3 母との再会
タクシーで市民病院まで行き、自動ドアをくぐった時、ミキは闇雲にやって来たことを後悔した。
「俺も焦ってたんだな。冷静に考えたら、来たところで平日の総合病院じゃ、どこにいるかも見当つかないって分かるはずなのに」
悠介は、ミキの手を取って苦笑いしながらつぶやいた。ハナエが母を見かけたという市民病院は、平日の午前中は人でごった返していた。硬いガラスの向こうにいる事務のスタッフもあわただしく動き回っている。
「とりあえず博之さんに電話をしてみるよ」
悠介がエントランスの外に引き返すのを見送って、壁にある院内フロアマップを見上げた。
——お母さん、調子、悪いんだろうか。
『美里さんは生きてるんだから。これから軌道修正が利くんだから』
ヒロコさんの言葉と共に胸の底から後悔がせり上がってきた。持ってきたカランコエの鉢植えをぎゅっと抱きしめる。その時、目の前を博之が通り過ぎた。
「博之さん!」
声をかけると、彼は、驚いたような顔を見せた。
「ミキさん、どうしてここがわかったの?」
「友達がお母さんをここで見かけたって言ってたから……」
きょろきょろと目を泳がせたあと、ミキを見た彼の表情は落ち着いていた。
「美里さんに会いに行きますか? この間話していた病状が悪くなっているわけではないので心配しないでください。……その、過労気味だって」
「……過労?! お母さん、何してるの?」
「すみません、完全に僕のミスです」
博之は申し訳なさそうに頭をかいた。ミキは首を左右に振った。結局、母の振り回す相手がミキから博之に移っただけなのだろう。外に電話しに行った悠介も戻り、ミキと悠介は博之の後ろについていった。
病院のエレベーターってもどかしいくらいに遅い。
気持ちと乗せられた箱が動いていく速度のギャップが気持ち悪くなってその場で足踏みする。
各階にとまりながら、4階につくと博之が「開」のボタンを押したままミキと悠介に降りるよう手で促した。丸みを帯びたフォントで産婦人科、と壁に書いてある。目の前のスタッフステーションは大きなガラス窓張りになっていて、小さな透明の箱が乗ったワゴンがいくつか置いてあった。
「夕方くらいになると赤ちゃんがここに沢山集まってにぎやかに泣いていたりするんですが、今はお母さんと一緒なのかもしれませんね。実は、最初にここに来た時に違和感がありすぎて居づらかったです」
若く見えると言っても博之はさすがに新米パパという年齢ではない。ただ、すでにその違和感が認識されているのだろう。すれ違う看護師ににこやかに会釈されている。3人は廊下の奥まで進み、411という部屋の前で止まった。博之はゆっくりと扉をノックして開いた。