3 2人だけでやれるか試してみようと思って
ハナエの居場所が分かったのは、それからさらに1週間後、すっかり風が爽やかになって気持ちのよい日差しを感じながら店に向かって歩いているときだった。
『しばらく連絡できてなくてごめん、康史ってミキのところに来た?』
そんなメッセージが来た時に、スマホを持つ手が震えた。メッセージアプリがいつの間にかすべて既読に変わっている。すぐに電話をかけようと思ったのに、どうやっていいのかが一瞬わからなくなるくらいに慌てていた。
メッセージアプリの電話マークを押せばすぐに電話できるのに、人って焦ると全部が飛ぶんだな……。画面の受話待ちのアニメーションがなんだか意地悪に見えてついにらみつけた。しばらくすると、通話の表示がでて、「もしもし?」と小さな声が機械の向こう側から聞こえた。ミキはスマホごと抱きしめたいような衝動に駆られたけれど、画面を耳につけた。
「元気にやってるの? 体調は? 大丈夫なの? 今どこにいるの?」
聞きたいことは沢山あった。電話の向こうのハナエは照れくさそうに笑う。
『やだ、ミキ、質問が多すぎてどこから答えたらいいのかわからないじゃん』
思いのほかハナエの声には張りがあった。
「もう、心配したよ。康史くんもめっちゃ心配してたよ」
ハナエは今、会社の近くにウィークリーマンションを借りてそこに住んでいるらしい。娘の美羽は保育園を休ませて、会社の近くの一時預かりの託児所に預かってもらっているという。いつも通り簡潔で的確にしてくれたので、ミキはすぐに状況を把握することができた。でも、どうして……という言葉がどうしても出せなくて、なんと返そうかと迷っていると。ハナエが小さな声でぽつりと言う。
『2人だけでやれるのかというのをちょっと試してみようと思って』
静かに語るハナエの声に、康史が入る隙があるのだろうか。ミキは少し心配になった。
連絡が来た晩、仕事を終えた康史とキョウコが『フローリストM』に集まった。
「ハナエは“二人でやれるのか”と言っていたけど、それはやっぱり、ハナエと美羽と二人でってことだよね」
キョウコがそこまで言ってからハッと康史を見る。さすがに気遣いが足りなかったと思ったらしい。でも康史は緊張した面持ちで白く分厚い塊を取り出した。三つ折りにしているけど、枚数が多いので手を離すとすぐに開いてしまいそうだ。
「俺、ハナエに手紙書いてみたんです。読んでみてもらえませんか?」