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0-2 突然ぬいぐるみ!?

 何故この少年は突然空から落ちてきたのか。何故重傷だったのか。何故突然服を見た途端に襲いかかってきたのか。


 せっかく苦労して始めた一人暮らしだったはずが、今目の前にいる少年のせいで一気に苦悩が増えてしまった。


「ゲホッ! ゲホッ! ハァ……何でこうなったのかしら。誰にも邪魔されない悠々自適な一人暮らしを楽しむつもりだったのに……」


 文句を言っても始まらない。少女はまず少年にのし掛かられている状況から脱出することが最優先と判断し、身体を揺らしてどうにか下敷きになっていた身体が、何故かいとも簡単に抜け出す事が出来た。

 動きがたまたま良い感じだったのか、少年の身体が軽かったからなのかは分からないが、とりあえず身体の自由がきいたことを良しとしよう。


 続いて少女がその場に普通の仕草で立ち上がったが、ここに来て彼女が違和感を感じた。感覚は立っているときのそれなのに、いつもより数段目線が低く見えたからだ。


(あれ? 何か小さいような……あれ!? 喋れない!?)


 喋れないというより、口が引っ付いて離れない感覚だ。自分の身に何が起こっているのか分からない彼女だったが、慌てながら両手に視界が向いたときに違和感の正体に気が付いた。

 彼女の目に映った自分のそれは人のものではなく、指が分かれていない手に白い毛並みに柔らかな感触。まるでぬいぐるみのそれと同じだ。


(何で、私一体……)


 更に身体の向きを変え、家屋に置いていた鏡に映った自分の全身を見る少女。

 しかし映っていたその姿は人間では無く、白い身体にウサギの耳のようなものを下に向かって垂らしており、元の姿と同じエメラルドグリーンの瞳をした、丁度抱きごごちのいい大きさのぬいぐるみだ。


(ぬいぐるみ!? これ私なの!!?)


 何でこうなってしまったのかも分からないが、とにかく元に戻らなければと必死な思いになった彼女。


(何が何だか分からないけど、とにかく元に戻らないと! 出もどうすれば元に戻るのかしら? とにかく、戻れ! 戻れ)戻れ戻れ!!!」


 などと何度も思っていたのが口から飛び出していたことに気が付いた少女。口が開いていたことにまさかともう一度鏡を見る彼女は、元の姿に戻っている自分の姿を見た。


「あれ? いつの間にか元に戻ってる。何だったのかしら? ああもう! さっきから何が起こっているのよ!!」


 少女が何度も自分の部屋の中で騒いでいると、音に反応した少年の身体がピクリと震えたのを見て騒いでいたのを抑えた。

 幸い少年が目覚めることはなかった為、少女はほっと一息ついた。


「危なかった……また首を絞められたくないし」


 少女は気を初なったままの少年から少し離れて警戒しつつ、視線を少年に向けたまま、彼が叫んでいた単語について考える。


「アカフクって何なのかしら?」


 『アカフク』。余り聞かないワードだ。大方彼女が今着ている赤い服のことを指しているのだろうが、それだけであんなに怒り狂うとはとても考えづらい。


「何が何であれ、とりあえずやることは一つね」


 少女は何かを思い立ってその場に立ち上がると、少年に歩いて近付いていった。



______________________



 数分後、気を失っていた少年が再び目を覚ました。一度覚醒したこともあってか先程とは違い意識はハッキリとしていた。


「俺は……ッン! 赤服!!」


 またしても赤服という謎の固有名詞を叫んで身体を起き上がらせようとする少年だったが、どういう訳か身体が自由に動かなかった。

 目線を下に向けると、自分の身体が肩から足下まで丸々縄で縛られていた。


「アァ!? 何だこれ!!?」

「……」


 縄をほどこうと暴れ出す少年の元に、少女が再び顔を見せた。少年は彼女の赤い服を見たが、今度は首を絞めるような真似はしなかった。しかし代わりに少年は何故か困惑した顔になっている。


「何て言った、お前……誰だ?」

(あれ? 通じてない。話す言語が違うのね)


 彼女としては普通に喋っているつもりなのだが、言語が違うのか通じていないようだった。彼としてはとっかかりは掴めていないようだが、彼女の方は彼が話している言語が何処の言葉なのか分かった。


(この子の話し方、もしかして日本語かしら? それなら確か挨拶は……)

「……こんにちは?」


 唐突に飛んできた挨拶の言葉。その上考えて出したような視線を上に向けた表情で言い出す少女に少年の顔がより歪んだ。


「あ? 何で唐突に挨拶?」

「よかった、これなら言葉が通じるみたいね」


 少女は自分が言った言葉が通じたことで、まずは会話が通じると一歩課程を進められたところで質問を飛ばそうとするが、さっきから少年は縄に縛られた身体でジタバタしているばかりだ。


「何だこの縄! 何で縛られてるんだ俺は!!?」

「何? さっきやったこと覚えてないの!?」


 少女は自分の首を絞められたことを少年が覚えていないことに怒りを覚えると、彼の方は今この状況にしたのが彼女だと察する。


「お前か! 俺を縛ったのは」

「また飛びつかれて首を絞められたくないもん。だから暴れないようにしたの。当然でしょ!」

「クッソ! ほどけ! 俺はこんな所にいる場合じゃないんだよ!!」

「こんな所って、アンタ空から落ちてきたのよ。ここが何処かなんて分かって……」

「空から? 何言ってんだおま……」


 少年が身体を揺らして一度外した少女の姿に再び視線を向けると、ついさっきまで人間がいたはずのそこに一つのぬいぐるみが見えた。


「ハッ!? ぬいぐるみ!!?」

(あれ!? また身体がぬいぐるみになってる!!)


 少女がどうにかして元に戻ろうと意識していると、その隙に少年は乱暴に動き続けて縛った縄を緩めて解放すると、身体をすぐに立ち上がらせて家屋の外に出て行った。


「ちょっ! 何処行くの! ……って、また喋れるように、戻ってる」


 自分の身体がどうなっているのか訳が分からない少女だが、それよりも目先の少年をどうにかしなければと彼を追いかけて家屋を飛び出した。


 少女は距離が離れた少年を必死で追いかけることになるだろうと予想していたが、現実は反対にすぐに加速していた脚にブレーキをかける羽目になった。

 家屋を出てすぐの広場で、少年は足を止めて呆然と立ち尽くしていたからだ。


「ん? アンタ……どうして止まって……」


 少年の左隣にまでやって来た少女がふと彼の横顔を見ると、その表情は困惑と驚きを重ねてどう変型すればいいのかが分からなくなっているように見えた。


「ここは……何処だ?」


 ある意味当然の台詞だろう。彼は自分が意識を失っている間にここにやって来たのだから。少女は誤魔化しもせず、正直に説明した。


「貴方がどの世界から来たのか知らないけど、ここは日本じゃないわ。惑星国家『ヒカリ』。その中でも私しか知らない秘密の場所よ」

「惑星国家!? 日本じゃない!? 何言ってんだ! 俺は……さっきまで町の中で……それで……」


 少年の台詞が途切れ途切れになっていく。何か思い出したくもないことを振り替えようとしているようだ。子供ながらにそんなことがよく分からないままに少女は説明を続ける。


「ここは、そのさっきまでいた世界とは、別の世界なの。こんなところに飛んできたのは初めて見たけど。それも、ガラスを割ったように空に穴が空くなんて、ビックリだわ」


 少女が最後に話した台詞を聞いて、少年の頭の中に一つ情景が浮かび上がった。彼が何者かと揉め事を起こし、その相手が発生させた穴の中に放り込まれた記憶を。


「そうだ……俺、アイツと戦って、変な穴が開いて……その中に落とされて、気を失って……」


 少年は訳が分からないながらも、頬を引っ張っても痛みを感じることもあり、目の前にある景色からも、自分が全く知らない場所にいることだけは事実として受け入れざるおえなかった。


「ここは、本当に日本じゃ……俺のいた世界じゃ、ないのか?」

「そう言ってるでしょ? アンタ、異世界間の移動は初めて?」


 少女のさも当然のように話す惑星間の移動という規模の大きな話。だが彼は否定をする間もなくすぐに少女の肩を掴んで鬼気迫る表情で聞いて来た。


「どうやったら戻れる!?」

「え?」

「どうやったら俺のいた場所に戻れるんだ!!」

「痛いっ!!」


 少女は強い力で肩を掴まれた痛みから顔をしかめてしまうも、少年は気にするどころか気が付いていない勢いでもう一度聞いた。


「どうするんだ! 教えろ!!」


 少女は更に強い力を受けて肩を潰される前に話さなければと、どうにか口を開いて知っている範囲で話した。


「後ろの森を抜けて! 町に出たら……ゲートポートがあるから、そこに行けばあるいは……」


 方法を聞いた途端、少年は放り投げるように少女から手を離すと、一目散に彼女が言う方向に向かって走り出した。

 放り投げられた勢いで転んでしまった少女は、痛めた肩をさすりながらも少年に言い忘れていた大切なことを伝えようとした。


「でも! ちゃんとした星の場所が分かってないと行けない……聞いてないわね。ちょっと! 待ちなさいよ!!」


 激情に任せて走って行く少年の小さくなる背中を見て、このまま放っておけない気がした少女は身体の節々の痛みを感じながらも立ち上がり、少年を追いかけて走り出した。

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