表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こじらせヨメに花束をーWEB小説Ver.ー  作者: 赤羽かなえ
10章
30/131

2 このくらいの距離感が最高ねって何度も自分に言い聞かせたの

母と子だから、へその緒が切れてもずっとつながっているって信じてたの。


そうつぶやいて再び箸を動かし始めたヤマシタさんは、ミキが畏縮してしまうような強気さのある彼女ではなかった。


「でも、一人になったら、気が楽だった。薄情なものよね。仕事にも打ち込めるし、時々は息子も遊びに来てくれるしね。もしかすると、あの子は私の思考が読めたのかもしれない。でも、このくらいの距離感が最高ねって何度も自分に言い聞かせたの」


でもね……。


ヤマシタさんは再び箸をおき、ミキを見た。


「いくら大変だって、疲れたって、自分の子が近くにいてくれるっていうのはあたり前のことなの。時々一人になりたい、逃げたいって思うこともあったけど、子どもがそばにいないという選択肢がなかったのよ」


家を出てしばらくは、ふとした時に呼びかけちゃうことがあったのよ、誰もいないのに。その時の私の気持ち、ミキさんには想像できないわね。


ヤマシタさんは空になった弁当箱に蓋をした。そして、お茶のペットボトルの蓋を閉めると立ち上がった。


「ごめんなさい、もう仕事に戻らなきゃ。誘っておいて申し訳ないんだけど、食べ終わったらお弁当箱は受付の横に置いてくれたら業者が回収に来るから。そうそう。美里さんがね、ミキさんなかなか家に顔出してくれないって言っていたの」


私に何かしてほしいって言っていたわけじゃないのよ、そういう人じゃないのはわかっているでしょう? ただ、私が美里さんの気持ちがわかってしまうだけ。


会議室の重い扉が開いて閉じるまで、ミキはヤマシタさんの背中を目で追いかけた。


ピンと伸びた背筋がいつもよりも小さく感じられた。


弁当箱を片付け、廊下に出ると、入れ替えた花の中にタンチョウアリウムがあった。赤く色づいた小さなネギ坊主のような花をヤマシタさんはよく選んでいるなとミキは気づいた。


「深い悲しみ……か」スマホを操って花言葉を見つけ、ミキはため息をついた。ヤマシタさんはタンチョウアリウムに自分を重ねているのだろうか。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ