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おしらさま  作者: Riddle
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モノローグ:村の風習

「和睦の使者」の息抜きで書きました。

 ────白い服を着てはいけないよ。

 

 ────白は神様の色だからね。


 ────白い糸は、切ってはいけないよ。


 ────その糸は、命綱だからね。


 私の物心がついた頃には、祖母は口癖のように言っていた。


 ☆☆☆


 私が生まれた絹峰村(きぬみねむら)には、とある伝承が古くから存在した。

 

 白い服を着た者は、神と間違われて”御白様(おしらさま)”と暮らすようになる……と。


 だから、祝い事があったとしても、”白”は使われない。純白のウェディングドレスなど、あってはならない。村の女性は婚礼で青紫色の着物姿を披露するのが習わしだった。


 もちろん、当時の私には理解できなかった。ブラウン管のテレビに映る花嫁衣装を見て、「私も着てみたいなぁ」と思っていたくらいだ。


 私は、両親と祖母の三人と暮らしていた。父は、この村出身で、都会から母が嫁いできたのだ。両親は共働きだったので、父は村役場で、母は、片道数時間をかけて、村の外の市街地の百貨店で働いていた。


 そんな母を祖母は毛嫌いしていた。村の風習なんて知らない母は、私に街で買った白い衣服を着せようとして祖母と喧嘩していたのを今でも覚えている。


 ☆☆☆


 小学校一年生の頃、白のワンピースと麦わら帽子姿で外出したことがある。母が隠れて買ってきたものだ。


 八月の特に暑かった日だったのを覚えている。


 当時の私は、大人から押し付けられたルールを破ったことが誇らしく思えて、水田横のあぜ道を進む度に優越感を覚えた。


 ふと、水田を見ると稲作に勤しむ男が、恐怖に怯えた顔で私を見ていた。


 ぬかるむ水田を大急ぎで駆け、私の前まで近づいた男は、


 怯えながらも、


「なんて……美しいんだ」


 と、声を漏らしていた。


 私の優越感が最高潮に達したかと思うと、次に飛んできたのは怒号だった。


 後には顔を赤くした祖母が枝切りハサミを持って立っていた。その場で服を切られ、私は泣いた。せっかく母が買ってくれたものを壊され、理由も分からず怒られ、不満が涙と声になって体の外に出て行った。


 家に帰ると、祖母は言った。


 ────白い服を着てはいけないよ。

 

 ────白は神様の色だからね。


 ────白い糸は、切ってはいけないよ。


 ────その糸は、命綱だからね。


 何度も、何度も。呪文のように繰り返していた。


 それから十年が経ち、


 十六歳の頃、高校進学をきっかけに、私と母は村から逃げるように上京した。


 祖母は納得していなかったが、私の成長のためと父は別居を許してくれた。

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