表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

11/13

0-10 城への帰還

 空中を進むリムジン。広い車両の中では一緒に乗った隊員がユリの帰還に歓喜していた。


「本当にご無事でよかったです! 貴方様が不在の折、ご家族の皆様がとても心配なさっておりましたので!」

「本当に! 見つかってよかったです。」


 熱意を持ちながら語り掛ける部下達だが、聞いているユリの方はどうにもあまり好ましくないといったような顔をしている。


「心配って、大袈裟ね……毎度毎度過保護過ぎなのよ……だから嫌だったのに……」

「し! しかしそれは全て、貴方様の事を思っての事!」

「外の世界でどんな危険があるか! つい今だってあの男に暴行を受けかけていたではありませんか!!」

「それは! 私のせいで……」


 ユリは飛び出しかけた言葉を引っ込める。ここでランとの喧嘩の事情を話せば、彼の身体の状態について知られ、ランを危険な人物として認識されかねないと思ったからだ。


 ユリとしては独り暮らしをしたいさなかに強引な形で連れ戻されている現状に腹の立つ部分はあれど、もうここまで来てしまえば後は帰る他に道はない。

 ユリはモヤ付く内心を引っ込めて若干投げやり気味に社内で大きく手を広げて叫んだ。


「ああ! もう分かったわよ。帰ればいいんでしょ。ハァ……短い一人暮らしだったわね」


 ユリは諦めて家に帰る決心をすると、彼女のそばにいる部下達はほっとしたような様子でドライバーの隊員にハンドサインを送り、リムジンのスピードを上げさせた。


 一方、取り残された場所で未だ拘束状態にされていたラン。いい加減解放されるものだと高をくくっていたかれだったが、予想は外れて数分間経過してもまだ彼は解放されなかった。


「オイッ! いつになったら俺は放されるんだよ!!」


 我慢の限界になり叫び出すランに、隊員の一人が答えてきた。


「何を言っている? 貴様は逮捕だ」

「逮捕!?」


 今の今までの流れで何故自分が逮捕されなければならないのか。ランにはとても理解不能だった。


「何で俺が逮捕さえれないといけないんだよ!!」

「姫様の誘拐。及び公務執行妨害の罪だ! 大人しく掴まれ!!」

「んな無茶苦茶な……俺は何もやってない!! はやく開放しろ!!」


 ランの言い分など全く聞く耳を持ってもらえず、さっきのリムジンと同じ経路でサイバー間の溢れる車が降り立った。大方パトカーといったところだろう。

 ランは有無を言わさずパトカーの中に拘束されたまま放り込まれ、無理矢理連行されていった。


 二台の車が走り去ってすぐのタイミング。一人急いで走って来る足音が一つ。子供二人が心配になったのかわざわざ足を運んで来たレオトラだ。

 レオトラは現状を見て何となく事態を察したのか、苦い顔をしながら顔を爪で軽く搔いた。


「見つかっちまったか……ったく、世話のかかる坊主だ」


 レオトラはランに対してため息を吐きつつ、今いる場から移動した。



_______________________



 ユリを載せたこの世界のリムジンの速度は現代日本の自動車よりもはるかに速いようで、彼女がランに対しての申し訳ない気持ちに対して踏ん切りがつく時間も足りないままに目的地にたどり着いたようで、ゆっくり落下し着地した。


「到着いたしました。」

「そう……分かったわ」


 ユリはここまで来てしまっては湿っぽい顔をしているわけにもいかないと自身の両頬を両手で叩いて気合を入れると、ここでも隊員達に囲まれながらリムジンから降りた。


 ユリは車から降りた途端に嫌でも目に付く豪華な建造物を見上げ、今さっき入れた気合が萎んでいく思いになった。


 外観のいたるところが様々な宝石をはめ込んだかのように色とりどりに輝く、一見西洋風でありながらも同時に近未来的サイバー感を感じさせる巨大な城。ユリの実家『キーベルユリア城』である。


(数日離れていただけでも数段派手に見えるわね)


 ユリが頭の中で自分の家に対する野次を入れていると、先頭に立った護衛人の一人がこの場にいる全員の身長より大きな正門のすぐそばにあるタッチパネルを操作する。パスワードをはじめとするセキュリティを解錠すると、中にいる使用人の声が聞こえてきた。


「ご用件を」

「事前に伝えた()()がご帰還された」

「分かりました。門を開場いたします」


 通話が切れて数秒後、巨大な扉は独りでに動き、一団が余裕を持って入れる広さの入り口を開けた。

 ユリを中心として中に入っていく一団。途中ユリから質問が飛ばされると即座に返答もする。


「それで、私は今からどうするの? お爺様への謝罪からかしら?」

「いえ、その前に身だしなみを整えていただきたいかと」


 隊員達からすればこの世界そのものの姫君であるユリに庶民と同じ格好をさせているというだけでも末恐ろしい気持ちがあるのだろう。

 その上これから国王との謁見だ。礼儀はしっかりしておかなくては始まらない。


「分かったわ。すぐに身支度整えてくるって伝えといて」

「ハッ!」


 規律よく返事をして連絡に回る隊員を横目にユリは城に入り、体を洗ってから事前に準備をされていたのであろう黄色のロングドレスに着替える。ここしばらくフランクな服装でいた彼女にとって、サイズピッタリのドレスは少し窮屈に感じた。


 だがユリは凛々しい表情を作り、自分を逃がさないためか待ち構えていた隊員達に周りを囲まれながら廊下を歩くと、しばらくしてようやく謁見の間に到着した。

 隊員達が緊張を感じながら扉を開き、ユリは堂々とした態度で部屋に入る。


 部屋の中央奥には城の外観に負けない煌びやかに輝く玉座が用意され、その椅子に腰を載せる人物とその傍に立つ人物が彼女と目を合わせる。


 椅子に座っているのは老齢らしい長い髭を生やしつつも隊員達が姿を確認する前から蹴落とされるような独特な威圧を放つ銀色の髪の男性。


 そしてその男性のそばに立つ中年程の男性は、髭の立派さこそ国王に及ばないものの、金色の装飾がちりばめられた黒い正装を綺麗に纏い、全身から隙の無い綺麗な直立姿勢を取っている。


 一団が二人とある程度の距離にまで近づくと、周りの隊員達は当然一斉に跪き、代表してユリが目を閉じ頭を下げて丁寧な口調で挨拶をする。


「大変ご心配をおかけしました、お爺様、お父様。ただいま帰還いたしました」

「うむ……」


 ユリからお爺様と呼ばれた老齢の男性は一言だけ、音尾様と呼ばれた中年の男性は何も返事をせずにユリの挨拶を耳に入れる。

 ピリ付く空気が流れる中、老齢の男性はユリの周囲を囲んでいる隊員達に指示を出した。


「君達は下がりなさい。後はこっちで始末をつけよう」


 隊員達はすかさず部屋から出ていき、部屋の扉を閉める。指示されたからというのもあるが、自分の組織のトップ二人を相手に長時間緊張感をもって接したくなかった本音もあるのだろう。

 隊員達の何人かは謁見の間から離れた途端にようやく呼吸が出来たような思いになっていた。


 残されたユリ。彼女の祖父が椅子から降りると、一歩一歩重い足取りでユリに近付いて来る。


「マリーナ……」

「……」


 物々しい雰囲気を放つユリの祖父。マリーナと呼ばれたユリの間合いにまで近づき、次に瞬間両腕を物凄い速さで振るった。


 そして左腕でユリを抱きしめ、右手で頭を高速で撫で始めた。


「おおおぉぉぉぉ!! よく帰って来たよく帰って来た! よく帰って来た!!」


 あまりの摩擦に発火しそうな勢いのなでなでにユリの方は微妙な思いだった。


「ああ、止めて! そういうのいいから!!」

「何を言うか! 突然孫娘がいなくなって爺ちゃんどれだけ心配したと思っとる!! もう夜も眠れないでの!」

「だからってここまで手厚くしなくていいわよ! ていうかいい加減止めて!! なでなで止めて! 勢い強すぎて頭が燃えちゃう!!」


 ユリの必死のストップコールも届かず頭を撫で続ける祖父だったが、いつの間にか隣にいたユリの父に右腕を捕まえられてようやく止まった。


「お義父様、その辺で……」


 隣の人物からの真面目な台詞に一筋の冷や汗を流しながら物足りなさそうに手を引っ込めるユリの祖父。

 完全にさっきまでの緊張感がなくなってしまったが、ユリの父親は気を引き締めて彼女に厳しい目を向けた。


「今までどこに行っていた!! 勝手に城から抜けた挙句連絡も寄こさないとは!! 私達がどれだけ心配したことか……」

「うぅ……ごめんなさい」


 内心では納得しきれていないユリだったが、この場は自分が折れなければ収まらないだろうと判断しすぐに謝罪の言葉を口にする。

 父親の方は一度ため息をつくと、ユリが行方不明になっていた間の事について問いかける。


「報告は聞いている。城を出ている間一人の少年と一緒にいたらしいな」

「少年……そうだ、ランは!!」

「らん? その少年の名前か?」


 ユリは自分が車に乗せられるまで拘束されていたランの姿を思い出した。彼女の父が聞き返すとユリは頷いて肯定し、自分の事のとき以上に慌てた様子で聞いて来た。


「あの後! ランはどうなったの!!?」


 ユリの父はこれに一瞬表情が固まったように見えたが、すぐに再びユリの顔を見て答えた。


「ああ、その少年ならちゃんと送り返したそうだ。偶然とはいえ王族と関わってしまった手前大変だったそうだがな」

「そう……」


 ユリはこれを聞いて後ろを振り返り歩き始めた。


「部屋に戻ります。色々疲れたので休みます」

「そうか、ゆっくりしてくれ」


 去り際に言われた言葉に返事をすることなく謁見の間を去るユリ。扉から出る道中、彼女はほんの微かにだけ文句をこぼしていた。


「嘘つき……」


 部屋を出て見えるのは豪勢で煌びやか、何より人一人が通るにはスペースが広すぎる廊下。すぐに世話人らしき人物たちが彼女を取り囲み、話しかける。


「お疲れ様です、()()

「長い外出にとても空腹になられたでしょう。お食事の準備が済んでおります。ぜひ」

「いいわよ。もう食べてきたから!!」


 世話人から離れたい一心で足を動かす動きを速めるユリ。


「お待ちください姫様!!」

「マリーナ様!!」


 後ろから呼びかけられる彼女の名前。『マリーナ・ルド・ユリアーヌ』。この鉱石の世界を統括する『惑星国家ヒカリ』の姫であるユリの本名だ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ