0-14 尋問
ランとスフェーのいざこざが拳で強引に解決しようとしかけたその時に二人の深い所にまで響き渡った威圧感。二人揃って時が止まったように固まった二人の元に現れた一人の男性。
この男性が今の事態を起こしていることを察したランだが、頭では思っていても体の動きが大幅に遅れてしまう。ようやくどうにか体を動かしこの場から逃げ出そうとしたときには、既に周辺を大人たちで囲まれてしまっていた。
「チッ……」
舌打ちをするランは往生際が悪く尚も隙間を縫って逃げ出そうとするが、意識より体の動きが遅れている間に男からの指示は入り、警備の隊員がランを取り押さえた。
「クソッ、放せっ! 放せぇ!!」
ジタバタと暴れて抵抗するランに男は歩いて近付くと、上から見下ろす形で話しかけてきた。
「君が私の娘を攫った城の侵入者か。こんな所で派手に暴れているとは、驚いたぞ」
押さえつけられながらもまたさっきの満ち満ちた目付きで話をしてくる相手を睨みつけるラン。その視線に男は一瞬何か思ったかのように表情が動いたが、先に解決することがあると視線を逸らし自身の息子であるスフェーに駆け寄った。
「スフェー、大事ないか?」
「も、申し訳ありません……父上……城の庭園をこんなにも汚してしまい……」
「庭園よりお前の方が大事だ。すぐ救護隊員を」
「はい、隊長」
指示を受けた隊員がスフェーをそっと抱えてこの場を去っていく中、ランは隊員が口にした単語に首をギリギリ男が見える位置にまで動かしてもう一度姿を見ながら驚いた。
「隊長!? てことはこいつらヘンテコ隊の隊長って事か!?」
「無礼者が! この方は我らが次警隊一番隊が隊長にして惑星国家ヒカリ次期国王、『ダイアモ ルド ユリアーヌ』様だ! 口を慎め!」
「毎度毎度いちいち上から……うるせえな!」
ランは自分を捕えていた隊員が感情を表に出して反応した隙を利用したのかしていないのか、力が緩んだ一瞬のタイミングにより暴れるタイミングがかみ合って拘束から逃れることに成功した。
「しまった!」
「よし! このまま逃げて……」
だがランの微かな勝利感は更に一瞬の後に自身の胸が再び地面に叩きつけられていたことによって文字通り押しつぶされてしまった。
何が起こったのか理解できないランに、自身のすぐ上から先程の男、ダイアモの声が聞こえてきた。
「逃がしはしないぞ。すまないがどういう経緯かは詳しく聞くとしても、君をそう自由を許せる立場にはできなくなってしまったのでな」
子供相手の優しい声ながらもしっかりとした力で拘束されるラン。再び必死に悶えて抵抗した。
「クソッ! 放せ!!」
「無理をするな。スフェーと格闘して既に疲れ切っているはずだ。暴れれば君の方こそただでは済まない」
「うるさい! 邪魔するならお前も殺す!!」
激情に駆られるままに叫び散らすラン。より力を入れて反撃に入ろうとする彼だったが、行動を起こす前にダイアモはランの首筋に軽く一撃を浴びせて気絶させ、小さな体を抱えた。
隊員の一人が心配そうにダイアモの元に近付きつつ声をかける。
「すみません、自分が手を放してしまったがために」
「構わない。子供のすばしっこさは中々捕まらないものだからな」
などと口にはしつつも、男はランの様子に正直驚いているところがあった。
ランの身体は無茶な脱獄に始まり城内を駆け回り、挙句スフェーとの喧嘩以上の小競り合いを起こした。既に身体は限界を迎えているはずだからだ。
(この少年。気を失うまで本当に少しも攻撃を止めようとしなかった。手元も体も血まみれ……まさか痛みを感じていないのか!?)
ダイアモはランの感覚のなさ、というより気付いてない思考に少し恐怖を覚えつつ気を失ったランの顔を見た。
さっきまで殺気立った厳つい表情をしていたとは思えない子供らしい眠り顔にダイアモは少し顔を曇らせつつ、自らの手でランの身体を運んでいった。
(この少年に何があったのかは分からない。だがこのままにしておけば、後に必ず危険な存在になる)
ダイアモの手によってランは二度目の連行されていき、城の庭園での子供二人の喧嘩の度を越えた争いは終了した。
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眠り続けるランの脳裏に浮かび上がる光景。霞む視線の先に映る火の海。その奥に映るは、どんな動物にもそぐわないシルエットと大きさをした得体のしれない生物。
その生物が雄叫びを上げた。どんな声をしているのかは分からない。だがこの光景を見ている人物はその対象を前に恐怖し叫ぶ。声は大きく響き、ランは目を覚ました。
「……ここは?」
起きて早々に体を動かそうとするランだったが、どういう訳か首回り以外身動き一つとれない。違和感のある感触にどうにか首を動かして状況を見ると、以前彼に付けられた手錠と同じ材質であろう拘束具でがんじがらめにされながら椅子に座らされていた。
「クソッ! 何だよこれ!? ここ何処だよ!!」
重々しい空気感が流れる室内。目の前にはランの席より少し高い位置に置かれた箇所に三人の男が横並びで座り、その前方を茶色い壇で敷きいられている。
子供のランには理解しにくかったが圧力が集中してかかるこの部屋は、俗にいう尋問部屋だった。
ランが早速相手側を睨みつけると、中心にいた人物が早速口を開いて話しかけてきた。
「少年、名前を」
「あ? 何だよいきなり上から! そんなことよりここは何処だって聞いて!!」
「口を慎みなさい!!」
ランの一方的な怒声は三人には響かず、よりハッキリとした叫びで黙らせてきた。
「私語は慎み、こちらの問いかけにのみ答えてもらう。出なければもう一度牢屋に入ってもらうぞ」
強めに告げられた台詞にランはジト目を向いて苛立ちを持ったまま仕方なく黙り込んだ。
「もう一度聞こう、君の名前は?」
「ラン……将星ラン」
「よろしい。では将星君。まずは我が国の姫君、『マリーナ ルド ユリアーヌ』様を誘拐した件について聞かせてもらおう。
まずは城にいるはずの姫様をどのようにして攫ったのかについて」
最初の質問。まずその内容の時点で真実とは大きく違うとは思いつつランは素直に答えた。
「まず俺はアイツを攫ってなんていねぇよ。倒れていたところを家出したアイツに拾われた。それだけだ」
「家出? 馬鹿な事を言うな! 姫が自らの意志で城を出たなどという情報はない!」
「だったら本人に直接聞け! 俺はアイツに助けられただけだ!!」
「もういい!」
都合が悪いからか強引に話を切った尋問官は、続いてつい先ほどランが起こした事件について言及する。
「続いて先程君が起こした暴行、及び誘拐未遂事件についてだ。君は牢屋から脱獄しその足で城に侵入、部屋にいた姫を攫おうとしたところを王子『スフェー ルド ユリアーヌ』と接触し彼に暴行を加えた。事実だな」
言われていることは確かに事実ではあるが、明らかにランを悪者に仕立て上げやすいように文章が組み立てられている。
ランは目の前の大人たちの勝手な都合を突き付けつ姿勢に嫌悪を感じつつもこれにも素直に答えるしかなかった。
「ユリ……お姫様とはもう一度お話したかった。あの場で話が出来そうになかったから移動した。すぐに別れて出るつもりだったのに、追っかけてきた王子と遭遇した」
「そして姫を連れ戻そうとした王子に襲い掛かり、重傷を負わせた。これは明らかな暴行罪だ!」
「先に殴り掛かって来たのは向こうだ!!」
「君が姫を誘拐しようとしたからだろう!!」
そう言われてしまえばぐうの音も出ない。ランは事情を知らなかったとはいえ、結果的にこの国の王女を誘拐しかけた事実があるのだ。
言葉に詰まり意見を言えなくなってしまったランに、尋問官達は責め立てる。
「将星ラン。君がした行動はこの国の、果ては最悪『次警隊』そのもの、それによって守られる大勢の生物を危機に陥れかけたのだ!!」
「ったくんな大げさな。高々人間一人の事で」
「君とあの二人では違うのだ!」
尋問官が吐いた返事の言葉にランの目が見開いた。
「俺と、アイツ等で違う……」
ランの脳裏に一つの光景がフラッシュバックする。彼が鉱石の世界に来る前の経験。逃げ出していく人達と、それを遠目に見ながら叫ぶ事しか出来なかった彼と周囲の人達。
記憶の流れを受け、ランは静かに口ずさむ。
「違う……違うって何だよ……高々生まれが違うってだけで差別か? ふざけるな……ふざけるなぁ!!!」
話を続けていく内に徐々に怒りがにじみ出し、声が荒く大きくなっていくラン。最後には激情に押された怒声となり、尋問官達を殺気立った目で睨みつけた。
「そうやって人を線引きして、差別して!! だから一方的な正義なんぞ振り回して暴力が震えるんだよ!!!」
自らに取り付けられた拘束具を激しく揺らして暴れ狂うラン。尋問官達は目の前にいる少年の子供とは思えないような怒りと激情に一瞬汗を流して恐怖を感じてしまう。
だがしかしランはしょせん相手は子供。拳を振るって出血しようにも全く動けない状況では何も出来ず、叫び散らすだけで攻撃は出来ない。
尋問官達はランが拘束を解けないことを改めて確認すると、流れた汗を引っ込めつつもはや議論の余地はないと決定づけた。
「もうよい! 将星ラン、君の判決はすでに決まっていた。だが万が一にも本当に、これまで怒って来た事が事故であれば情状酌量の余地があると判断して刑罰が軽くなったのだが、その必要は全くないようだ」
中央の尋問官は小槌を打ち付け、ランに対し高圧的な態度で発表しようとした。
「将星ラン。君を獄界……」
尋問官がランに対する刑罰を発表しかけたその時、突然部屋の出入り口が大きく響く音を鳴らし始めた。
「何だ!? 尋問の最中だぞ!?」
尋問官の文句に対して答えることはなくもう一度何かが強く突撃したショックが響き、扉は固定場所を外れて部屋の奥、尋問官のすぐ祖名を通り過ぎて壁に激突した。
「な、何が起こっている!!?」
驚きと困惑でランに睨まれたとき以上に汗を流す尋問官達。すると光の差し込む空間から足を張音で現れた人物は、尋問官達に目を向けて口を開いた。
「よお、坊主一人相手に随分と凝った事をするじゃねぇか」
「き、貴様!!」
「アンタは……」
部屋に現れたのは定食屋の店主、『レオトラ キルンテン』だった。




