瑠璃と鈴菜
「土と火…鈴菜の属性だ…」
口に出す気はなかったのに、その言葉は、いつのまにか口に出ていた。
「瑠璃…とりあえず、塔に向かうぞ。消火しながらな。お前、水属性持ってるだろ?」
「分かった…」
カノンのおかげで、やることはできた。
機械的に消火をしながら、鈴菜のいる塔に向かう。
「なんで、こんなことに…?」
「さあ、俺にもわからない。多分…いや、なんでもない」
話す間にも、水を出して、消火する。
蔦を出して、瓦礫をどけ、道を作る。
機械的に、淡々と、作業を繰り返す。
そうしている間に、塔の前に着いた。
「カノン…」
「わかってる。ここから先は…」
「カノン、行こう」
決めた。もう逃げない。
扉には鍵が掛かっていなくて、押したら簡単に開いた。
螺旋階段を登る。
壁には、私たちの思い出の写真が…
きっと、飾ってあったのだろう。
切り刻まれて、破られて、焦げているから、全体像を知ることはもうできない。
何分間、歩いたのだろうか。
数秒のようにも数時間のようにも思える。
そこに、扉があった。
「…開けるよ」
「おう」
私は静かに扉を開ける。
鈴菜は、窓の外を見ていた。
「鈴菜…」
刹那、炎の刃が飛んでくる。
すぐさま水で盾を作り、消火。息つく暇もなく、石の粒が飛んでくる。
木の盾で身を守る。
「瑠璃っ」
焦ったカノンの声。
「わかってる」
盾に火がついたのを確認するかしないかのうちに、家具ごと炎を洗い流す。
鈴菜の表情が歪む。
嗤っているのか、泣いているのかを確認しないうちに、視界を奪われる。
多分、砂埃。
一歩後ろに飛んで、洗い流す。
「鈴菜!聞いて!」
「だめだ、声は届かない」
炎。水。岩石。木刀で砕く。
「じゃあ、どうすれば!」
「俺様がいるだろう?音の属性の使い魔、カノン様だぞ」
その瞬間、流れてきたメロディー。
小さい頃、私がよく聞いてた曲。
パッヘルベルのカノン。
カノンの、名前の由来になった曲。
「俺が、お前の声を届けてやるよ」
カノンが、そう言った瞬間に、光が溢れてきた。
それは不思議と眩しくなく、優しかった。
でもそれは、刹那。
炎を纏った石の弾丸が飛んでくる。
「カノンっ」
まずい。ここからカノンまで、かなり距離がある。
間に合わない。
祈るような思いで、木の盾を飛ばす。
「瑠璃」
カノンは信じてくれてる。盾の後ろにカノンが飛び込む。少し遅れて、盾に着いた火を消す。
『鈴菜、聞いて!』
叫んだ私の声に、エコーがかかったような、ノイズがかかったような、そんな音が混じる。でも、その音は、嫌な感じじゃなかった。例えるなら、自然界の音。そんな音が、私の声に混じる。
『私のことを信じられないのは分かってる』
『でも、最後まで聞いてほしい、この言葉だけは!』
私がそう叫んだ瞬間に、鈴菜をが纏っていた炎の壁が少し薄くなった。
その瞬間を逃さず、鈴菜に声を届ける。
『私は鈴菜を傷つけるつもりはなかった』
『そんなこと、信じられないかもしれないけど』
『もしも、私が鈴菜を無意識に傷つけていたら、それは謝る』
『それで、どんなことに、どう傷ついたか教えて欲しい』
『私はそれを直して、鈴菜ともう一度、友達に戻りたいから』
『鈴菜と、一緒にいたい。話をしたい。笑い合いたい』
『だから、鈴菜ともう一度、話をしたい。友達に、戻りたい』
『だから、鈴菜ともう一度、話をしたい。友達に、戻りたい』
知ってた。ずっと前から。アビーとカノンが教えてくれたから。
瑠璃のことは、きっと、誰よりも知ってる。
だから、アビーとカノンが教えてくれる前から、分かっていた。
瑠璃は、あんなことを言う子じゃない。
裏掲示板も確認した。スクショも手元にある。
でも、素直になれなかった。
最初に話を聞いた時、瑠璃を疑った自分がいる。
今、手元では炎と水が拮抗している。背後には窓がある。
力を抜けば、流されて外に落ちるだろう。
「ごめんね、瑠璃」
力を抜く。浮遊感。落ちていく感覚……
「ごめんね、瑠璃」
鈴菜の声が聞こえると同時に、一瞬にして炎が引く。
「鈴菜っ」
私は最速で水を吸い上げる。
…が、鈴菜は窓の外に落ちていくところだった。
「カノン…」
「カノン…」
あいつが俺の方を向く。縋るような目。
でも、どうにもできない。俺の魔法じゃ、あいつを助けることはできない。
できることなら、俺の存在を投げ打ってでも助けたい。
何のために、俺がこんな事をしたと。
俺じゃ…いや、あいつなら。
小さな体から出せる、最大の音量で叫ぶ。
「アビーーーーー!!」
「アビーーーーー!!」
その声を聞いた時には、ボクは塔の下にいた。
カノンの魔法だ。
何故?もちろん分かってる。
ボクにしかできないこと。風の魔法を使えるボクにしか。
「すずっ!」
落ちてきたすずを優しく受け止める。
塔から落ちてきた鈴菜は、アビーの魔法で受け止められた。
1拍遅れて、瑠璃とカノンが降りてくる。
「鈴菜…」
安堵したような瑠璃の声。
「アビー、お前を信じてた」
「カノン、ボクにしかできないことだから」
届けたかった言葉は、カノンが届けてくれた。
次は鈴菜が返す番だ。
「瑠璃、ごめんね」
鈴菜の瞳から、大粒の涙が零れ落ちる。
「分かってたのに、私…」
その場に座り込んで、泣き出してしまった鈴菜を、瑠璃は優しく抱きしめる。
「大丈夫。分かってる、鈴菜のことは」
「瑠璃っ!」
「鈴菜、大好き。これからも一緒にいよ?」
「あー、感動的なシーンの所、水を差すようで悪いんだが…」
遠慮がちにカノンが2人に呼びかける。
「そろそろ帰らなくていいのか?」
「ああ…」
「そうだね、ボクたちにも限界ってのがあるし」
「限界?」
瑠璃が不思議そうに首を傾げる。
「あ、いや、何でもない」
少し慌てた様子でカノンが言う。
「瑠璃、帰ろ?」
城の中央の大広間、その扉の前に2人で立つ。
ここに来れて、本当に良かった。
「じゃあ、分かってるな?」
カノンの言葉に頷く。
黒竜の血の杖を掲げて、鈴菜と声を合わせる。
「書き直し!」
「私と鈴菜が」「私と瑠璃が」
「ずっと友達でいられますように!」
「カノンとアビー、」
「この世界とはもうお別れだけど、」
「「ずっと、忘れないよ!」」
「「ありがとう!」」
その瞬間、視界が白く染まった。
目を覚ますと、自分の部屋の/病室のベットの上だった。
ここはもう、夢も世界ではない。
魔法も使えない。
でも、向こうで知れたことがあった。
瑠璃/鈴菜と仲直りをできた。
きっと、
これからも、
私たちは、最高の友達だ。




