごはんがないの」

「そっか……。僕の家にいたから」

「家に帰ってないからお弁当をもらってないし、お小遣いももらってないからお金もない……」

「ちょっと、待って。僕も作り忘れた……」

「私が昼食の分も作っておくべきだったね……」

「綾間さんのせいじゃないよ。僕が忘れてただけだよ」

「いまから戻って作る?」

「そんな時間ないよ……。けど、僕がお金持ってきてるから売店で買ってあげるよ」

「それは悪いわよ」

「昨日のお礼ってことで」

「それは、私がしなきゃだと思うけど」

「いいんだ。ちょっと財布を取ってくるよ」


僕たちは、今日の昼食のことを考えておらず、お弁当を作り忘れていた。

綾間は、お金を持っていなかったため、僕が売店でお弁当や飲み物をご馳走する。

僕は教室に戻ろうとしたが、綾間が近くにあった体育館を見つけて、そこでお弁当を食べることになった。

体育館には人がいないく、広々としてすごく静かだった。

僕たちは床に座り、お弁当を並べて一緒に食べる。

昨日も二人で食事をしたが、また違う緊張感があり、なぜか綾間の顔を直視することができなかった。


「お弁当ありがとね。明日、お金返すから」

「いいよ。気にしないで」

「だめよ。ちゃんと返すよ」

「昨日のお礼だから、ほんとに大丈夫」

「そこまで言うなら。それより、ちゃんと挨拶できた?」

「そこは問題なかったよ。名前も聞けたんだ」

「おぉ、すごいじゃん」

「綾間さんのおかげだよ」

「それで、どんな人だったの?」

「えっと、名前は石黒勇斗くん。いい人な気はするよ」

「良かったじゃん。仲良くなれそう?」

「まだ、わからないけど、これからもっと話してみてかな」

「そうね。なんか、我が子を見てるようで感動するわ」

「いや、綾間さん子どもいないよね……」

「まぁ、そうだけど 笑」


僕は、お弁当を食べながら、今日の出来事を話した。

また、綾間が笑顔で聞いてくれるのが心地よく、気持ちよく話しができる。

いまになって、綾間が好かれる理由がよくわかった。

顔が良いとかは関係なく、登校時の行動や友達と話しているときを見る限り、誰に対しても優しく接している。

見習う部分が多く、改めて尊敬してしまう。

話の後半は、綾間に対しての思いを考えてしまい、全く話が入ってこなかった。

昼休憩が終わり綾間と別れ、教室に戻るとクラスの男女がなんだか騒がしい。

僕が教室に入ると、ジロジロ見られたり、コソコソ話をされたりする。


(なんだ……。僕、なんかしたかのかな)


なんで騒いでるのか理由はわからないが、とりあえず自分の席に座る。

席に座ると、隣の石黒に話しかけられた。


「おい、綾間さんと仲良く密会してたってクラス内というか、同じ学年内で騒がれてるぞ」

「……。いや、密会というか」

「誰かが見て、いろんな人に言いふらしたみたいだぞ」

「最悪だ……。全然、そういうのじゃないんだけど」

「ほとぼりが冷めるといいけど」

「そう願うよ……」


しかし、午後の授業が終わっても、綾間と密会していたということが騒がれていた。

女子からはジロジロ見られたり、男子からは悪口が聞こえたりする。

学校終わりに石黒と会話をしようと決めていたが、こんな状況であったため、一足先に学校を出ることにした。

綾間には、なにも言わず一人で会議場所に向かう。

今日も会議をするとは約束していないが、とりあえず会議場所で待つことにした。

だが、しばらく待っても綾間は現れない。


(約束したわけじゃないし、今日は帰ろうかな……)


辺りが暗くなりはじめ、そろそろ帰ろうと立ち上がったとき、後ろからコツコツと歩く音が鳴りはじめる。

ローファーの歩き音が段々と大きくなり、振り返ってみると目の前には、すこし驚いた様子の綾間が立っていた。


「やっぱり、ここにいたのね。あれ、帰ろうとしてた?」

「ごめん、いろいろあって先に学校を出たんだ。けど、今日も会議をするって約束したわけじゃないし、来ないかなと思って」

「学校終わりは、ここで人生会議をするって決めたでしょ?」

「そうだったね」

「元気ないじゃない。もしかして、元気がない理由はみんなが噂してたやつ?」

「否定はできないかな。僕に対して、みんなすごかったから」

「……。なにか言われたの?」

「いや、大したことじゃないから」

「気にしなくていいわよ」

「……。そうだね」

「それに、私もいろいろ言われたよ」

「ごめん、僕のせいだ」

「なんで、洸太くんのせいになるのよ」

「僕が一緒にいたからだよ」

「そんなわけないでしょ」

「でも……」

「全部、洸太くんのせいだと思ってるなら大間違いよ」

「……」

「とりあえず、人生会議をはじめましょ」

「わかった」

「まず、今日は名前も聞けたし、話もできたんだから上出来よ」

「明日は、もっと話してみるよ」

「それより、洸太くんってスマホないの?」

「あぁ、持ってないんだ」

「珍しいわね。あれば、連絡取り合ったりもできると思ったのに」

「確かにそうだね」

「まぁ、ないならしょうがないけど」

「けど、もし友だちができて、遊びに行くとかになったらスマホがないと不便だよね」

「事前に場所と時間を決めておけば、なんとかなるんじゃない? ちょっと昭和みたいだけど 笑」

「普通は、みんなあるもんね」

「あっそうだ。あと、明日なんだけど、お弁当は用意しなくていいからね」

「なんで?」

「それは、明日のお楽しみで」

「なにをしようとしてるの」

「明日のお楽しみで 笑」

「……。なんか、怖いな」


理由は、よくわからないが、僕は綾間の言葉に甘えてみることにする。

その後、綾間はバッグをゴソゴソと漁り、一冊の本を取り出し、僕に渡してきた。


「あと、これこれ。これを渡し忘れちゃったから持ってきたの。私からのプレゼントね」

「プレゼント?」

「これを学校に忘れて取りに戻ったら、すっかり遅くなっちゃった」

「それで、遅かったんだ」

「ちなみに、これは人間関係を学べる本だよ」

「これを僕に?」

「私との会議もいいけど、これも読めばもっと完璧になるはず」

「ありがとう。ほんとうにいいの?」

「もちろん。最初から渡せよって感じだよね 笑」

「そんなことないよ。わざわざ、用意してくれて助かるよ」

「明日も石黒くん?に積極的に話しかけてみなよ」

「うん。それと、石黒くんで合ってるよ」

「洸太くんから話を聞く感じは、石黒くんはいい人そうだし」

「そうだね。あと、会議の途中なんだけど、すこしだけこの本を読んでみてもいいかな?」

「いいよ。読んでみて」


気が付くと辺りは真っ暗になっていたが、街路灯の光で本を読みはじめる。

本には、友達ってなんだろう?から友だちが少なくて悩んでいる人へ、良い友達と悪い友達の見分け方などが書かれていた。


(友達がいないことは、人生において悲惨な損失)

(友達は自然にできるものではないため、自分から声をかけるのが重要)

(また、友達作りや友情の維持は自分自身にかかっている)

(すごい……。綾間さんの言ってた通りだ)

(性格の半分は、人間関係で決まってしまうという説がある……)

(また、付き合う友達を変えるだけで、人生や性格までも変えることができる……)

(友人関係で生じるさまざまな問題は、誰かに導いてもらわなければ対処しきれない)

(悩みは一人で抱え込んではいけない……人間関係を円滑にするには、友人に相談してアドバイスをもらうことも大切になる……これは友達がいる場合なのかな)


この本には、さまざまな情報が書かれており、すごく勉強になる部分もあれば、すこしだけ不安になる部分もあった。

夢中になって本を読んでいると、あっという間に時間が過ぎており、綾間は退屈そうにしていた。


「あっ、ごめん。僕だけ夢中になってて……」

「いいの。どうだった? 勉強になりそうなこと書いてあった?」

「うん。家でも読んでみるよ」

「じゃ、今日は解散して、続きは家で読んでみて」

「ありがとう。そうしてみる」


綾間と別れ、自宅に戻ると、すぐに本の続きを読んだ。

その後も夢中で読んでいると、寝る時間を過ぎていたため、明日の学校に備えて本を閉じ眠りにつく。

朝方、家中に鳴り響くチャイムの音で目を覚ます。

僕は何事かと思い、時刻を確認せず玄関へ向かう。

玄関の扉を開けると、綾間が立っており、今日も僕を迎えにきてくれた。

だが、体感ではいつもより早い時間に来てる気がする。


「おはよう。寝起き? 寝癖すごいけど 笑」

「おはよう。いま起きたよ」

「朝早くにごめんね。ちょっと中に入っていい?」

「いいけど、いま何時?」

「いま、6時かな」

「こんな早くにどうしたの?」

「ご飯を作りにきたよ」

「それで、こんな早い時間に?」

「コンビニで食材買ってきたから、朝ごはん食べない?」

「それは、いいけど……」


綾間は家に上がると、すぐに台所に立ち、食材を並びはじめた。

パンや牛乳、卵などが並んでおり、食材を見る限り和食ではなさそうだ。

数十分後にはフレンチトーストができあがり、急に食卓が洋風の雰囲気になる。


「これは、なに?」

「フレンチトースト知らないの?」

「はじめて見たよ」

「田舎者ね〜。これ、すごく美味しいんだよ」

「おしゃれな料理だね」

「私が作ったのは、美味しいかどうかわからないけど」

「美味しいよ。見た目もオシャレで、なんだか料理人みたいだよ」

「ほんと? はじめて作ったから心配だったの」

「よかったら、そのまま食べてて。まだ作らなきゃいけないものがあるから」

「二品目を作るの?」

「お昼のお弁当よ」

「えっ? いや、悪いよ」

「明日のお昼は任せてって言ったでしょ」

「そうだけど、そこまで頑張らなくても」

「まぁまぁ、ゆっくりしてて」


綾間は黙々と調理を続け、お弁当箱に食材を詰めていく。

家を出る三十分前には作り終え、準備万端の状態にしていた。

お互いに食事を終えると、綾間の作ったお弁当をバッグに入れ、一緒に学校に向かう。

学校に着くと、普段よりも冷たい視線を向けられているように感じた。

昨日のことがあってか、僕を睨む生徒もいる。

そして、下駄箱を開けると、なにやら小さな紙くずが靴の中に入っていた。

恐る恐る、確認すると綾間さんに近づくなと一言だけ書かれている。

誰が入れたのかはわからないが、学校に登校するときに抱いていた不安がよみがえった。

僕が固まっていたのに気がついた綾間が問いかける。


「どうしたの?」

「いや、なんでもないよ……」

「そう……」


僕はとっさに紙くずを隠し、なにもないふりをした。

綾間は不思議そうに僕を見てくるが、なんとか誤魔化しその場をしのいだ。

綾間と別れ、教室に入るとみんなの視線が一気に僕のほうに向く。

僕は目を合わせないように自分の席へ向かい、隣の席の石黒に挨拶をした。


「お、おはよ」

「おう、今日も綾間さんと一緒に登校か?」

「まぁ、そうなんだけど……」

「もう付き合ってますとか言ったほうが男子の諦めもつくんじゃないか?」

「ほんとに、そういうのじゃないんだ。みんなが思ってるような関係じゃないよ」

「じゃ、なんでいつも一緒なんだ?」

「それは、僕にもわからないんだ……」

「どういうことだよ……」

「なんで、綾間さんが僕に優しくしてくれているのか。なんで、こんな僕のために色々してくれているのかが」

「好きだからとか?」

「それも、すこし違う気はする」

「それも違うとなると、なんで?」

「それは、僕が聞きたいよ」


会話をしながら、カバンに入った教材や筆箱などを机の中に入れようとした際に、なにかが引っかかっていることに気がつく。

机の中は下駄箱のときとは違い、紙くずがたくさん入っていた。

紙くずを開くと、綾間から離れろなどの内容が書かれている。

僕は、初登校時の不安な気持ちが一気に増し、顔を引きつってしまう。

その様子を見ていた石黒が僕に声をかける。


「どうした?」

「いや、なんでもないよ」


石黒に怪しまれないように、なんとか誤魔化し、その場をしのいだ。

授業が始まっても、紙に書かれていた内容を思い出してしまう。

なぜか、急に呼吸が荒くなり、視線がどんどん下へ下がる。

徐々に視野が狭くなり、目の前は真っ暗になっていった。

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