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杏の血脈のクオ・ヴァディス  作者: 七種智弥
第一章:宵闇に蠢く者——File 04
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File 04:背理に抗う天秤(04)-噂話-

「あら、妙な出立ちだと思ったら、あの第三師管区総司令部の軍人さんだったのねェ。深山(みやま)さんのお宅は色々と訳ありだって専らの噂よォ。警察の方々は、あまりにも信用ならなかったから、現場調査をする方々には私達ご近所付き合いの詳細まではお話しなかったんだけどォ」


 本来の捜査であれば被害者の身辺調査をして然り。それを怠るとは何と杜撰な捜査だと、最初は警察の無能さに頭を抱えていたが、抑々(そもそも)信頼されていないが故に諸情報の提供すらされていないという哀れな現実を突き付けられ、何だか同情を禁じ得ない気分に陥る。これでは警察の面目丸潰れも等しい。

 世間的に警察より信頼度の高い軍人という位置付けに違和感を感じながら、同時にそれが特殊精鋭部隊たるK-9s(ケーナインズ)の獲得してきた功績により齎された結果なのだと、ピンと来る。長年に渡って培ってきた努力の賜物が、村人が示す態度に直結しているのかと思うと、思わず脱帽してしまう。


「奥方御一同にご忠言申し上げますが、警察は市民から税金を絞り上げて日々怠惰に過ごしている訳ではございません。ですから、必要な情報提供は今後は是非ともして頂くようご助力ください。更に言えば、我々軍人は未解決事件を追う最後の砦として、警察の皆々様から収集した情報の全てを引き継いでおります。これ故、警察への情報提供が無駄になることはないのです」


 警察に対する冷遇っぷりにフォローを入れざるを得ないレンさんの声音は、僅かに苦笑いしていた。奥方二人が、「最終的に軍人さんのお役に立つなら、警察への情報提供もやぶさかではないわね」と納得する中、レンさんは会話の軸を深山(みやま)家の問題について戻した。


「早速で申し訳ないのですが、我々第三師管区総司令部は深山(みやま)家の客観的な家庭環境の情報を集めています。生存者がいない点も含めて、詳しく事情を聴取できる相手は限られていましたから、奥方お二人には改めて感謝を」


「いいのよ~、そんなに畏まらなくて。今や警察より余程軍人さんの方が信頼できるご時世だもの。警察が万策尽きた案件を華麗に解決してみせる第三師管区総司令部の快進撃を、私達は何度もニュースで目にしているんですから。その手助けになるなら協力は惜しまないわ~」


 奥方二人は軍人というものに対し極めて親和的であるため、そこを上手く利用した情報収集は存外お手軽に済みそうだ。無論上手く取り入ったレンさんは、更に詳しい情報を追及しようと試みる。


「それで、お二方から見た深山(みやま)家とは?」


 すると奥方二人は、「その言葉を待ってました_!!_」とばかりに、マシンガンの如く矢継ぎ早に深山(みやま)家のゴシップネタを提供し始めた。


「あそこのお宅は夫婦共々感じが悪くてねェ。こっちの挨拶に返事も返さないくらいご近所付き合いに無頓着というか、常に人を下手に見ているような高慢痴気な性質があったのよォ。旦那さんが大手企業勤めだからって天狗になってるのかしら?」


「一度家族全員で出かけている姿を見たけど、外出を楽しむような雰囲気は全くないし、家族だってのに殺伐とした空気を纏っているのを見掛けたわよ~。遊びに行く先が観光施設とかアミューズメントパークみたいなところじゃなくて、お葬式や警察に呼ばれたような雰囲気っていうのかしら。家族でわいわいって言葉は、あの家庭には似合わないかもね~」


「お子さんも悪い噂で持ち切りだったわよねェ。上のお姉さんなんて就学先で虐めの主犯格を張っているっていうし、下の弟さんは引き篭もりだけどSNS上で誹謗中傷の投稿をしてのさばっているらしいし。あの家には碌な人間が居ないわァ」


「そういえば私聞いたわよ~。弟さんったら動画配信しているちょっと有名な配信者さんを匿名でバッシングして、自殺未遂まで追い込んだとか何とか」


「怖いわねェ。そこまでして他人を貶したり乏したりする理由が、私達凡人には理解できないわァ」


 深山(みやま)家が人格に(やや)問題を抱えた家庭であることは、十二分に理解した。特に子供達二人による学校での虐めやネット上の誹謗中傷は、他者から恨みを買っても仕方ないものだ。報復と称して背後からグサリ、なんて事故に巻き込まれる危険性も、有り得なくないくらいに。

 ここまできたら両親にも何か問題がありそうだ。近隣の住人に事情聴取する意義はまだまだあるだろう。なんて考えていると、奥方の方から朗報が舞い込んだ。


「そうだ! 深山(みやま)さん家のお隣の(かけい)さんだったら、私達以上に詳しく深山(みやま)家について知っているんじゃないかしら? あのお宅のお子さんは深山(みやま)家の長女と幼馴染だっていうしねェ」


「そうね~、何なら(かけい)さんのお宅まで案内してあげましょうか?」


「「「「是非」」」」


 思わぬ吉報に僕達四人は見事食らい付く。全く同一の反応を示す僕達四人に奥方は「皆さん仲が良いのね」と微笑む。彼女らを筆頭に、黒づくめの集団は更なる情報を求めて、少し離れにある深山(みやま)家の隣人を訪ねたのだった。

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