その7
あれから時は流れて二〇二〇年。三國は中学三年生でサッカー部の主将、キャプテンになっていた。その年の六月中旬のとある日の事。午後八時に練習が終わって、最後のミーティングの時、サッカー部全員の前で当時サッカー部の顧問であった、岸が突然この話を告げた。それを聞いて全員が、特に三年生たちが大いに驚いた。
三年生全員「・・・ええっ!!?大会中止!!?」
岸「・・・ああ、そうだ。・・・やっぱりコロナの影響でな。」
当然岸は申し訳ない、残念な表情で答えた。
長野「・・・ちょっ、ちょっと待って下さい!延期って事じゃなくて・・・?」
この時から長野は直情型で、誰より先に顧問に物申した。
岸「・・・残念だが、それもない。」
岸の表情は全く変わらなかった。
三年生各人「何だよそれ・・・。」「最後の試合が・・・。」
「試合もせずに終わるのかよ・・・。」
三年生それぞれがそんな事を口に出している時、岸は厳しい表情でこう述べた。
岸「・・・とにかくだ。嘘じゃなくて本当に、大会中止の発表があったんだ。本当に三年生たち
には気の毒だが、でもまだ先がある。高校生になった時、その時にはもうコロナは収束して
いるだろうから、この中学でやり残した思いを、高校で発散して欲しい!高校でもサッカー
部に入って、この時の気持ちをぶつけてくれ!・・・今俺が言えるのは、これくらいしか
ない。・・・本当にすまない。」
そう言って岸は深く頭を下げた。こんな光景は部員誰しも見た事がなかった。
三國「・・・じゃあ、俺たちはこのまま・・・。」
長野「このまま引退ですか!?」
三國が主将らしく質問しようとした時、突然長野が三國の言葉を奪って、顧問に質問した。これには三國も、違う意味で戸惑った。
岸「・・・ま、まぁ、・・・そうなる、・・・だろうな。」
岸は神妙な表情で伝えた。三年生たちはみな言葉を失っていた。
岸「・・・取り合えず今日はこれで解散だ。・・・三年間、よく頑張ったぞ。」
どんな表現をしても、どう言い方を変えても、さほど効果はないと岸はわかっていた。それでも三國たち三年生たちには、その頑張りと感謝を伝えたかったので、岸は口角を上げて優しく言った。
三國「・・・はい、・・・ありがとうございました。」
そう言って、主将として三國も感謝を伝えた。
岸「・・・うん、まぁ、・・・まだ六月だ。本来の引退は七月だろう?それまでは全然、
部員として活動しても良いからな。次の、高校でのステージじゃ、引き続き今の練習も、
繋がりとしては必要だろ?だからそう考えている者に対してはウェルカムだ。」
そして岸はこの場を立ち去った。今まで通りで全く問題ない、と言う意味を込めて。
三年生たち「・・・・・・。」
ミーティングが終わった後、部員全員はしばらくこの場に残った。二年が一年に、練習後の後片付けを指示している一方で、三年たちはそのまま話をしていた。
池田「・・・このまま練習しても良いって。じゃあどう引退すればいいんだ?」
吉田「・・・そうだな。試合もないんなら。」
篠崎「でもよ、今辞めたって、ヒマになるだけじゃん。」
和山「いや、その分勉強できるじゃん。」
池田「お、真面目だな。確かに受験だもんな。」
長野「俺はまだするぜ。もしかしたら可能性があるかも知れんからな。」
篠崎「・・・何の?」
長野「試合に決まってるだろ。まだ一か月あるんだぜ。」
吉田「そうかな?」
長野「そうだろう。まだ覆るチャンスはあるんだ。今ここですぐに決断しなくても良いだろ。」
そう長野が力強く答えると、周りもまだ諦めずに引き続き練習しようという、そんな雰囲気に包まれた。とある一人を除いては。
小椋「ふっ、やんのかよ?だって中止って言っただろ?大人たちがそう簡単に変えるかよ。」
と小椋はクスっと笑って周りに伝えた。一瞬この場の時間の流れが止まった。