76話目 感覚
「そう言えばお姉ちゃん……動画見た?」
「動画? 何の?」
今日は久しぶりにお姉ちゃんと草むしり。
私はいつも通りの完全防備の万全な格好だ。
蚊1匹たりとも私の肌は刺させはしないよ。
虫よけスプレーもプシュプシュシュッシュとたっぷりと振りかけてきた。
ブチブチと草をむしりゴミ袋に入れていく。
もうすでに花壇は下級回復用の草花達でいっぱいだ。
だけれども種はいくらあっても良いよねと毟った草たちを適応し雑草に変え分解し種に変えて在庫にしている。
これでいつでも必要な草の種に変えられる。
……誤って捨てない様に気を付けねばなるまいが。
「んーっとね、この間五十嵐さんに動画配信者に気を付けろって言われたでしょ。 それで炎上系配信者を検索したの」
「ほーなんか出た?」
姉はさして興味無さそうにブチブチ雑草を抜いている。
根っこがちょっと残るむしり方だ。
何度も抜きに来るなら根っこを残しておいた方が良いのか?
その方が早く採取しに来れる? もしかして。
「お姉ちゃんの動画もあったよ」
「本当に?!」
興味無さそうな表情から一転して、姉は表情を固くし心底嫌そうな顔をした。
「本当に。 詳しくは検索してみてね、それで私も出てたの」
「優奈も?」
「うん、草むしり中のやつだった」
「……草むしり中?」
「そう、草むしり中」
「なんで?」
姉も私ほどではないが虫よけや草に対してかなりガードの高い恰好をしている。
決して配信向きではない。
作業も地味だ。
「知らないよー!! 私完全防備のこの格好全世界に配信されてたの!! 草むしり動画で草生やされてたの!!」
「おーおーそれはそれは引っこ抜いたれ」
「どうやってさ」
刈れるもんなら刈り取ってやりたいよーもう!!
「……って事はそこら辺に居る人たちは配信者のお仲間って事か?」
「……お仲間?」
そう言いながら周囲をぐるりと見渡す姉。
私はその言葉を聞き流すことは出来なかった。
お仲間って何さ。
「……優奈気づいて話を振ったわけじゃないの? あちらさん達動揺を隠しきれないみたいよ?」
「え?」
話題提供で話した話が現在進行形だった?
知らないよ気づいてなかったよ。
「はい、耳を澄ませて。 優奈の身体能力なら聞こえるはずだよ」
言われたとおりに耳を澄ませてみる。
姉との会話やぼんやりしていた意識を耳に集中する。
するといつも聞こえていた音がどんどん大きくなっていく。
「……お姉ちゃん……酔いそう。 気持ち悪い」
「え? ぇえ?! なんで!!」
音が大きくなるだけではなく、耳で音を吸うような感じになり様々な音が聞こえてきた。
元から姉の声には集中していたからか、姉の声は雑多な音の中でもクリアに聞こえた。
「うぇーっぷ」
ヤバいよ。 吐き気が……吐き気が……乙女の恥が……。
「ちょっと!! 優奈大丈夫?!」
「だいじょばないー。 ぐるぐる回るー地球は回るよー」
耳を澄ませてみたら声……というか音を色々拾い過ぎて処理しきれずに気持ち悪くなった。
うるさいうるさいうるさーい!!
ぐわんぐわんと頭が揺れる。
「音をぼんやり逃がして……駄目だ。 家に帰ろう、優奈抱えるよ? 草付いちゃうけどごめんね」
今まで出来ていたことを考えてぼんやりしようとするが、音たちが主張し過ぎてうるさい。
……あ、でも少しましになったかも……。
「もーまんたいー」
「……意外と余裕ありそうね。 なら揺れるけど急いで帰る……よっと。 はい優奈袋抱えて」
「はー……い」
姉は私を抱えると雑草入りの草を私の手に掴ませた。
私はそれを引っ張りお腹の上に乗せて落とさない様に抱えた。




