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0-3 ヒーローに見えない

 家屋のある草原を画すように覆っていた木々を抜けていき、少年は息が上がっても枝で切り傷がつこうとも構わずに走り続けていた。


 暴走状態の少年に対し、後ろから追い付こうとしている少女。時折身体がぬいぐるみになってはすぐに元に戻ったりと、何度も身長が高くなったり低くなったりする状況に本人が走りながら混乱していた。


(ああぁ! もうっ!! 何が起こってるのよ私!? さっきから勝手に身体がぬいぐるみになったりするし!! もう訳が分からないわよ!!)


 皮肉なことにそのおかげで前を進む少年よりかは怪我の量は少なく済んでいたが、代わりに変身による脚の長さの変化によって少年よりかなり歩幅が小さくなってしまう。


 木々の並びを抜けたときには何とか人の姿で安定した少女だったが、やはりかなり少年との距離が離れてしまった。


「ちょ!……待ちなさいよ……」


 息が上がりながら足を進める少女。一足先に町に出た少年が右左を見るも、脚で探した方がはやいとばかりにアテもないまま再び走り出した。


 少女はどうにか見失わないで追いかけているも、このままでは目視範囲から姿が見えなくなるかに思われたが、彼女の予想とは反対に徐々に少年との距離が詰められていった。

 近付いて詳細に見えてくる少年は重傷の傷を手当てしてすぐの状態で全速力で走ったのが災いしたらしく、疲れが抑えきれなくなったようで脚の動きがおぼつかなくなっていた。


「やっぱり、治ってすぐに走り出すから……」


 とはいえ彼女も少年が落ちてきたハプニングからここまでほとんど絶えず激しく動いていたため、少年同様疲労が身体に現れていた。


 最後は歩きの速度になりつつも少年の隣にまで追い付いた少女は、息切れしつつも彼に話しかけた。


「ちょっと……ホントに……ここまで……走って……疲れたわよ」

「お前……何で……ついてきて……」


 少年は彼女がここまでやって来たこと自体今ここで気が付いたようだ。彼の他人を余所において突っ走る姿勢に腹を立てた少女は、眉にしわを寄せて彼に怒鳴りつけた。


「何でって! アンタ、何処に何があるのかも知らないのにいきなり走るから追いかけたんじゃない!!

 それにアンタの身体! 私が怪我を治しただけで、疲れはそのままだから! そんなに走ったら、身体、壊れるわよ!!」

「別に治せなんて頼んでない。俺の身体が壊れようが知ったことじゃない。余計なことをするなら消えろ!! 俺は帰る!!」


 逆ギレとも取れる怒鳴り声を上げ、少年はまたすぐに走り出していった。関わってしまった手前放っておけない少女は、一度深呼吸をしてからついて行く。


「もう! 待ちなさいってば!!」


 それぞれ思惑は違うも必死になって走る二人。そのために自分達が今どこにいるのか、何処の道を通っているのかをあまり目に止めていなかった。

 その様子誰かに見られ、狙われていることも知らずに。


「おい、今のガキの服装見たか?」

「ああ、女の方は結構身なりのいい格好だったな。金持ちの嬢ちゃんじゃないか?」

「こ~んな危ないところに子供だけで来るなんて危ないな~」

「俺達が、ちゃんと保護してやらないとな」


 邪悪にニヤける男達は、走って行く二人に気付かれないように後をつけていった。


 その少しした後、より体力の減っていた少年に再び追い付いた少女が話しかけた。


「ちょっと! いい加減に、走るのやめてよ……」


 少年は苛立ちが露骨に見える表情になって少女の方に振り返る。


「こっちの台詞だ! お前いつまでついてくる気だよ!! 消えろって言っただろ!!」

「親切にしてやってる人にその態度は何!? 大怪我だったの治したのに、失礼な態度ばっかり!!」

「頼んでないって言ってるだろ! 俺は帰るんだ! 退け!!」


 感情にまかせてキツい言葉を浴びせる少年に、少女は圧に負けじと反論する。


「向こうに行ったって! 帰り道になる場所はないわ! それに、ゲートポートに到着したところで、詳しい場所が分かんなきゃ、移動なんて出来ないの!!

 宇宙中にある星々の中で、捜しているたった一つが簡単に見つかるわけないでしょ!!」


 少女のもっともな言い分に苦虫を噛み潰したような口になる少年。それでも彼は心配して腕を掴んで止めてくれている少女に対し、彼は無慈悲に彼女の腕を取り上げてを突き飛ばす。

 尻もちをついた少女を放置し、彼は激情に駆られるままにまた走り出した。


 少女はどこまで言っても全く人の話を聞かない少年から激しい怒りと共に焦りを感じ取った。


「何でそこまで帰ろうとして……」


 そこで少女の頭の中に、一度目に少年が起きたときに叫んでいた言葉が浮かんできた。


「『アカフク』っていうのと、何か関係があるのかな?」


 考え事をしながら尻餅をついた体勢からゆっくり立ち上がると、突然後ろから口元を手で抑えられる感覚に襲われた。


 一方の少年。詳しい場所も結局聞かないままにどうにかして自分が元いた世界に帰るために右往左往としていた。


「クソッ! 何処に行ったら帰れるんだ! 何処が何処だか分かりゃしない」


 完全に道に迷って脚を止め、右左、前後ろと自分が何処から来たのかすら分からなくなってしまう少年。

 冷静な考えもままならないままにただただ身体を酷使していた少年だったが、どの道を行くべきかと右へ左へ視線の向きを変えていたときに、ふとある光景を見かけた。


「あれは……」


 少年が目にしたのは、先程まで彼を追いかけていた少女がガーゼのようなもので口と鼻を塞がれて気を失い、大柄な男数人の手で細い路地の中に入っていく瞬間だった。


「アイツ、追いかけてる途中で捕まったのか? だからさっさと消えろって言ったのに」


 少年はここまで彼のために追いかけてきてくれた相手に対して辛辣な捨て台詞を吐き、彼女が連れて行かれた方向とは反対方向に身体を向けて走りかける。

 だがその視線はおもむろに下を向き、速度も遅い。彼の頭の中に、何か別のことが思い浮かんできたようだった。


 燃え盛る炎に囲まれた空間の中、顔の見えない誰かが少年に向かって何かを叫んでいる光景。助けを求められたと感じて少年は走り出すも、上から落ちてくる瓦礫に見えた光景は全て潰され、少年は吹き飛ばされてしまった。


 現実で我に返った少年は、走り出して速度を上げようとしていた脚を止まってしまった。


「……ああ! クソッ!!」


 少年は胸の奥で煮え切らない思いに引っ張られるように、後ろに振り返って連れて行かれた少女を追いかけていった。



_______________________



 一方の少女。目を覚ましてまず見えたのは、薄暗い部屋の壁と、その手前で楽しそうにしている四人の男達だった。


「あれ? 私……」


 男達は少女が目を覚ましていることに気付いていないようで、彼女を攫ってきたことに大喜びしているようだ。


「得したなあ。こんなところで金持ちの嬢ちゃんを連れ込めるなんて!!」

「親を問い詰めて電話でもするか?」

「仲間呼んで身ぐるみをはごうぜ!!」

「あの綺麗な身なりだ。色々持っていておかしくねえしな!!」


 獲物の肉を前にして食らいつきかける肉食獣にようにニヤける彼等に少女は恐怖からゾッとしてしまい、反射的にふと脚を揺らしてしまった。

 更に罰の悪いことに、動かした脚に砂利が当たって音が鳴り、男達に少女が目を覚ました事を気付かれてしまった。


「おっと、目が覚めていたのか」

「まあ良いじゃねえか。ジタバタするなら抵抗できないように多少痛めつけても構わないだろ」

「そうだなぁ。金持ち共への鬱憤晴らしにもなるしよ!!」


 男四人はその背丈を恐ろしく少女の目に映しながら近付いていく。少女は力の入らない身体でどうにか逃げ出そうとするが、とても間に合いそうにない。


「いや! 来ないで!!」


 恐怖に目を閉じてしまう少女に、一斉に男達が襲いかかろうとしたそのとき、部屋の奥にあったボロボロの扉が突然壊れて倒れて音を立てた。


「ん?」

「何だ?」


 男達が一斉に振り返ると、荒々しく肩に力を入れて域をする少年が現れた。少年はそのまま真正面から飛び出し、大人四人に立ち向かっていった。


「何だコイツ?」

「この女の連れだろう。ボコしちまえ!」


 指示を受けてハゲた男が一人先陣を切って殴りかかってきたが、少年は身をかがませてこれをかわし、懐に飛び込んで顔面を殴りつけた。


「ガアアアアアァァァァァァァァ!!!」


 暴れる獣のような雄叫びを上げながら殴りつける少年の拳。

 普通に考えれば大の大人がこの程度でやられるわけがないと高をくくっていた男達だったが、次の瞬間、突然少年の拳辺りから爆発が発生し、殴られた男は至近距離で衝撃を受けて気を失い倒れてしまった。


「ナニィ!!?」


 突然起こった訳の分からない現象に残りの夫子達が驚いていると、少年は隙だらけの別の男の股を蹴り上げ、激痛を与えた。

 痛みに膝を曲げる男に少年はさっきの爆発の影響か出血している右拳で彼の左頬を三度も殴りつけ、床に叩きつけて気絶させた。


「な、何なんだよこのガキ!? 化物か!!」

「ビビるな! たかがガキ一人。すぐに片付く!!」


 恐怖で失いかけた戦意を呼び戻したリーダー格の男の指示を受け、一人を撃退して隙が出来た少年を別の男が後ろから腕を回して羽交い締めに拘束した。

 いくら少年が暴れるとしても、大の大人に拘束されてしまえば格好の的になると考えていた彼等だったが、少年は一切躊躇することなく拘束している男の腕を食いちぎる気で噛み付いてきた。


「ガッ!!」


 痛みに力を緩める相手に少年はすかさず拘束を振り払うと、そのまま身体の流れに坂合うことなく動いて回し蹴りを相手の脇腹に当てた。

 するとまたしても突然少年が触れた箇所で爆発が発生し、相手を吹っ飛ばした。


 残り一人のリーダー格の男も三人がやられたことに再び恐怖が蘇ると、少年は前へ踏み込んで殴りかかった。

 しかし男は負けじと少年の首を右手で掴み、息を上げながらも身体を持ち上げた。


「よおし、これで今度こそ抵抗は出来ない。さっき噛み付いた分これでも喰らえ!!」


 男は勝ち誇った様子でさっきのお返しとばかりに後ろに引いた左拳で少年の顔面を殴りかかった。

 ところが少年は一度頭を後ろに引くと、向かってくる拳に合わせて頭突きを直撃させ、相手の指にもダメージを与えた。


「痛っ!!」


 予想外の抵抗に痛みと共に驚く男に対し、力が緩んだ一瞬の隙を突いて少年は首を掴んでいた腕にも攻撃をし、解放されて床に着地した。

 そのまま彼はすかさず拳を握り飛び出すと、怯んだ男の身体を何度も連続して殴りつけた。


「ガアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァ!!!!!」


 雄叫びを上げ、頭突きの衝撃で出血しながらも殴り続ける少年。男は既に気を失っていたが、少年がその事に気が付いたのは、彼が気を失って三十秒ほど経ってからだった。


 倒れる男の身体に目もくれず、少年は方の力を抜いて足を進め、奥にいた少女の元にまで近付いていった。


 少女は感謝よりも先に戦慄していた。

 たった今自分を助けてくれた少年の姿は、頭、手足から血を流し、目元も獰猛さの垣間見える睨みついた状態で止まっており、歩く姿はとてもヒーローのそれには見えなかった。

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