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0-8 人間ではない身体

 料理中に回していた換気扇も止まって定食屋内に静まり返った空気が流れる中、レオトラから言われた言葉にラン、ユリと揃って目が点になっていた。


「俺達が……」

「普通の人間じゃなくなったって……って、どういう事?」


 いざ唐突に言われてみると何がどう違うのかが分からず揃って首を傾げてしまう二人。お互いの姿を目を凝らしてよく見ても、やはり髪色を除けばそこら辺にいる普通の人間そのものだ。


        ぞ?」

「「全然変化ない

        けど?」


 二人が息を揃えたかのように同じタイミングでレオトラに顔を向け直してコメントすると、レオトラの方も目を閉じ眉にしわを寄せてどう説明をするべきか悩んでいる様子だった。

 だが少しして、我慢が苦手な子供相手に長時間悩むのはマズいと思ったレオトラは、いい加減話始めなければならないと右目を微かに開けつつユリに指を差した。


「そうだなぁ……まあまずお嬢。アンタからだ」

「私?」


 ユリがポカンと反応してしまうと、レオトラはもう一度彼女に質問した。


「確か小さな石みたいなのを飲み込んだって言ってたな?」

「うん。目にしたのは一瞬だったから、ハッキリと形は分からないけど」

「それはいい。とにかくそれから時折ぬいぐるみになるようになったんだな」


 ユリが素直に頷くと、レオトラは眉のしわはそのままに苦笑いに似ているが少々違う何とも言えない表情になった。


「ああ、なんてこっただ。これはあの野郎にどやされるな」

「あの野郎?」

「こっちの話だ聞くな」


 ランの問いかけに即返事をするレオトラ。ユリは彼が誰の事を浮かべたのか何となく察したのか、

一瞬ジト目をしながら目を逸らして一筋の冷や汗を流した。


 レオトラは話を戻し、ユリが飲み込んだものについて自分に思い当たるものと仮定して説明を始めた。


「お嬢、おそらくアンタが飲み込んだのは、世界の結晶だ」

「何だそれ?」

「えぇ!!!?」

「うわっ! ビックリした。いきなり大声出すなようるさい」


 レオトラの言うものが何なのか全く知らないランが少々失礼な態度ながら聞き返そうとしていたが、隣にいるユリから飛び出した驚きからの叫び声にかき消されてしまった。

 一方のユリは何も知らないことが丸分かりのランの態度に逆に驚いている様子で、彼に対し怒鳴りつけてきた。


「アンタ知らないの!? 相当田舎か文化の遅れた世界からやって来たのね」

「いちいち腹を立たせるな!! 知らないものを知らないって言って何が悪い!!」

「そういちいちキレるなラン坊。分かりやすいよう説明してやる」

「だから坊主呼びするなって!!」

「うるさい!! いいから口閉じて!!」


 何度も同じ事に起こるランの台詞がいい加減聞き飽きたようで、彼が台詞を言い終わる前にユリが顎を掴んで強制的に口を塞がせた。


 無理矢理黙らされたランが不機嫌にユリを睨みつける中、レオトラはようやく場が落ち着いたとランに対してその()()というものが説明した。


「『世界の結晶』。各異世界にそれぞれ一つ存在するとされているもので、いうなればその世界の(コア)に当たる部分だ。

 形は様々だが、たいがいは小さな宝石のようだそうだ」

(小さな、宝石……あっ!!)


 ランは自分が元の世界で奪い取ったのがその結晶だったのかと納得する。そして自身の口を塞いでいたユリの手を右手で退けて息をするように口を開いた。


「つまり、俺が持ってきたその結晶ってのを飲み込んだせいで、ユリはこうなった?」

「結晶は触れることによってその世界の概念……力を使えるようになるらしい。お嬢はそれを飲み込んでしまった。だから常に結晶の力が使えるのだろう。

 その世界が『ぬいぐるみの世界』なのか『人形の世界』なのか、細かいところは分からんがな」


 自分の身に起こった事を理解したユリはなるほどといった様子だ。


「じゃあま、私の事は変身が出来るようになっただけって事ね」

「ま、今のところはそうだな。目先に危ない度合いで言ったら、圧倒的にラン坊の方だ」

「俺が?」


 短時間にしてもはや十回近く『坊主』呼びをされたからか、ランももういちいち突っかかることは諦めたようだった。それよりも自分の異変について知りたかったことも大きい。

 ユリも同じくランの身体の事については気になっていた。間違いなく先程も起こった爆発に関係があるのだろう。


 レオトラがランの話を始めるとき、最初に視線を向けたのはランではなくユリの方だった。


「お嬢、コイツに血を上げたな」

「え? あぁ、うん……」

「は? 血ってどういう?」


 彼自身は意識を失っている間に行われていたがために知らぬ存ぜぬな状況のランの問いかけを聞き流しつつ当然のように答えるユリ。

 キョトンとした様子のユリを見てレオトラは呆れた顔をする。


「お嬢、大方最初回復能力が効かなかったんで自分の血を流した。んなところか?」

「え、ええ……そうだけど」


 レオトラは再び片目を閉じて腕を組むと、ユリに冷たい声を浴びせてきた。


「下手をしたら、それでラン坊は死んでいたぞ」

「えっ……」


 キョトンとしていたユリの表情が一瞬で青ざめた。彼女は一瞬頭が真っ白なりかけたが、それでも何とか絞り出すようにレオトラに反論する。


「で、でも! 私、前に勉強したのよ! 私たちの回復の力が効かなかったとき、私達の身体に流れる血をその怪我人に入れることで治す方法があるって」

「お前! まさか俺の身体に自分の血を入れたのか!?」


 ここに来て初めて自分の身体にユリの血液が入っていくことを知ったラン。仰天して両肩が上がりながらユリの顔を見た。

 レオトラはユリが明確にショックを受けていることが分かっていながらも、彼女に間違ったまま知識を持たせておくべきではないと厳しく説明を続けた。


「確かに奥の手としてその回復方法はある。だが、それはあくまで()()()()の文明人の血が元から入っている人に対してだ。

 ラン坊はそうじゃない。どこの世界から飛ばされてきたのかは分からないが、確実に鉱石の血は流れていないだろ。一歩間違えたら、お嬢の血の力に耐えきれずに死んでいた」


 レオトラの説教にユリの表情が固まった。重症だったランの身体を治そうとしてやった必死の判断。それがまさか相手の命を奪いかねない危険なものだっただなんて思いもしなかったのだから無理もない。


 だがランは自分の命がかかっていた事だというのに特に何とも感じていないような顔を平然としてレオトラに本題を問いかけた。


「それで? 時折起こる変な爆発は、俺の中に入ったユリの血のせいだっていうのか?」


 質問をするランの態度にレオトラは微かに瞼に反応が出るも口にはせず、誤魔化すように自分の掌を見た。


「俺達『鉱石の世界』を生まれとする奴らは、体に流れる血にとてつもないパワーを秘めている。本来それは当の本人という器の中でこそ安定……何もなく使えるものなのだが、別の人物に入ったときはそうはいかない」


 レオトラは子供相手にも分かりやすくなるように伝える言葉を選んで話しており、やりづらさから少々苛立ったような態度になりつつも二人から目線を逸らして抑える。


「それこそガラス瓶にマグマぶち込むようなもの。お前は生き残れたのはいいが、やはりものに出来てはいないんだろう。だからお前の気持ちとは関係なく()()()()()()()()が爆発した」

「ランの身体が爆発!?」

「すぐにこれまたお嬢の血の力で()()()()再生。元の状態に戻っちまっているがな」

「ああ、だから今も怪我一つないのか」


 次々明らかになるランの身体の状況に彼本人は軽く傷が一つも見当たらない自分の手元を見ていたが、彼に血を与えてしまったユリの方はより大きく動揺し席を立つと、ランが見ていた彼の右手を両手でやさしく握った。

 突然のユリの行動にランは驚いてユリの顔を見る。


「何だ!? 急にどうした?」

「私を助けるときに次々爆発したのって、とても痛かったんじゃないかって思って……」


 ユリは自分のせいで身体が変わってしまった上に自分が攫われたがためにそんな状態のランを戦わせ、その体に秘められた異常を発動させてしまった。

 ランの今の状況は、すべて自分のせいで起こってしまったと言っても過言ではない。ユリはそう思っていた。


「ごめんなさい……」

「あ? だから何がだよ?」

「何がって! 私のせいで、貴方の身体はこんな事になって……爆発するってことは、やっぱり痛いんでしょ!! それなのに、あんなに戦って」


 申し訳なさから手を握り続けるユリだったが、ランはそれを振り払い、目線も外しながらユリの言い分に返答する。


「よせ、気持ち悪い。あれはあのチンピラどもがむかついたからどついたんだよ。お前の事はついでだ」

「でも!」

「それに俺は全然痛いなんて思っちゃいねえよ。むしろ都合いいくらいだ」

「都合がいい?」


 ランの予想外の返答にユリがどう返すべきか困っていると、ランは目線の先に自分の拳を向けてレオトラもいる場で自分の目的をさらっと吐いた。


「この力があれば、アイツ等にだって今度こそ勝てる。ぶち殺してやれるさ」


 小さい子供はもちろん、大人ですら冗談程度でしか言わないであろう台詞。ところがこの時台詞を聞いたユリとレオトラは、ランの瞳に本当の殺意を感じ取った。

 それはつまりランは何者かを激しく恨み、殺そうと考えているていうことだ。


 唖然とするユリと目じりを強めるレオトラをにラン居心地がわるくなったようで、見つめていた拳を下ろしレオトラに一応の言葉をかけた。


「めし、美味かった。それじゃあな」

「ラン!!」


 たったそれだけの台詞で片付けて定食屋から出ていこうとするラン。ユリは今の彼はすぐに何かしでかしかねないと思って走りかけるも、突如後ろからレオトラに肩を掴まれて足を止められた。


「おじ様!?」

「やめとけお嬢。ああいう奴はそんじょそこらの言葉じゃ何も響かない。痛みを気付いていないんだからな」

「え?」


 レオトラからの言葉に思わず反応してしまうユリ。だがすぐにランの事が心配になり追いかけて店を出ていった。


 店を出て少しし、ユリはランを見つけ出してすぐに彼の腕を掴んで足を止めさせた。腕を掴まれた途端に殴り掛かる勢いで睨みつけながら振り返って来たランだったが、ユリの顔を確認して拳を止めた。


「何だお前か」

「う、うん……」


 ユリは自分に迫った攻撃への恐怖でランの腕を放してしまい、気の抜けた返事をしてしまう。


「まあいい。お前も来たんなら帰るぞ。とりあえず腹は満たされた」


 手が離れた事でまた勝手に歩き出すランにユリは我に返って声をかけながら追いかけていった。この様子を誰かに見られているとも知らずに。


 二人の様子を見ていた人物は、耳に付けたインカムらしき機器に手を触れて何処かに報告する。


「報告、見つけました」

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