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0-9 次警隊 一番隊

 食事の後から明らかに醸し出す雰囲気に影が出来、足運びがはやくなっているランにどうにかついて行くユリ。二人が人込みの中に入っても、そこから抜けても無言のまま同じ状況を続けていた。


 そこから更に少しして真後ろ至近距離にずっと張り付かれている状況に耐え兼ねたランは後ろを振り返ってユリに問い詰めた。


「あぁ! さっきから後ろに引っ付いて鬱陶しい! 何か言いたいんならさっさと言え!!」


 怒鳴りつけるランだが、対するユリは怒鳴り返すことはせずに俯いて聞いていた。ランもこれまでとは違う彼女の態度を逆に君が悪く感じ、溢れていた怒りが引っ込んでしまう。

 ユリはランが態度を収めて少ししてから口を開き、うじうじしたもどかしい口調ながら話し出した。


「その……痛くないの?」

「あ?」

「さっきの爆発よ! いやそれだけじゃないわ! この前だって、私を助けるときの事も……」


 一度遠回しに問いかけてもピンとこない反応をされたユリはむかっ腹が立ったようで、感情に押し流されるように思いのたけを吐き出した。


 吐き出すと同時に、ユリの瞳は流れかけた涙で潤んでしまう。彼女にとっては自分を助けるためにランに無茶をさせてしまったのではないかと悔やむ気持ちが強まっていた。

 だが一方のランはユリの心配などなんとも思っていないようで、鼻で笑いながら軽口を叩いてきた。


「なんだそのことか。それならさっきも言っただろ。俺は全然何ともない。むしろ、人じゃない力を手に入れたのなら最高だ! これでアイツらを」

「バカなこと言わないで!!」


 自分の手に入れた力に酔いしれるランの台詞をユリの叫びに近い声が途切れさせた。困惑するランにユリは再び彼の手を両手で優しく掴むと、心配の声を漏らした。


「あれはアンタの手足が本当に爆発しているんでしょ? 無事でいられるはずがない。たとえすぐに怪我が治ってしまってアンタ自身が気付いていなくても、痛みは絶対にあるはず」


 ユリは握ったランの右手を軽くさすって傷はないながらも何度も相手を攻撃し、ダメージを受けていたであろう想像がついて心が痛かった。


 献身的なユリだが、ランの方はユリがなぜそこまで自分に親身になって接してくれるのかが分からなかった。ただただ自分の手に触れている彼女の態度を鬱陶しく感じ、眉を下げて短く漏らす。


「もういいだろ。放せ」

「あぁ! ごめん……」


 ユリはランに指摘されて手を触られているのを不快に感じられたのではないかと思い、慌てて手を放す。ランは手を戻すとユリに対して距離を置くように声をかける。


「俺にいちいち関わるな。俺がどうなろうがお前にはお前には関係ない。俺は何も知らないやつに勝手に同情されるのが嫌いなんだ」

「ナッ!!」


 散々心配しているのにあんまりな言い分をするランにユリはカチンと来てしまい、さっきまでの少し暗くなった顔を湧き上がった怒りで赤くして怒鳴ろうとした。


「何よその言い方! アンタの事を思って優しくしてあげたのに!! ええそうよ同情よ! それが何? 私の同情がなければアンタ死んでたのよ!!」

「誰も頼んでない!! お前が勝手にしただけだろ!!」

「なんですって!! そんな言い方ないでしょ!!」


 軽い本音が出ただけの始まりだったが、口論になってしまえばそう中々収拾はつかない。理性の育ち切っていない子供の二人ならばなおさらだ。

 二人は流されるままにお互いにお互いの馬頭を言い合い、声が大きくなっていく。


「大体お前はわがままなんだよ! 何もできない癖に家出して! 結局今日だって誰かに頼ってるじゃねえか!!」

「一人暮らしって言ってるでしょ!! アンタこそ勝手に私の家に転がり込んできたくせに文句言わないで!!」

「あんなボロい場所なんてなくても俺は暮らせる!!」

「じゃあ出ていけばいいでしょ!! あそこはそもそも私だけの家なの! そうよ出ていきなさい!! そしてさっさと()()()()()にでも帰っちゃいなさいよ!!」


 口論の最中にユリが吐き出した台詞に一瞬ランの動きが止まった。だが彼は目線を下に下げて体を震えさせながらぶつぶつ小声をこぼす。


「家の家族も持っている奴が、()()()当然のように言いやがって……ふざけるなあぁ!!」


 ランは最後に叫びながらとうとうユリに拳を振るってしまう。しかしこの拳は彼女に当たるよりも前に後ろから飛んで来た何かに掴まれ、動きを止められてしまった。


「何だ!?」


 ランが自身の右腕を確認すると、ビームのような半透明の光の束が彼の右手首に纏わり付いて引っ張っていき、瞬く間に腰の後ろで彼の両手を手錠のように拘束してしまった。


「手錠!?」


 ランが何故いきなり自分が拘束されているのかが理解出来ないでいると、判断に悩んでいる合間にさっきまで人気(ひとけ)のなかった場所に十人近くの大人たちによって囲まれてしまった。


「何だこいつら!? どこから現れた!!?」

「ゲゲッ!……」


 彼等を見た途端に顔をしかめるユリ。ランは突然現れたこの人達に、この前や先程倒したチンピラの残党ではないかと思ったが、即座にそれは違うことが分かった。

 奴らであるのならばまず闇討ちしてくるだろうし、何より彼等の目はユリに対してはあまり向けておらず、逆にランに対しては警戒を全開にして睨みつけているように感じたからだ。


「お前ら何だ!? いきなりこんな事を」


 噛みつくように怒声を吐くランを無視し、汗を流しながら左右に視線を何度も変えるユリに二人程近付いて来る。

 ランがまたユリを攫う気なのではないかと彼等に攻撃を仕掛けようと足を飛び出させると、彼の背後にいたランより少し身長が高い男がすかさず動いてランの胴体を地面に付けて取り押さえてしまった。


「ラン!!」

「この! 放せてめぇ!!」


 ジタバタもがいてもランの身体は一向に動けない。チンピラの素人レベルの行為とは段違いだ。

 さっきまでの口喧嘩の雰囲気が一変してランに心配のかを向けるユリだが、ランは自分が動けないままに大人二人がユリを囲った事に睨みつける。


 だがランの予想に反し、なんと大人二人はユリに対して片膝立ちの体制をとって丁寧な口調で声をかけた。


「お迎えに上がりました。さあ、我らと共に帰りましょう」

「お迎えにって……こいつらお前の知り合いなのか? ガァ!!」


 ユリに聞きたくなったことを問いかけようとするランに押さえつけていた男が彼の頭を地面にぶつけて強制的に会話を止めさせた。


「無礼者が! 言葉を慎め!!」

「てめぇ……」


 地面に顔面から激突して鼻血を流してしまうラン。頬を地面に擦り付けられたままに自分を拘束する男を殺気立った目で睨みつけると、男は反省が足りないと感じたのかもう一度ランの頭頭を強引に引き上げてもう一度地面にぶつけようとする。

 しかし彼の暴行が再び行われる直前にユリが指示を出すように声を出した。


「待って!!」


 ユリの一声に機能を停止したロボットのようにピタリと動きを止めた男。ユリは続いて男に指示を飛ばした。


「乱暴しないで、その人を放して」

「……ハッ!」


 男は威勢のいい掛け声を出してランを拘束から放すと、ランはすぐさま立ち上がり様に真後ろの男に対して右足を上げて顔面に回し蹴りを浴びせた。

 ユリはランがやっていることに驚いて彼に思わず話しかけた。


「ちょっと! あんた何してんのよ!?」

「ムカついたから蹴った。人の顔面勝手にしばきやがって……ペッ!」


 ランは台詞を一度切ると地面に唾を吐き苛立ちをどうにか鎮めようとする。体制を整えたランはユリに近付けないながらに問い詰める。


「それでどういうことだ!? こいつらは!? 色々聞きたいことがあるんだが!」


 だがランが一歩ユリに近付こうと足を進ませると、つい今反射的に一団の一人を暴行をして来たランを危険と見たようで、今度は左右から二人の人物がランを羽交い絞めにして拘束した。


「ナッ! 放せ!! さっきから何なんだよ!!」

「大人しくしろ!」

「近付かせはしない!!」

「ちょっと! どっちも落ち着いて!!」


 ユリの声に、ランを拘束している二人を除いてまたしても警戒を強めていた一団の動きが止まる。


 ランはさっきからユリの態度が自分に対してのものよりも何処か大人びた様子になっていることにどうにも引っ掛かりを感じていると、今度はユリの方からランに近付こうと試みる。


「ごめんね。いきなり色々分かんないわよね。私が事情を」

「いけません!」

「貴方様は下がっていてください!」

「あぁ! ちょぉ!!」


 半ば強制的に後ろに下がらされたユリ。ランはまず一番に引っかかっている事について聞いてみることにした。


「このヘンテコ集団が。ユリ、いい加減教えろ! こいつらは何者だ!?」

「口を慎め無礼者!!」


 二人の会話は間に入った大人によってランはいわれのない完全に冤罪である事柄に思わず大きく口を広げて自分達の正体を明かした。


「我々はこの『鉱石の世界』、『惑星国家ヒカリ』を守護し、宇宙全土の平和を守る要として存在する選抜部隊! 『次警隊 一番隊』である!!

 この度はこのお方をお迎えに上がるためにここへ来た」

「じけいたい? なんだそれ」


 聞きなれない単語に顔をしかめるラン。少年の反応を見た彼等は驚いている様子だった。


「貴様知らないのか? 相当田舎の世界からやって来たものと見える」


 ランがしれっと言われた失礼な発言に苛立つと、ユリを囲む彼らの何人かが代わる代わる自分達の正体を説明をした。


「『多次元(たじげん)救護(きゅうご)警察(けいさつ)連合(れんごう)団体(だんたい)』、通称『次警隊(じけいたい)』。この宇宙にはびこる犯罪行為を防ぎ人々を守る組織である!

 そう、貴様のような者を捕えるための組織だ!!」


 隊員達の自己紹介が終わって数秒も経たない間に彼等のすぐそばに、現代日本で言うところのリムジンとも呼べるような大きさの自動車が空から降りてきた。車の下部にはタイヤがない代わりにホバー移動をするための推進装置が取りついている。

 さっきの自己紹介はこれが到着するまでの時間稼ぎの目的もあったのだろう。


 自動車の後部座席の扉は自動で開き、ユリが入るのを待ち構えているように見える。

 ユリはこれに乗ればもうランには会えないと思い、俯いた視線を一度上げてランの目を見る。


「ユリ!! オイ!!」


 ランの自分に向ける視線を受けたユリは心配をさせまいと優しい笑顔を取り繕い、彼女は最後の挨拶を告げた。本当は他にも伝えたいことがあったが、部下たちの様子から見ても手短にと言いたげに感じ、彼等に合わせる。


「最後がケンカになっちゃったけど、アンタとの二人暮らし楽しかったわ。それとこれ以上、無茶はしないでね」


 ランが返事をする間もなくユリは囲まれた隊員達の流れに押されて車の中に乗せられると、乗り切れない隊員達とランを残して車の扉は閉じ、隙もなくすぐさま発車した。

 ランはユリが乗った車がかなり小さくなるまで視線を向けていたが、車の速度は速くあっという間に認識しにくくなるまで遠くへと移動した。

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