2 別にアリじゃない???
「この間ね、友達に『ミキはダンナが外で済ませてくるの、アリ? ナシ?』って聞かれたの、済ませてくるっていうのは、その……性欲の処理の話……ね」
ベッドで本を読んでいた悠介が顔を上げてミキをじっと見る。そのあと、次第にニヤニヤと目じりを下げて少しからかうような表情になった。ミキはそんな悠介を見て口をへの字に曲げる。
「え、それ、ミキはなんて答えたの?」
「別にアリじゃない? って答えたわよ」
そう言った後で、ミキは頬を膨らませた。悠介は咳ばらいをして本をテーブルの上に置くと、ミキのほうに身体を向けた。
「アリ、なの?」
ますますニヤニヤする悠介に、ミキは拗ねた顔になる。
「外で済ませたいの……?」
上目遣いでつぶやくミキを悠介はゆっくりと抱きしめる。
「強がるミキもかわいいけど、俺は、ナシって言ってくれた方が、嬉しいよ」
ナシって言ったけど、今更訂正するのも恥ずかしくて、ミキはうつむいた。悠介は、そんなミキの頭を軽くなでると、笑った口元を締めた。
「そのお友達、ダンナさんとちゃんと話せていないのかもしれないね」
「うん、そうっぽかった」
「関係を修復したいなら早めに手を打った方がいいよ。子どもとかがいると割り切って、仮面夫婦でいいやと考える人もいるのかもしれないけど。ひとつひとつ事件とは飛べない些末なことの積み重ねでそうなっちゃうものだから」
「経験者は語るって感じだね。悠ちゃんも前の奥さんとはそうだったの?」
「それ、本当に聞きたい?」
パジャマのボタンを触りながら、ミキは少し考えた。電球色の明かりの下のせいか、悠介の顔が少し曇って見えた。ミキは目を瞑って深呼吸をする。悠介がこちらを見ているのはわかったけれど、目は合わせられなかった。
「私がやきもち焼かない程度に手加減してくれるなら、聞きたい」
悠介は吹き出す。うちのカミさんはわがままだなあと笑った後で続ける。
「ミキには隠し事はなるべくしたくないから話すよ。今までに話したことと重なることがあるかもしれないし、あくまでも俺の目線だからフェアではないと思う」
ミキが悠介の前妻に会う可能性は限りなく低いし、万が一会ったとしてもそんな話をするチャンスなんてあり得ないはず。でも、ミキはその悠介の誠実さを好きなのだ。
悠介は小指を差し出した。
「ミキが嫌だと思ったらすぐに言って。悲しい思いをしたり、傷つけたくないから」
悠介を見ていると、なんでこの人がバツイチなのか、不思議だなと思いながら、ミキは小指を差し出した。
「わかった、約束する。やめてほしかったらちゃんと言う」
2人は小指を絡めると、ゆびきりげんまん、と言った。ミキが指を離そうとすると、悠介はニヤニヤと笑いながら、小指を絡めたまま話し始めた。